2007年9月13日、国連において「先住民族の権利に関する国連宣言」(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peaples)が採択された。これを受けてわが国でも昨年6月に衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択された。政府はアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会を設置し、アイヌ民族の生活向上や権利回復の新たな政策を検討することになった。懇談会は今年の夏に提言をまとめる方針である。昨年10月13日から15日にかけて、懇談会による北海道での現地視察が行われ、アイヌ関係者との意見交換が行われた。今年になってから、有識者懇談会が21日に首相官邸で開催され、その際に意見交換の概要も公表された。
この件に関して、マスコミでどう報道されているか調べてみたが、asahi.com> マイタウン> 北海道で懇談会開催のことが触れられていたが、意見交換の概要については全く報道されていなかった。政党機関紙の赤旗ではその件に関して報道がなされていた。一般紙のアイヌ民族に対する認識の低さには驚かされる。今後、日本が単一民族説の虚構を打ち破って共生社会へ向かっていくためにも、無視できないと思える問題であると思えるのにだ。
なお、首相官邸HPの「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」のページで、今回の意見交換の概要公表の内容を知ることができる。また、国連における宣言文や、各種資料も掲載されているので、関心のある方は是非ご覧ください。( http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainu/index.html )
なお、asahi.com> マイタウン> 北海道に記載されていた記事の概要は次の通り。
「国連における先住民族の権利に関するアイヌ政策、有識者懇 3月にも基本理念」
2009年01月22日付
政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(座長=佐藤幸治・京大名誉教授)が21日に官邸で開催された。3月中にもアイヌ民族の歴史認識を踏まえてアイヌ施策を考える上での基本的な理念を取りまとめる方針を決定。佐藤座長は懇談会終了後の記者会見で、「民族が辿ってきた歴史を客観的におさえ、政策を考える出発点としたい」と述べた。アイヌ民族に関する歴史を踏まえ、座長代理の世界人権問題研究センター所長の安藤仁介氏が3月中に、アイヌ施策に対する基本的な考え方を整理する予定。
意見交換の概要は、前掲HPで知ることができますが、一部を紹介します。
☆札幌市
「日本が本当の意味の多民族国家、多文化共生の社会になるようにしてほしい」
「アイヌに関する普及・啓発を行い、アイヌとして生きていけるようにしてほしい」
「土地・資源・領域に関する権利が認められておらず、アイヌ文化を実践したいと思っても材料の採取などが大変むずかしい」
☆白老町
「アイヌ民族・文化への無知からくる一言に傷つくことが多い」
「依然として差別がありアイヌであることを言えない状態がある」
「アイヌ文化や知識や技術を学んだだけでは生活が成り立たないので、これを仕事に結びつける雇用の場がほしい」
☆平取町
「生活困窮者が多く、国の責任でもう少し面倒をみるべき」
「この北海道の山・川の使用に対して、アイヌは意見を言う権利がある」
「差別されたからうんぬんはもう終わった話で、これからはお互いに手を取り合って大事にしていかなければならない」
なお、有識者懇談会は1年間の議論ののち提言をまとめて終了するが、それで問題検討がすべて終了するのではなく、今後はアイヌ民族も参加しての継続的な政策を議論する機関設置も求められている。我が国において真の多民族・多文化共生社会が発展することを切望する。
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