叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」 十四

2010年03月15日 | 小説「目覚める人」

 北条小源太 十四

 そのころ小源太の家臣斉藤彦四郎は、由比ヶ浜通りを東に名越坂に
向かって馬を駆けていた。
由比ヶ浜通りは西に行くと大仏坂を通って京に行く道に通じているの
で、まだ人通りがあった。人通りを避けて海岸を行こうかと思った
が、時間がかかるのと馬の疲労を考えて街道を行くことにしたのだ。
    
 郎党の源八が後ろに続いていた。早駆けすると通行人を驚かすので
若宮大路を過ぎるまでは馬の足のままに任せていた。
月は無く星明りの下に三善邸の大きな屋根が左にみえてきた。

 彦四郎がそろそろ早駆けしようかと思ったとき、ちょうど道は橋に
かかった。馬の前足が橋にかかった時だった。突然、

  ザブッ、
と水をはねる大きな音がして何やら白いものが川の上に飛び跳ねた。
音に驚いたのか馬が一瞬立ち止まった。

  何だろう。

星明りのもとで橋の下に目を凝らしていると、ザブッ、と前よりも大
きな音をたてて、真っ黒いものが水の中にもぐっていった。

  なんだ、鯉だったのか。

さっき白く見えたのは鯉が腹をみせてはねたのだ。ふと彦四郎は妻の
白い顔を思い出した。小源太に命じられてすぐに飛び出したので妻に
言う間がなかったのだ。

 とのの事だから使いを出して事情を話しておいてくださるだろう。

 彦四郎はそう思いすこし安心した。

続く



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