叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」 三十四

2010年08月11日 | 小説「目覚める人」

 法華経の行者 八  

 小源太は、変事が起こるのは軍の気が乱れているからだ、との兵書
から聖職者と言われている僧侶の風紀の乱れをそれとなく憂いていた
が、これほどまでに堕落していようとは思っていなかった。
僧侶にはかまうな、と義昭に言ったのはそのような事があったからだ
った。

 次の日の朝、小源太は三郎夫妻と朝食をともにし、帰宅する二人を
玄関まで送った。居間に戻るとちょうど義昭が来た。

「父上、昨夜は火事場から大仏坂の持ち場に廻って、家中の者の無事
を確認して参りました。遅くなりましたのでご報告ができませんでし
た。」

「ご苦労だった。それはよくお気付きだったな。警固の者たちは変わ
りなかったか。」

「はい、一同元気で持ち場を固めていましたのでご安心ください。」

 幕府は山を切り開いて、鎌倉に通じる道路を作り、北条一門や有力
御家人を、この切通しの警固に当たらせていた。
前方の海から攻めてこない限り、切通しを通らずに鎌倉の町の中に軍
を進めることは不可能だった。軍都鎌倉は要塞のように警固に守られ
ていて、義昭の軍は大仏坂の警固を受け持っていたのだ。

「それで、火事のほうはどうじゃった。」

「はい、火元は寿光寺で庫裏の一部を除いて全焼しましたが、風もな
かったのでまわりの民家への類焼は少なくてすみました。」

「ほう、それは良かったの、火元の寺のほうは変わったことはなかっ
たか。」

 続く  



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