叙事詩 人間賛歌

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「目覚める人・日蓮の弟子たち」四十二

2010年09月18日 | 小説「目覚める人」

 法華経の行者 十六   

 風で庭に散った枯葉を片付けたりょうは、囲炉裏のある茶の間でお
茶を飲んでいた。外で冷えた体に、囲炉裏の火と熱いお茶は寒気を吹
き飛ばすようで心地よかった。

娘の香はじいやについて出て行ったまま、まだ帰っていなかった。
昨日、じいやが川に仕掛けたウナギ取りの竹筒を引き揚げ、中に入っ
た獲物を捕りに行ったのだが、香も見たいと言ってついて行ったの
だ。

 <まるで男の子みたいな勝気な子だわ>

りょうは香のことをそう思っていた。香のいない家の中はシーンとし
て静かだった。りょうは、行方の知れない母のことに思いをめぐらせ
た。母の梅のことを思い出す度に、忘れられない光景が脳裏に蘇って
りょうは、眉をひそめるのだ。

 それは、りょうが十六歳になった夏の日のことだった。
手習いの師匠のところでつい遅くなり、急いで家に帰ったときだっ
た。見慣れない男物の履物が玄関の土間に脱いであった。京に行って
いる父は帰っていないはずだが、誰か客でも来ているのだろうか、
りょうは不審に思いながら、

「ただいま」

と言って、座敷の方に行こうとした時だった。仏間のある奥の部屋で
女のうめくような声がした。

 <なんだろう、>

思わず足音をひそめてりょうが奥の間に近づいたとき、それまで聞こ
えていたうめき声が途絶え、突然女が悲鳴をあげた。
りょうが聞いたことがない言葉だった。
 たしか、「あれえー 」と叫んだようだった。

薄暗い家の中に慣れたりょうの目に入ったのは、母親とは思えない梅
の姿だった。
裸になった梅の体に、馬乗りになった男が両手で乳房を掴み、激しく
腰を上下に動かしていた。

つづく