前回の続き、
パリの女性はセーヌ河に身を投げて死んだが、
三木リエはどうなったのだろう。
大川の堤防で、リエは自分の心を変えようと決意したのだ。
夫を憎み、二女を手ごめにしたヤクザを憎み、
三女を発狂させたシウトを憎み、
期待を裏切って死んだ長男を恨む、
そんな心とオサラバしょうと思ったのだ。
「そうだわ、もうくよくよして、いつも悲しむのはよそう。
これからは、どんな小さなことだっていいから、
好いこと、嬉しいことを見つけるよう、自分の心を変えていこう。」
と決心したのだ。
リエはその日を境に生き方を変え、目を見張るほど変化した。
いままで気づかなかったのが不思議なぐらい、
好いこと、楽しいことが自分の周りに満ちているのが分かったのだ。
母親の変わった姿を見て、精神に異常をきたしていた、
二人の娘が正気を取り戻した。
やがてリエの家には、悩みを抱え、
どうしてよいか分からない人たちが、
教えを乞いに、訪ねてくるようになった。それらの人たちにリエは、
「病気を治すのではなく、心の病を治せ」と訴え、
のちに有名な社会啓蒙家になったのだ。
世界的ベストセラー『死の瞬間』のなかに、著者キュプラー.ロスが、
医学生のころ、アウシュビッツのユダヤ人収容所跡を見学したときの話しがある。
ロスが見学をおえて収容所の外に出た時、ちょっとした事件が起きた。
一人の見知らぬ少女が、突然近づいてきてロスにこう言った。
「やさしそうな顔をしているけれども、あなただってヒトラーになれるわ」
少女の出現が唐突だったのと、コトバの内容が衝撃的だったので、ロスは
思わず足をとめた。
続く