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[SF] アルファ・ラルファ大通り

2017-02-08 20:51:13 | SF

『人類補完機構全短篇(2) アルファ・ラルファ大通り』 コードウェイナー・スミス (ハヤカワ文庫 SF)

 

《ハヤカワ文庫補完計画》における《人類補完機構全短篇》の2巻目。

第1巻における《人類補完機構》の目的が、人類“文明”の復活と繁栄だったのに対し、第2巻では目的は人類“文化”の繁栄に移っていったように思える。

宇宙開発的なネタはせいぜい「酔いどれ船」くらいで、これも第1巻の「大佐は無の極から帰った」の焼き直しであり、再話であるがゆえに発見された宇宙は宇宙3である必要があったわけだが、これ以降の歴史で宇宙3が人類へ影響を与えたというネタは出てこない。

科学技術の発展は文化的に復古主義を呼び、ついには〈人間の再発見〉に至るなんぞ、皮肉が効いている。これは60年代のラヴ&ピース文化や、SFがスペースオペラの時代からニューウェーブの時代へ移り変わっていった影響もあるのだろう。

巻末に収録された「シェイヨルという名の星」に出てくる《人類補完機構》の代表が語る思想は非常に優しい。全体主義ともとれるような、かつての厳格で厳しく、人類原理主義とでもいうべき思想とは大きな隔たりが見える。

しかし、不思議なことに、この短編がスミスの晩年に書かれたというわけではないのだよな。これは、運よく物語がハッピーエンドとなっただけで、《人類補完機構》の背景思想は変わってないと解釈した方がいいのだろうか。

そして、《人類補完機構》といえば忘れてはならない猫少女のク・メル。さらに、犬少女のド・ジョーン。往年のSFファンたちが心酔したヒロインたちである。当時の熱は残念ながらわからないが、ク・メルといえば、シャンブロウと並んでセクシーなキャラクターとして今でも有名なくらいであるから、きっと相当なものだったのだろう。そういえば、コードウェイナー・スミスとノースウェスト・スミスって何となく似てるね。

彼女たちは、ある意味、もえキャラの元祖であり、ケモナーの元祖でもあるわけだが、彼ら下級民の処遇改善の歴史も大きな流れとして語られるべきだろう。

ド・ジョーンの物語である「クラウン・タウンの死夫人」では、まるで『エンディミオン』じゃないかと思ってしまった。語り手が思わせぶりに「凄いことが起こった。何が起こったかはみんな知ってるでしょ」的に意図的に時系列を混乱させているあたりや、もちろん最後の火あぶりのシーンなど、まさにアイネイアーを想起させる。ダン・シモンズは、当然この話を読んでいると思うけれど、同じジャンヌ・ダルクから着想を得たというだけで、関係は無いのだろうか。

そして、解説にも興味深いことがたくさん。訳語が分かれていた“Instrumentality of Mankind”をどのように訳すかということで、伊藤氏と朝倉氏が議論して《人類補完機構》に決まったということも初めて知った。よくぞ、この魅惑的な名前を選んでくれたものだ。