神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 最後にして最初のアイドル

2017-01-18 21:11:18 | SF

『最後にして最初のアイドル』 草野原々 (電子書籍のみ)

 

第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作にして、SFコンテスト史上最大の問題作。

神林長平に「本作が最終選考の場にあるのは何かの間違いではないか」と言わしめた挙句、電子書籍のみ120円(税抜き)という破格の値段で配信された。なお、『伊藤計劃トリビュート2』に収録された模様。マジか。

ラブライブの二次創作だとか、初出はpixivだとか、ちょっと良からぬ方向のシロモノなのかと思いきや、なんとまぁ想像以上にステープルドンでびっくりした。タイトルだけのパクリなんかではなく、本質的なオマージュだった。つまりこれはラブライブの二次創作であると同時に、『最後にして最初の人類』の二次創作でもあるわけだ。

さすがに文章には書き殴りレベルの雑さがあるが、それが内容とよくマッチしていて勢いに繋がり、迫力と疾走感さえ与えている。そこまで考えて、敢えてこうした文体を選んでいるかのようだ。

第1期、第2期などのアイドル用語をうまくSF的に解釈し、アイドルの本質をSF的に解き明かすことに成功しているという、まさに怪作。

電子書籍で120円というチープな値付けも、この世界観を成立させる要素になっていて、早川書房の英断を讃えたいと思う。

思えば、かつて、ケータイ小説なるものがあった。『あたし彼女』は散々ネタにされつつも、ひとつの文学の可能性を見せてくれたのだった。この『最後にして最初のアイドル』は、それを越える文学の、あるいは“SF小説”の新たな可能性を開いたのかもしれない。

この調子だと、やる夫がSFコンテストに投稿してもおかしくないぞ。乗るしかない、このビッグウェーブに。

 


[SF] ヒュレーの海

2017-01-18 20:39:43 | SF

『ヒュレーの海』 黒石迩守 (ハヤカワ文庫 JA)

 

第4回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。その2。

冒頭から何やら意味不明のコンピュータ用語やらプログラミング用語やらが飛び交い、その世界設定の説明を少年少女の問答でやってしまおうというところでくじけそうになった。

僭越ながら、当方、ソフトウェア開発でお金をもらっているゆえ、それぞれの単語の意味は分かる。しかし、それが本気と書いてマジと読むレベルの怪しげなルビとして使われる度に、専門用語を初めて知った子供が意味も分からずに口にするようないたたまれなさを感じてしまった。まるで、カンマの存在を初めて知ったチャーリイ・ゴードンが嬉々として「,」を打ちまくるかのようだ。

この世界観を塩澤編集長のように「造語の格好よさ」と見るか、小川一水のように「正直かなり滑っていた」と見るかで、評価は両極端に分かれそう。

少年少女が“外”に出てから物語は急に動き出してスピード感は出るのだが、そこまでがあまりに退屈だった。どうせ科学的というより魔術的な世界であるのだから、説明段階をブッ飛ばしていきなり本題に入っても良かったのでは無いかと思う。

作品世界の解釈については、選評で神林長平が指摘しているような、我々が生きている世界の未来としての延長線上に地続きに繋がってるような感触がまったくしなかった。

シミュレーション仮説なんて、今となってはありふれたアイディアなのに、それを補強するような材料は提示されなかった。どちらかというと、作品世界の現実であるBR自体が、我々の現実世界におけるシミュレーションのような感じを受けた。まさに、ゲーム空間だとわかっているときのリアリティの無さというか、アニメじゃない感の無さというか。

文体もストーリーも完全にラノベ的フォーマットに思えたし、ハヤカワSFコンテストに期待しているものはコレジャナイ感が随所に溢れていて、とても残念だ。

普段は「ラノベの定義は文体でもストーリーでもなくレーベルに過ぎない」という主張を支持するのだけれど、どう読んでもこれはラノベでしかなかった。まあ、“リアル・フィクション”って、もともとラノベと区別がつかないもののだから、それで良いのか。