『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』 大森望/日下三蔵編 (創元SF文庫)
毎度おなじみの年刊日本SF傑作選2015年版。
毎回、そりゃSFじゃないでしょうと言いたくなるような作品や、これが傑作かと疑われる作品が混じっているのだけれど、今年は割と好みのものばかりでよかった。
もはや常連の方々もいれば、お初にお目にかかりますという方もいて、バリエーションも申し分ない。これならば、SF読んでみようかという初心者にもとっつきやすいのではないか。
それにしても、同人誌、twitter、はては、ハガジンまでと、編者お二人のアンテナの高さというか、幅広さには感心する。総量ではいったいどれだけ読んでるんだろう。
○「ヴァンテアン」 藤井太洋
ついに日本SF作家クラブの会長にまでなってしまった藤井太洋。こういうお題での発注もこなせる人だとは思っていなかった(失礼!)ので、ちょっとびっくり。それにしても、他の人とかぶらず、21になるものを探しだすというのは、なかなか大変そう。
○「小ねずみと童貞と復活した女」 高野史緒
わかるものからわからないものまで小ネタ満載小説。それにしても、サイモン教授には何度読んでも噴き出すわ。
○「製造人間は頭が固い」 上遠野浩平
再読。いろいろな方面への伏線として読めておもしろいので、統和機構モノ好きは必読。
○「法則」 宮内悠介
「ヴァン・ダインの二十則」はミステリが従うべき規則であるが、これを文字通り守ると、途端にドタバタコメディSFになるというのは趣深い。
○「無人の船で発見された手記」 坂永雄一
何とも壮大な神話だが、SFファン同士のバカ話っぽいところもあって楽しい。
○「聖なる自動販売機の冒険」 森見登美彦
お久しぶりの森見短編。まだはっちゃけ切っていないので、ちょっと不満。
○「ラクーンドッグ・フリート」 速水螺旋人
こっちの方が森見登美彦じゃねーかと思ったら、ちゃんと著者コメントで言及されてた。なお、同ネタは新井素子にも。
○「La poesie sauvage」 飛浩隆
おお、Strandbeestではないか。風力ではなくて言葉の力で動くというあたりが、飛さんらしくて素敵。
○「神々のビリヤード」 高井信
ずいぶん懐かしいお名前。現役だったのか!
○「〈ゲンジ物語〉の作者、〈マツダイラ・サダノブ〉」 円城塔
これまた円城塔らしい作品。ソフトウェアとしての文学というネタはもはや鉄板。こういう形で自然言語解析/生成を研究しているネタはほかにあるのだろうか。
○「インタビュウ」 野﨑まど
バカっぽくてたいへんよろしい。
○「なめらかな世界と、その敵」 伴名練
この人は毎年すごい作品を書いてくる。この結末は到底ハッピーエンドには思えないのだが、可能性を託す先があるからこそ可能性を捨ててでも友人を救いたかったということか。
○「となりのヴィーナス」 ユエミチタカ
自分探し(物理で)。
○「ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査」 林譲治
“例の物件の建設”ということで時事ネタなのかと思いきや、最後に出てきたアレは欠陥物件というほどのものだったっけと不思議に思う。
○「橡」 酉島伝法
相変わらずの酉島ワールドなのだが、気持ち悪さを乗り越えるのに努力が必要になってきて、もうダメかもしれない。
○「たゆたいライトニング」 梶尾真治
エマノンって懐かしすぎ。
○「ほぼ百字小説」 北野勇作
twitterでフォローしてるので企画は知っていたけど、内容をあまり覚えていないのはどうしてか。納戸奥のスナイパーがツボ。
○「言葉は要らない」 菅浩江
実はIHIメカトロ部門が就職の第一希望だったので、いまさらながらなんだかムズムズする。
○「アステロイド・ツリーの彼方へ」 上田早夕里
AIの身体性というのはAIの研究ネタとして大きいものだと思うのだが、これは何となく微妙。AIの複製可能性についてはどう考えているのか。バニラが旅立った時には身体付きだったのか。タイトルのアステロイド・ツリーは拡散のイメージのためだけに登場させた
のか、それとも、地球外生命体としての位置づけが重要なのか。あまりに疑問が多すぎる。
○「吉田同名」 石川宗生(第7回創元SF短編賞受賞作)
読みながら『 〔少女庭国〕』を思い浮かべたが、選評でも言及があったので笑った。こういう一発ネタをSF的思考で広げられるというのは割と稀有な才能だと思う。
ところで、伴名練がユエミチタカに言及しているのだけれど、この二人の関係は?