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[SF] 世界受容

2015-05-06 23:59:59 | SF

『世界受容』 ジェフ・ヴァンダミア (ハヤカワ文庫 NV)

 

《サザーン・リーチ》三部作の完結篇。

ストルガツキーやレム、J.G.バラードらの諸作に比較されるが、確かに断片的にはそれらを彷彿させる展開だった。しかし、やっぱりこの小説の面白さはSF的よりもホラー的なのではないかと思った。

第1作の『全滅領域』では、何も知らされずに〈エリアX〉の調査へ赴かされた第12次調査隊の隊員〈生物学者〉の視点で〈エリアX〉の謎が語られる。

第2作の『監視機構』では、やはり知識の無い新局長である〈コントロール〉の視点で、〈エリアX〉の外側からその謎に迫り、逆に〈エリアX〉を管理する機関である〈サザーン・リーチ〉の謎に飲み込まれていく。ここでも謎は広がるばかり。

第3作では前作の主人公たちに加え、〈エリアX〉内部に存在する灯台の〈燈台守〉と、前局長=第12次調査隊の〈心理学者〉の視点で過去が、すべての発端が語られる。そして、オリジナルの〈生物学者〉のその後や、〈生物学者〉のコピーである〈ゴースト・バード〉と〈コントロール〉が〈エリアX〉へ再潜入してからの顛末が語られる。

結局のところ、〈エリアX〉の正体はほのめかされるだけであるし、〈地形異常〉の果てに消えた〈コントロール〉の行方も、副局長と共に外へ向かった〈ゴーストバード〉の運命も、拡大を始めた〈エリアX〉の外側の世界がどうなっているのかも、まったくわからないまま物語は終結する。すなわち、物語の主眼はそこには無い。

〈エリアX〉は目的も理由も原理も説明されないまま、謎は謎のまま。明らかにされるのは、〈エリアX〉出現の経緯と、故郷に対する前局長の想いだけだ。

リアルに異質な〈エリアX〉の生態系と、その怪異に直面した人々の反応(それをニューウェーブ的にインナースペースと呼ぶべきかどうかはわからない)は、それはそれで面白いし、謎めいた前局長の行動の動機が明らかになる過程はある意味で謎解きのカタルシスを与えてくれる。しかし、それでは〈エリアX〉がただの書き割りに過ぎず、あまりにももったいない。

〈エリアX〉の正体や世界の結末が謎のままに残されてしまったことで、消化不良のもやもや感がどうしても大きく残る。これではまるで、怪異の原因が明らかにされない不条理なホラー小説のフォーマットと変わらないではないか。

で、結局、タイトルの『世界受容(ACCEPTANCE)』は誰が何を受容したんだろうか。