神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 外交特例

2014-04-20 23:02:03 | SF

『外交特例』 ロイス・マクマスター・ビジョルド (創元SF文庫)

 

マイルズ・ヴォルコシガンシリーズの最新作。

原題の“Diplomatic Immunity”は普通の訳語的には外交特権だけれども、Immunityには免疫という意味もあるらしい。相変わらず、ビジョルドのタイトルの付け方はおもしろいな。

前回の結婚式に続き、マイルズとエカテリンの新婚旅行から話は始まる。もちろん、マイルズの新婚旅行がただで済むわけではなく、『自由軌道』の世界で、ネイスミス時代の副官ソーンとともに、種族間のぶつかり合いをきっかけとして、その裏に隠れた壮大な大事件へと巻き込まれていく。

最初は、バラヤーでの結婚式に参列できなかった面々の顔見世興行的な軽いエピソードかと思ったのだけれど、そんなことはまったくなく、またもやマイルズは死にかけ、バラヤーも死にかけることになる。

のっけから、人工授精時のビデオに早くも親馬鹿なマイルズがほほえましいが、これが実は最後に明らかになる大陰謀に関係無くもない。隠しテーマは遺伝子と子供たち、といったところか。

ささいなきっかけの事件が恐るべき陰謀に、というのは、言ってみればいつものパターンなのだけれど、今回は特にややこしい。偶然のつながりがあらぬ誤解を生み、風が吹けば桶屋が儲かるがごとく連鎖していく。

実は偶然だった、というのはミステリでは悪手なのだけれど、それがかえってこのシリーズっぽいと思えるのはとてもおもしろいとことろだ。

結局、偶然の事件が無ければ、この犯罪計画は犯人の思い通りに運んでしまっただろうということを考えると、まさにバラヤーの危機、マイルズの子供たちの未来は非常に危ういバランスで断崖絶壁にぶら下がった状態だったということ。

ミステリ的な面白さよりも、ここの考えオチな怖さが際立っていた。

そして、今回もエカテリンが素晴らしい。さすが、マイルズの愛した女性である。死へのカウントダウンが始まったマイルズへ向かって、エカテリンがかける言葉が感動的で泣きそうだった。マイルズを愛し、理解すればこその言葉だ。

さて、次はマイルズの子育ての話になるのだろうか。ずいぶん長く続いているシリーズだけれど、この手のスペースオペラで3世代の物語というのも珍しいんじゃないか。『ガンダムAG』Eか!

 


[SF] オニキス

2014-04-20 22:00:53 | SF

『オニキス』 下永聖高 (ハヤカワ文庫 JA)

 

第1回ハヤカワSFコンテストの最終候補作品を含む短編集。

どの作品も、アイディアの根幹は夢見がちな少年が一度は夢見た世界というか、とてもありがちな話。同じネタで2chにスレが立ってても違和感がないくらい。それを普遍的というならば、そうなのかもしれない。

そうはいっても、オリジナリティのある仕掛けも多々あり、ただのパターン通りというわけではない。

そのあたり、『みずは無間』や『テキスト9』のようなぶっ飛び感は無いものの、“ちゃんと書けている”という感じがすごくする。

量産ペースはわからないけれど、これぐらいの水準をコンスタントに書けるならば、一般小説の分野でもやっていけるんじゃないかと思った。


「オニキス」

時間線がどんどん書き換わっていく世界で、自分だけがそれを認識できる装置を付けたらどうなるのか。それが、2重3重に解釈できるラストオチにつながる。

ここで明らかにされたものは本当に真相なのか、そういう時間線に移動しただけなのか。繰り返されるモチーフは確かに結末への伏線にはなっているのだが、なんとなく釈然としない。

不条理とまではいかないが、とても釈然としない感じが気持ち悪くて、独特な読後感だった。


「神の創造」

この装置、すごく欲しい。部屋の散らかり具合が世界の歴史を作っていくというアイディア。

この手の文明シミュレーションゲームは少なくないけれども、偶然の要素が大きすぎてすぐに飽きるんだよね。こうやって、現実と密接に絡むと、部屋もきれいになるし、一挙両得(笑)

物語としての結末もさわやかでよかった。


「猿が出る」

猿の幻覚に悩まされるという、世にも奇妙な物語風の序盤から、真相が明かされる中盤では、よりホラーがかった展開になって行くのだけれど、最後はちょっとほのぼのとした結末を迎える。でも、その先にまた不安が……。

という、上がったり下がったりの激しい作品だった。

猿の性格付けはちょっとニヤニヤする。


「三千世界」

「オニキス」と似た設定だが、今度はスマホ風のナビ装置を使って、自由に時間線を飛び回る話。

騙したり、騙されたり。主人公の逃亡者は誰を信じればいいのか混乱する中、早いテンポで敵味方が激しく入れ替わる。

結末も「オニキス」の変種ともいえるかもしれないので、実は同じプロットから出発した作品なのかもしれないが、個人的にはこっちの方が好き。アニメや映画の原作になりそう。


「満月」

これまたちょっと毛色が違う作品。おそらく、著者の体験から生まれたリアルな気持ちを描いたもの。

生きるか死ぬかは、ちょっとした選択の先に分かれているという感覚は、時間線を渡り歩く「オニキス」や「三千世界」へつながる原体験になっているのかもしれないと思った。