神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] S-Fマガジン2017年12月号

2017-12-18 22:35:20 | SF

『S-Fマガジン2017年12月号』

 

「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART2」。今回は1988年の『1999年の夏休み』から、2004年の『ハウルの動く城』まで。

このあたりは大学生でSF研に所属していたこともあって、かなり見ている。懐かしい。

先頭の『1999年の夏休み』なんて、レンタルビデオで割と初期に借りたもので、メジャーじゃないビデオ、しかも、アイドル主演の百合系ってことで、レジに持っていくのにかなり躊躇した甘酸っぱい記憶が。客の趣味なんて、店員には知ったこっちゃないのに、自意識過剰だったんだろうな。

しかもこのビデオ、その後に声優になっちゃった宮島依里とか、深津絵里になっちゃった水原里絵とか、川合俊一と結婚した中野みゆき(「毎度お騒がせします」にも出てた気がするんだけど、勘違い?別人?)とか、出演者もインパクトあるうえ、原案は『トーマの心臓』だし、「ウテナ」や「あの花」にも影響を与えたとか、与えてないとか、いろいろネタが詰まった作品であり、内容も“死”という概念に対する多感な時期の少年少女たちの複雑な感情を、オカルトなのかファンタジーなのかSFなのか紙一重な感じで描いており、とてもおすすめなので、ぜひ。

という感じで、一作一作ごとに、その作品というか、当時の大学生活が思い出されて、なかなか感傷深い特集だった。

『ブレードランナー 2049』関連の記事は、わざと読まずにおいて、映画を観たあとで読んだ。いちいちうなずける内容で納得。4人の女性たちの物語というのは、ちょっと言い過ぎのような気もするが、確かに女性キャラクターの印象が強い作品だった。

 


○「天岩戸」草上仁
ごめん、これは企画倒れだと思う。

○「忘却のワクチン」早瀬耕
元北大生としては、校歌のエピソードに大笑い。ネタ的に『未必のマクベス』にかぶる部分があって興味深い。

○「花とロボット」ブライアン・W・オールディス
オールディス追悼の掲載としては悪くないんだけれど、SF小説としてはどうなのか。

○「と、ある日のシンプル・イズ・ベスト」宮崎夏次系
「アンタがさっきみんな捨てたでしょ」の破壊力。かくて、部屋にはガラクタが溢れる。

○「ペルソナの影」 谷甲州
航空宇宙軍史って、図書館で借りて読んでたから持ってないのよね。買って読み直すべきか、まだ迷っている。

○「マルドゥック・アノニマス」冲方丁
バロットの卒業式でののどかな描写が、かえってこれから起こる惨劇を予言しているようで怖い。

○「忘られのリメメント」三雲岳斗
急展開続きで、さらに訳が分からなくなっていく。これってわざと連載を意識してやってるのか。

○「プラスチックの恋人」山本弘
これで完かよ。マジかよ。議論は深まらず、狂信者が勝つという後味の悪さ。もしかして、描きたかったのは非実在ロリぺドの是非ではなく、無敵の人の無敵っぷりだったとか。

あれ、藤井太洋の「マンカインド」はどこにいった?

 


[SF] 隣接界

2017-12-11 23:08:57 | SF

『隣接界』 クリストファー・プリースト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

『奇術師』や『双生児』でおなじみのプリーストの新作。

この人の作品は、まさに気持ちよく騙されることが多いので、それを期待して読んだのだけれど、なんとなく肩透かしを食らってしまった感じ。

これまでの作品のモチーフがちりばめられ、一部の登場人物も再出演するので、プリーストの集大成というか、オールキャストの特別版といった感じ。プリーストの過去の作品を知っているならば、ニヤニヤしながら読める。そういう意味では、初心者向けというより、プリーストの作品を読み切った人が最後に読むべき本かもしれない。

しかしながら、モチーフの使い方があまりに露骨で、プリーストおたくが書いた二次創作のようなうさん臭さも感じる。なんだろう、この感じ。

メインとなるストーリーの舞台は、イスラム勢力によって政治的に支配されたイギリス。世界は異常気象と戦火による混乱の最中にある。そんな世界の中で、主人公のカメラマンは謎の消失現象に巻き込まれる。これは兵器による攻撃なのか、事故なのか。はたまた、ただの悪夢なのか。

そして、そのメインストーリーの合間に、第一次世界大戦で航空機を消す方法の研究を依頼された奇術師、第二次世界大戦でポーランドから亡命してきた女性パイロットのエピソードなどが挟まれる。

それらのエピソードは、さらにあの《夢幻諸島(アーキペラゴ)》へと繋がっていく。

テーマは明らかにいわゆる“並行世界”であり、物理学的な裏付けっぽいエピソードも出てくるが、おそらくうさん臭いのはこのあたり。

プリーストの作風は、ファンタジーともSFともつかない、科学的ではなくても論理的ではあるような、そんな危ういバランスで成り立っている。そこを、SF寄りに説明しようとして失敗したような、そんな感じを受ける。

アーキペラゴのプラチョウスに舞台が移ってからも、それぞれのエピソードは微妙にずれていて、ねじれている。そもそも《夢幻諸島》とは“そういうもの”だと理解していたけれども、それを「隣接界」として説明されてしまうと、なんだか途端に色褪せてしまった感じがして、なんだかせつない。

プリーストが描きたかったものは、第一次世界大戦、第二次世界大戦のエピソードが出てきて、さらにイスラムに支配されたイギリスが舞台であり、それをもうひとつの有り得る現実としての「隣接界」として描くことによる効果として、これはもう明らかであると思う。

しかしながら、それはプリーストらしからぬ直球すぎて、誰かがプリーストを騙って書いたのではないかという印象を受けてしまった。

さらに言うと、メインストーリーにおける幾多の謎は解明されないまま放り出されているのも不満だし、《夢幻諸島》が冥府下りの類型の舞台のように使われてるところも不満。こういう舞台設定なのであれば、あなたの愛した人は並行世界の別人、ぐらいな意地悪な世界であっても良かったのではないかという気がしてならない。


[映画] IT

2017-11-29 23:23:38 | 映画

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

 

諸事情あって、久しぶりの映画鑑賞。

『IT』と言えば、スティーブン・キングの最高傑作にして、アメリカでTVドラマ化された際にはピエロ恐怖症を生み、赤い風船にトラウマを発症したひとびとを量産した最恐の物語。

という知識はあったが、原作も読んでいないし、最初の映像化も見ていないので、これが初見。

結果としては、素晴らしかった。R15なのがもったいないくらいの、13歳、14歳の少年少女が見るべき、勇気と友情と成長の感動物語。ホラーなのに、見終わった後でこんなにさわやかなのは珍しい。

もちろん、いきなりスプラッタだし、腹も切られるし、腕も折れる。びっくり系の演出も多く、心臓が弱い人は見ない方がいい。かといって、最恐ピエロのペニーワイズは怖いというより気持ちが悪いだけだし、“それ”が見えても、ぜんぜん終わんないし、不良たちの方がよっぽど怖い。

これはかなり意図的にやっているのだと思うけれど、ペニーワイズは子供たちにとって一番怖いものとしてやってくる。それは壁に掛けられた絵だったり、突然やってきた生理だったり、死んだ弟のいない家だったりする。そして、その恐怖を共有できる仲間にしか、“それ”は見ることができない。

それでも、彼らは己の恐怖に立ち向かい、乗り越え、成長する。まるで、シリアスな『グーニーズ』みたいなものだ。

陰気ドモリ、過保護病弱、宗教息子、饒舌ゲーオタ、転校生デブ、貧民、DV被害少女など、スクールカーストの底辺にいる“Losers' Club”の面々が、「Welcome to the Losers' Club!」の叫びとともにペニーワイズを袋叩きにするシーンは思いのほか痛快だった。

しかし、“それ”は少年時代特有の幻想、集団幻覚、もしくは、記憶の改変と解釈することもできるように、用意周到に演出されていると思う。それ故に、あのシーンは、下水道に暮らすホームレスを少年たちが集団リンチするというシーンにも解釈できるというのが個人的にはポイントが高かった。それこそが、ホラーってもんでしょう。

で、これは第一章に過ぎなく、ラストシーンで誓いを立てたLosers' Clubのメンバーが大人になって再開してからが本番らしい。本当に怖いのはこれからなのだろう。きっと。

 


[SF] 忘れられた巨人

2017-11-29 22:34:12 | SF

『忘れられた巨人』 カズオ・イシグロ (ハヤカワepi文庫)

 

ノーベル文学賞受賞作家の作品というと、どのようなイメージがあるだろうか。高尚で、難解で、政治的メッセージに富み、作品そのものよりも作家の社会的位置付けが重要であるような、個人的にはそんなイメージだった。

だいたい、以前に意識して読んだノーベル賞受賞作家は大江健三郎くらいだし、そもそも読んだのは『治療塔』なんてSFとしてはクソみたいな話だったし。ほかには『蠅の王』のゴールディングがノーベル賞受賞だったのをついさっき知ったくらい。万年候補の誰かさんの作品も、なかなかノレないものが多いし。

ところが、カズオ・イシグロの作品は、そんなイメージとはまったく異なる。特に最近の二作は(といっても寡作な人なので10年の間隔はあるが)いわゆる純文学ではなく、私小説ですらなく、エンターテイメント小説とか、ジャンル小説とかに分類されるべき作品だと思う。

前作の『わたしを離さないで』は、“いま”とは異なるパラレルワールドを描いた紛れも無いSFだった。そして、この『忘れられた巨人』はさらに凄い。

舞台設定は中世ファンタジーだ。アーサー王が平定した後のブリテン島が舞台。人間関係から村を追われるように旅に出た老夫婦を主人公に、竜退治のフォーマットに従った物語が描かれる。

さらに、この作品はミステリでもある。世界は記憶を奪う霧に覆われている。人々は少しずつ何かを忘れ、何かを失っていく。本当に物忘れの原因は霧なのか。この世界にはいったい何が起こっているのか。この謎を解明していくことが物語の背骨になっていく。

そしてまた、この物語はたったひとつのIFから始まっている。そこから、当時のブリテン島の社会情勢や生活風俗を外挿し、世界を構築していく。この手法は、世界を丸ごと創造するハイファンタジーというよりは、まさにSFの描き方を踏襲している。

さらにもちろん、恋愛小説でもある。主人公の老夫婦が交わす言葉には深い信頼感と愛情を感じることができて、微笑ましい。ふたりは失われた過去に苦しみながらも、それを乗り越えていく。まさに王道の恋愛小説。

ファンタジーでミステリでSFで恋愛小説で、それでいて、ゴチャゴチャせずに美しく物語を描いている。さすがに凄いと思った。

しかも、ノーベル文学賞にふさわしい社会的テーマ、政治的メッセージを兼ね備えている。タイトルの“忘られた巨人”の意味に気付いたとき、ちょっと鳥肌がたった。それが指し示す、現代社会における“忘られた巨人”の存在に思い至ったとき、恐怖と無力さに慄くしかない。

著者のカズオ・イシグロはこのテーマをユーゴスラビア紛争から着想したそうだが、日本にも忘られたどころか、半分目を覚ましかけた巨人が居座っている。

臭いものに蓋のごとく、巨人は霧の彼方に忘却されたままの方が良いのか、あるいは、負の連鎖を断ち来ることは可能なのか。隣人を愛せよとの言葉はむなしく、深い霧もいずれは暴かれる。はてさて、いったいどうしたものか……。

 


[SF] ゲームの王国

2017-11-16 22:45:39 | SF

『ゲームの王国(上下)』 小川哲 早川書房

 

いやー、びっくりした。まごうことなきSF巨編だった。

上巻を読み終わった時点では、マジックリアリズムの良作かもしれないけれど、これのどこがSFなのか。また汎SF拡大主義者に騙されたかと思った。

しかしながら、下巻を読み終わった時点で評価は逆転。なんというSFか。世界がひっくり返るこの感覚こそ、センス・オブ・ワンダーなのだよ!


上巻は暗黒時代のカンボジアを舞台に、シハヌーク、ロン・ノル、そして、ポル・ポトへと支配者がかわっても、不条理と暴力に苦しみ続けた人々が描かれる。その中で聡明な少年ムイタックと、聡明な少女ソリヤは、運命的な出会いから、それぞれが生き抜くためにもがいた末、悲劇的な事件へと至る。

彼らの共通の夢は、社会が、人生が、公正なゲームであること。そのためのルールとは何か。ルールのルールとは何か。そもそも、ゲームとは何か。そういった主題が繰り返し語られる。

下巻では民主化の進む近未来(2023年)のカンボジアで、政治の頂点に上りつめようとするソリヤと、過去の悲劇的な事件ゆえ、それを阻止しようとするムイタックが描かれる。ムイタックの武器は、あくまでゲームだけ。

楽しめないゲームはルールが悪い。ならば、楽しむことをルールに織り込んでしまえばいい。そんな発想を、ほんの子供の頃からしていたムイタックが作り上げたゲームとは。

それを詳しく語るとどうにもネタバレになりそうなので、やめておく。とにかく読むべき。


そして、上巻をもう一度“思い返す”のだ。ヒントはいくつもある。

かつてのムイタックとソリヤのゲームの勝敗はどうだったのか。不思議な力を持つ村人は本当に存在するのか。ソリヤの夫であるマットレスの経歴はポル・ポトのインタビュー(これはGoogleで検索してね)と関係があるのか。

ついでに、P120関連では事象関連電位を検索してもおもしろい。ポケモン事件とかも出てくるよ。(ムイタック教授はググれカス好き)

そういうことをいろいろ考えると、物語世界はくるっとひっくり返るのだよ。まさに、物語、革命、想像力を主題とした規格外のSF巨編だった。