リスペクトコラムです。
村井さんの「Jの金言」シリーズですが、どうやら第23回で終了された様子。なので、今回は残りの第21回から23回まで3つをリスペクトコラムしたいと思います。バドミントン界でお忙しいはずなのに、村井さんのインタビュー記事とか最近もよく見かけますね。
【Jリーグだけで決めていたら観客は戻ってこなかった…異例の「サッカーと野球の合同会議」が実現したワケ】(第21回)
〔きっかけはジャイアンツオーナーの視察だった〕
「――連絡会議の発足はどのような経緯ですか。
【村井】あれはコロナ発生前、Jリーグが2019年シーズンの終盤に差しかかった頃でした。読売ジャイアンツのオーナーで読売新聞グループ本社の社長でもある山口寿一さんが「V・ファーレン長崎を視察したい」と言ってこられました。
「ジャイアンツといえば東京」と思っていた私は「なんで長崎なんだろう」と思いましたが、「ジャイアンツの経営を全国規模で考えた時、地域とのつながり、絆の作り方をJリーグから学びたい」というご意向と聞きました。」
〔Jリーグの考え方を説明したら「一緒にやりましょう」〕
「――年が明けると日本でも新型コロナの感染拡大が始まります。
【村井】そうです。それでJリーグは、2月25日に第2節以降の中断を決定するわけです。その時、川淵三郎キャプテンから「スポーツ界で一番最初に中断を決めたのだからNPB、相撲協会、Bリーグといった他の競技の団体に一言、伝えておいたほうがいい」とアドバイスをいただき、NPBと連絡を取ったところ、2日後に山口さんとのアポイントが入っていることに気がつきました。
それで予定通り27日に読売新聞の本社を訪ねて「Jリーグはこういう考え方で中断の意思決定をしました」と直接ご説明したところ、山口さんのほうから「情報交換をして一緒に対策をやりませんか」とお誘いがあり、「ぜひやりましょう」と二つ返事で合意しました。
〔なぜ雲散霧消することなく40回も続いたのか〕
「【村井】もうドタバタの中でのスタートですよね。ただこの時、拘わったのは連絡会議の「座組み」です。何としても専門家の力が必要だと思いましたし、JリーグとNPBだけの内輪の話し合いにしたくもありませんでした。NPB側からのアドバイスをもとに、感染症の専門家である東北大学名誉教授の賀来満夫先生に座長をお願いし、他に2人の先生に加わってもらって専門家チームを作りました。疫学、統計調査の専門家や地域アドバイザーの先生がたにも参加してもらいました。
この専門家チームのアドバイスを指針にJリーグ、プロ野球双方で知見を共有し、それぞれが対策を決めるスタイルにしたことが、会が雲散霧消せず40回も続いた理由だと思います。」
〔感染予防から情報開示、トレーニングのやり方まで〕
「【村井】もう一つ拘ったのは、決まったことをプロセスも含めて逐一、世間に発表することです。大きなことを決めていなくても2週間に一度、必ず記者会見を開く。そうすることで連絡会議が天日干しになりますし、専門家の知見を社会と共有できます。
われわれはJリーグのため、NPBのためにこの連絡会議をやっていたわけではなく、コロナ対策という世の中の大きな関心事について、われわれがハブになって成果を社会に還元する。そうすると社会のほうから「もっとこういうことを知りたい」というフィードバックがあり、それをわれわれが専門家と議論して結果をお返しする。そういうサイクルになっていきました。」
覚えていますね、この当時の事。確か、2月に第1節を開催してすぐに中断になり、その後にNPBとの連絡会議が始まったと記憶しています。こう言ったら叱られるかもしれませんが、感染対策はNPBよりJリーグの方が厳密だったイメージがあります。スタジアムでもNPBの試合会場でヤジなど大声が出ていたという報道を何度か観た覚えがあります。
確かにこの時期に時々(2週間に一度ですか)記者会見があったように思います。この辺りは村井さんの「天日干し」論に沿ったいい考え方で、専門家の知見を社会と共有できるというのも良かったですね。
【それまでJリーグの試合は土日だけだった…全クラブが反対した「金曜開催」が2018年からスタートした理由】(第22回)
〔「平日開催」はDAZNからの提案だった〕
「――そもそも「定期的に平日開催を取り入れよう」という話は誰が言い出したのですか。
【村井】(2017年シーズンからJリーグの全試合をネット配信している)DAZN(ダゾーン)さんです。最初のシーズンが終盤に近付いた段階で「こんな変革が必要なんじゃないか」という提案がいくつかあり、その中に「平日開催」が入っていました。
〔「日本の文化に馴染まない」「コアサポーターが離れていく」〕
「――DAZNが「平日開催」を提案した理由は何ですか。
【村井】ライブで試合を配信するDAZNさんの立場で言えば、一人でも多くの視聴者を獲得したいわけです。すべての試合が週末に集中していると、同時刻に複数の試合が開催されることになり、ライブでは視聴者はその中の1試合しか見られない。平日開催を取り入れて試合を分散させれば、視聴者は多くの試合をライブで見る機会が増えます。
実際に欧州ではトップリーグの試合が月曜日や金曜日にも開催されていて、視聴者の裾野を広げる効果も分かっていました。「欧州はこうやってファンの裾野を広げてきた。日本でもやってみてはどうか」というDAZNさんの提案を聞いた時、私自身は「なるほど一理あるな」と思いました。
――ところが周囲は大反対。
【村井】実行委員会に諮はかったところ、見事に全クラブが反対でした。当時の議事録を見ると「金曜開催は困難」と書いてあります。」
〔短期の利益と中長期の目標、どちらを優先すべきか〕
「――気持ちは伝わってきますね。
【村井】そうですね。各クラブとJリーグの間に立つチェアマンには両側から強烈な磁力が働くわけです。各クラブの経営者にとっては目の前の1試合、1シーズンが全てなんですね。いかにチームを強くして、スタジアムを満員にして、その年度を黒字にするか。3シーズン連続で赤字だと退会というルールもあったりしますから、もう必死です。明らかに観客動員が減る平日開催なんて、絶対にやりたくないわけです。
一方Jリーグのほうには「百年構想」をスローガンに5年、10年の計画で日本の文化の中にサッカーを定着させよう。サッカーの普及によって日本の社会を良い方向に変えていこうという中長期の目標もあるわけです。
平日開催にすると、確かに土日にスタジアムに来てくれていた人の何割かが仕事で来られなくなってしまう。でも土日が仕事で平日にしか来られない人もいるはずで、そうした人たちがスタジアムに来てくれればサッカーファンの裾野が広がります。5年、10年の単位で考えれば、そちらのほうがいいかもしれない。」
〔「2000万円」で理事がピクッと反応した〕
「――全チーム反対でも、簡単に諦めるわけにはいかない。
【村井】朝の会議は全会一致の「開催は困難」で終わったのですが、日中にスタッフと相談して、想定される逸失利益をJリーグが補う方法を考えました。減った入場料収入をそのまま補塡ほてんするわけにはいかないので、平日開催のプロモーション費用をJリーグが負担する形にしました。平日開催という新たな市場創造にJリーグが投資をするわけです。
クラブには、そのお金でグッズを配ってもらったり、ビアパーティーを開いてもらったりする。逸失利益は約2000万円と弾きました。」
〔「せっかく平日開催するのなら…」仰天プラン〕
「結局その日は「やりたいクラブが手をあげる」という方向で話がまとまりました。Jリーグの職員に頼んで、翌日以降に全クラブに個別に電話をしてもらいました。「本当のところはどうなんですか」と。そうしたら「ファン層の裾野を広げるという考え方も理解はできるので、シーズンに17試合あるホームゲームのうち1試合くらいならチャレンジしてみてもいい」というクラブがJ1クラブのうち大半に至りました。」
〔「反対多数」という状況は本気度を示すチャンス〕
「――平日開催の効果はどうでしたか?
【村井】ライブ配信が分散したことでライブ視聴数は過去最高を記録しました。さらに大きかったのは世の中にJリーグの情報が流れる頻度が増えたことです。金曜日の夜の試合だと、前日の木曜日にネット配信などで試合の告知をします。好カードならテレビも「明日は首位攻防」といった具合にスポーツニュースで取り上げてくれます。」
「フライデーナイトJリーグ」ですね。これより数年前に、世の中で「プレミアムフライデー」という個人消費喚起キャンペーンが始まり、タイミングが良かったと思います。元はDAZNの提案だったのですね。確かに週末は忙しいが、仕事帰りに行きたいというサラリーマン層もいいかもしれません。確か昔(ヴェルディ戦だったか)、平日ナイトゲームでCスタで1万人入った試合があったと思います。やり方によっては集客できるのではないでしょうか。ただ、あくまでスポーツ観戦は週末という文化も根強く、平日に来たライト層がそのまま週末にやってくるのは期待しすぎかもしれません。
あと、このコラムで気になるのが、「平日開催のプロモーション費用をJリーグが負担する形にした」「逸失利益は約2000万円と弾いた」「1試合くらいならチャレンジしてみてもいいというクラブが大半」。この辺りは見方を変えれば今もめている「秋春制」に取って変わって語れるなと。逸失利益をリーグが負担する部分。でも秋春制はチャレンジするとしたら長い期間になるので、一緒には語れない。あと、今季も金曜開催は1試合ばかりというのも現状。
【会社の「座席表」は本当に必要なのか…固定席から自由席に変えたJリーグが大成長を遂げられたワケ 心のバリアが消えるだけで人は変わる】(第23回)
〔書類が積み上がっている机を避けて通るような状況〕
「【村井】昔ながらのオフィスレイアウトで、書類が積み上げられた机を避けるように、従業員が周囲に寄り集まって朝礼を開いたりしていました。席に戻っても机には書類が座っているといった具合です。一方でチェアマン室は広々としていて、お客さんがいないときはその隅っこでポツンと仕事をするわけです。チェアマン室の横には少し小ぶりな専務室もありまして。そんな立派な部屋ですから、社員からするとドアが重いというか、なかなかに入りにくい。」
〔役員部屋にいるだけでは、社内の様子はわからない〕
「――そこで思い切って2017年からフリーアドレス制の導入に踏み切るわけですね。リクルートやリクルート・エージェント時代にフリーアドレスは経験されていたのですか。
【村井】していません。私にとっても初めての試みでした。しかし前回お話ししたように、6つの事業会社という、それぞれ閉じた組織の中で仕事をしていた状況を変え、Jリーグの社員200人がワン・チームとして動くようにするためには、役員室をなくし、フリーアドレス制を導入するのが一番だと判断したのです。
自分の席が決まっていて、朝一番でそこに座ると、人間はどうしてもほっこりしてしまいます。空いた場所を見つけてパソコンを開き「さあ、今日は誰とどんな仕事をするんだろうな」と考えたほうが、ワクワクするし緊張感もありますよね。」
〔組織中心からテーマ中心に働き方が変わった〕
「――6つの事業会社が一つになり、慣れ親しんだ自分の席もなくなって、現場に混乱は起きなかったのですか。
【村井】混乱より発見のほうが多かった気がします。私も席がなくなって、オフィスにいるときは空いている席を見つけて座るのですが、そうすると隣の社員が電話でクレーム対応している様子が手に取るようにわかる。「ああ、今現場ではこんな問題が起きているのか」というのを、じかに感じられるようになりました。これは役員室にこもっていたら絶対に触れられない情報ですね。」
「それぞれの心の中にあるバリアを取り払うこと
――部屋をなくす、組織をなくすだけで、働き方というのはそんなに変わるものなのですね。
【村井】一番のポイントは社員それぞれの心の中にあるバリアなんです。「私はこの組織に所属しているのだから、その壁を越えた話をしてはいけないのではないか」とか「自分は役職のない社員なのでチェアマンに直接会いに行ってはいけないのではないだろうか」とか「Jリーグで働いている自分が他の競技団体の人と仕事をしていいのだろうか」とか。
これらはすべて心の中にあるバリアの問題ですね。これを取り払っていけば、いろんな人との出会いが生まれ、そこから新しいアイデアが生まれて、新しいサービスができていきます。」
オフィスのフリーアドレス制で、これは村井チェアマン時代によく聞いた話です。Jクラブでフリーアドレスにしているところは皆無でしょうから、模範事例としてはいいのでは。「心の中にあるバリア」を打ち破る話ですが、村井さんだからできた話であり、じゃあうちもやるかなとは、なかなかいかないと思います。わからない世界なので、これ以上はコメントできません。
村井さんも、バドミントン協会の会長就任が近いので、今はお忙しいことと思います。バドミントン界のリスペクトで頭がいっぱいなのでは。サッカー界とは違って、伏魔殿的な部分もあるかもしれないし、腕の見せ所ですね。村井さんネタでは、これも先日終了したYouTube「Jリーグチャンネル」の「Jリーグの井戸を掘った人達」シリーズを今度は紹介させていただきます。川淵さんの回は注目大です。また近々リスペクトさせていただく予定です。
村井(前)チェアマン関連⑱:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230603
〃 ⑰:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230513
〃 ⑯:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230422
〃 ⑮:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230308
〃 ⑭:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20221221
〃 ⑬:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20221120
〃 ⑫:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20220716
〃 ⑪:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20220520
〃 ⑩:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20220502
〃 ⑨:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20220403
〃 ⑧:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20220211
〃 ⑦:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20211202
〃 ⑥:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20180721
〃 ⑤:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20160917
〃 ④:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20160206
〃 ③:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20150731
〃 ②:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20141225
〃 ①:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20140116
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