明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

三浦しをんの『舟を編む』に感動した。

2011-12-16 22:05:01 | 
今年は読書量が激減した年だった。
さらに、有吉佐和子や川端康成やらを再読していることも多く、新刊といえば、シリーズで読んでいるものを買うくらいがほとんどで。
(「みをつくし料理帖」シリーズなど)

だけど、今年最後の最後に、こんな素晴らしい本に出会えたことに感謝!

三浦しをん『舟を編む』


彼女の作品はそれほどたくさん読んでいるわけではない。

『私が語りはじめた彼は』
『むかしのはなし』
『まほろ駅前多田便利軒』
『風が強く吹いている』
『光』
『まほろ駅前番外地』

くらいだろうか。
好きになったのは、『まほろ・・・』を読んでから。
これを読んだ年も、たぶんこの本がその年のベストだったんじゃないだろうか。
そして、こんな年の暮れも迫った今になって、今年の私のベストはまた彼女の『舟を編む』になった。

久しぶりに、いい本を読んだ、と思った。
ハラハラと手に汗握ったり、ドキドキワクワクと続きがやめられなくなるようなストーリーではない。
もう少し淡々と、静かに、でもとても情熱的な想いを秘めて物語は進んでいく。

(ここからはネタバレも少しあるので、それが嫌な人はここでストップして先は読まないでね!)

大まかに言えば、『辞書』を作る編集部の話だ。
どうやって辞書というものが作られるのか、それがよくわかる。

物語の構成は、大きくは前半後半の2つに分かれる。
前半は、27歳の馬締くんが辞書編集部に抜擢され、『大渡海』という国語辞書を編纂する仕事を通して、
少しずつ自分を変えていきながら、恋もする。そんな話。
ほのぼのとして、ちょっぴり漫画チックなところもあり、まあ、なんということはない。
前半の終わり頃、別の編集社員の視点に物語が移った頃から、少しずつのめり込んでいく自分を感じる。
なんだろう・・・?
高校時代、ひたすら無意味なほどに部活を頑張っていたこととか、
みんなでひとつのものを作り上げた文化祭とか、
そういう感覚をふと思い出した。

後半(というのも、私が勝手に分けたのだが)は、編集部に異動してきた新しい社員の視点で始まる。
馬締くんももちろん登場する。
新入社員は初めて馬締を見たときにこう思う。
「この主任と呼ばれている人は、40歳くらい?」

そこで、読者は気づく。
ああ、もうあれから13年以上の年月が流れたのか、と。

その瞬間から、何かわけのわからない熱いものが自分の中からこみ上げてくるのを感じた。

だって、13年以上たつのに、まだ『大渡海』は完成していないのだから。

私をはじめ、言葉が好きで好きでたまらず、それを生業にしようなんていう人間は、ほとんどがそうだと思うのだが、
辞書が好きだ。
わりとすぐに辞書をひく。(今はネットで調べることも多いが)
だから、普通に思っていた。
「辞書ってどうやって作るんだろう?」
「どんな人が作ってるんだろう?」と。
この世で最も尊敬するに値するような人物だとも思っていた。
言葉を、言葉で説明するなんて。
言葉を操る人間にとったら、これこそ究極だ。

そういう人たちが、物語の中のこととは言え、13年以上経ってもまだ1冊の辞書を作り続けている。
心が震えないわけがない。

1つ1つの言葉を大事にし、いつも用例採集をしていた松本先生。
その松本先生をずっと支え続けてきた編集者、荒木。
そして、辞書作りの面白さを知り、没頭し続けてきた馬締。
その他、幾人かの協力者たち。
こんなにも熱く何かに没頭できる人たちがいるのかと、それを見ているだけでたまらなくて、後半はずっと涙が止まらなかった。
(たぶん普通は泣かない。私が感情移入しすぎ)

もったいなくて、少しずつ読んだ。
ただストーリーを追うのではなく、大切に見ていきたかった。ひたむきに生きる人たちを。

こんなにも物語は淡々と静かなのに、なぜこんなにも自分の心は熱くなるのかと、不思議なくらいだった。

いわゆるハッピーエンドで得られるような読後感とは違うけれど、
とても清々しく、希望をもてるようなラストだった。
単純に、いい本に出会えた!感謝!と思った。

ドラマティックな展開も、メッセージ性も、殺人も、激しい恋愛も、人を感動させるための必須条件ではない。
ただ、そこに、ひたむきに生きる人たちを描けばいい。
それは不器用で、葛藤を抱えていて、でも熱くて、前を向いている人たち。
その生き様を見れば、人は感動するんだ。
・・・そんなことを感じさせてくれた本だった。

言葉の海は本当に果てしない。
だから、その向こうを見たくて、私も言葉を紡ぎ続けるのかもしれない。

最新の画像もっと見る