『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・『新日本紀行』テーマ音楽/SOUND アーカイヴ:Vol.1

2013年03月09日 22時02分31秒 | □Sound・Speech

 

 1963(昭和38)年10月7日。NHKテレビ番組『新日本紀行』の第1回目がスタートした。以来、1982(昭和57)年3月10日までの18年半に製作された本数は793本に上る。その第1回目に選ばれた都市は「金沢」(石川県)だった。栄えある「初回」に選ばれた理由は、この「番組創り」のために地方各局に呼び掛けたとき、最初に反応したのが金沢支局であった由。その当時の熱心なスタッフは、後にこの番組のデスクに迎えられる。 

       ☆

 この「テーマ音楽」の作曲者が冨田勲氏であることは、多くの人が知るところだ。この曲のように、「やまとの国・日本」を、また四季折々の移ろいとその美意識を感じさせる曲は少ない。老若男女を問わず、日本人に懐かしさと愛しさを抱かせ、また慕われた……いや、今でも慕われている。だがこの「曲」は、番組スタート当初からの「テーマ曲」ではなかった。

  ところで、金沢時代の熱心なスタッフとは菅家憲一氏。氏はデスクとなるわけだが、同番組に対する力の入れ方は特筆すべきものがあったと、高柳氏は語る。

 手始めに菅家デスクは、テーマ音楽を変えるため冨田氏に作曲を依頼する。完成した曲の収録日、全班員がスタジオに集合した。収録が無事終了したとき、菅家デスクは感想を述べた。『どうも物足りない』と。高柳氏は続けて語る――。

  『……皆が固唾を呑んで見守るうち、冨田勲さんが楽器倉庫から、やおら、魚の骨のような形の楽器をひっぱりだしてきた。カーン、カーンと、あの打楽器音が加わり、力強い曲の流れに、一層の迫力を増した。“はい、これで決まり!”(菅家)デスクの満足気な声がスタジオに響いた。』

       ☆

 それにしても、この「カーン」という高い木の音――。2回に分けて各12、計24回鳴っている。……何処から聞こえて来るのだろうか。ずっと遠い所からのような……それでいて親しみと恋しさを感じさせるような身近な感覚……。なんとも不思議な安らぎと落ちつきをもたらすとともに、大切なものを探り当てたような気持にさせられる。

  何よりもこの「木の音」は、いろいろなものを想像させる。……森林の奥から響き渡る樹の切り出しの音。人里離れた村はずれにポツンと立っている路標。朽ち果てて行くばかりの社や東屋……その佇まい。村を去らなければならない人……それを見送る人。互いに遠ざかって行く小さな道……そのずっと先に一点となって消えようとする……。

 無論、四季の風物も映し出す。“日本人による日本人のための日本の原風景”を音楽として表現したと言える。聴くたびに、新たなイメージが湧いてくる。筆者の独断だが、この「カーン」という「清澄な木の響き」によって、《原風景》に神聖さと郷愁とがいっそう加わったと思う。

       ☆

 それにしても、テーマ曲完成の際に『物足らない』と言った菅家デスク。そして、それにすぐに反応して「曲に木を入れた」冨田氏。まさしく“阿吽の呼吸”というものだろう。

  『その菅家さんも今は亡い』と高柳氏――。菅家氏の葬儀の日、読経に併せてこの「テーマ曲」すなわち『新日本紀行』が境内に流れていたという。……ひょっとしてこの曲は、ある人々にとっては『鎮魂歌』でもあるのかもしれない。

 よりよいものを創ろうと情熱を傾ける人々がいる限り、優れた素晴らしいものが残される。

       ★   ★   ★

 ※冨田勲(とみたいさお)  1932(昭和7)年、東京生まれ。作曲家、シンセサイザー奏者。NHKの『新日本紀行』『きょうの料理』をはじめ、大河ドラマ『花の生涯』『天と地と』『新・平家物語』『勝海舟』『徳川家康』等のテーマ音楽を作曲。

 

 ◎NHK『新日本紀行』テーマ曲/作曲:冨田勲

 


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6 コメント

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誕生秘話に感謝 (J.F生)
2013-03-10 08:36:21
 冨田氏の曲はどれも好きです。中でもこの「新日本紀行」は特別ですね。その音楽の誕生秘話を知り、新たな気持ちで拝聴しました。ありがとうございます。
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「誕生秘話」万歳! (shuri)
2013-03-10 11:34:08
 冨田氏もさることながら、かつての菅家デスクも凄い人ですね。そういう「凄い人たち」の「あくなき執念と感性」のコンビネーションによって「名作」は生まれるのかもしれません。コメントありがとうございます。
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新参者です。お見知りおきを。 (通称:GORONBO)
2014-05-05 21:04:48
 初めてのコメントです。NHKの「小さな旅」のテーマ曲のU-Tube動画を視聴したとき、花雅美様のコメントを発見しました。そこから、同じ動画の「新日本紀行」のコメントを拝見し、この記事にたどりついたという次第です。
 ぜひ「小さな旅」の記事もお願いします。
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近々、「小さな旅」を (shuri)
2014-05-05 22:11:51
 ありがとうございます。こちらこそ、どうかお見知りおきを。
 
 実は、『小さな旅』については近々、原稿をと思っています。『新日本紀行』も『小さな旅』も、そのテーマ音楽は「日本の原風景」と言う点では共通していると思います。

 両者の違いは、後者が「人との関わり」に重点を置いているということでしょうか。ナレーターの国井雅比古及び山田敦子の両アナウンサーが、まれに「旅人」として登場するのも、この番組の特徴です。

 今しばらく、お待ちください。
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新日本紀行の主題曲 (satoka)
2014-07-06 21:00:27
新日本紀行はモノクロ時代と、カラーフィルムになってからでテーマ音楽は変わっており、最早古すぎて誰も覚えていないのだと思います。ご本人も「内幸町のNHKの吹き抜け階段で拍子木のような楽器を叩いて音響を調べた」などと仰っていますが、1968年までのテーマ音楽にはそのようなものは登場せず、穏やかな日本の風土を感じさせるのびのびとした音楽でした。ホルンから始まる「あの新日本紀行」は69年から使われ、以後、日本の心象風景の原型を語る名作として広く認知されました。野分がイメージの原点、と作曲者は語るが、これははるか以前のテレビ黎明期に放映されていたカメラルポルタージュ「日本人の素顔」への先祖返りの曲調で、それに折しもベトナム・学園闘争などで揺れ動く社会を描いた「現代の映像」というドキュメントの不安の旋律を引きずって「新日本紀行」に結実したと考えられます。モノクロ時代ののんびりさがなく、いきなり印象深い旋律で始まるのには訳がある、と言えましょう。
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いろいろあるのでしょうね (shuri)
2014-07-06 23:29:16
 satokaさん。ありがとうございます。勉強になりまし
た。

 「音楽は時代の雰囲気を代表する表現手段である」とは誰かのメッセージにあったように記憶しています。「そのような特定の時代の中で生きている人間」は、当然、「その時代の音楽」に影響を受けるわけでしょう。無論、作曲家も演奏家も。

 それでも、この「新日本紀行」に流れる旋律は、「およそ日本人そのものの心のふるさと」とも言うべきものかもしれません。
 
 とはいえ、これもさらに時間を経るとき変化して行くのでしょうか。はたして、どうなることやら……。
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