シンドラーの“命の放水”
33. 処分囚人の移送
駅に停車している家畜運搬用の貨車に、“選別” すなわち何らかの “処分” 対象となった囚人(※註1)がびっしりと詰め込まれ、「マウトハウゼン強制収容所」(※註2)へ送られようとしている。ただでさえ暑い日、囚人たちは僅かな覗き口から手を伸ばし、懸命に喉の渇きを訴えている――。
見かねたシンドラーは、「貨車」の屋根や覘き口への「放水」をゲートに提案し、これを認めさせます。消火栓用の「ホース」を使い、先頭に立って「貨車」に放水させるシンドラー。貪るように水を求める囚人達。ゲートをはじめ、他の将校や下士官達は、飛び入りのイベントを楽しむかのように笑いながら見ています。ゲートは、シンドラーを “物好きな男”と言わんばかりに揶揄しながら言ってのけるのです――。
「君も残酷な男だな。そんなことをしても、余計な期待をもたせるだけだ。……(茶目っ気たっぷりに) この人でなし!」
しかし、20mほどの「ホース」では、全部の貨車に放水することができません。シンドラーは、工場にある200mのホースを持って来させ、総ての貨車に万遍なく放水が行き渡るよう指示します。自らもホースを使いながらのシンドラーの真剣な様子に、ゲート達の笑いは一切消え、沈黙とともに何やら神妙な表情に変わっています。
ことに、“アーモン・ゲートの表情” に注目してください。 “哲学的懐疑” ……?!
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★ 「DVD」ではここからが「ディスク:2」となっています。
「焼却の丘」と「赤い服の幼女」
34. 死体の焼却処理
「ディスク:2」がスタートしてすぐ、丘の上に黒い煙がもうもうと立ち込めている。街中では、“大粒の何か” が降り注ぎ、シンドラーが、車に積もった “その何か” を手で掃き寄せている――。
もうお判りですね。死体の焼却による「降灰」です。「画面」に、以下の「キャプション」(説明文)が出ます。
【 1944年4月 「フヨヴァ・グルカの丘」―「プワシュフ収容所」と「ゲットー」で殺された犠牲者1万人余の死体に焼却命令が出た。】
煙が立ち上る丘の上に、「アーモンゲート少尉」と「オスカー・シンドラー」もいます。ゲートが言い放ちます。
「プワシュフ(収容所)は閉鎖。全員、アウシュヴィッツ(収容所)送りだ!」
焼却される死体が、「二輪車」で運ばれて来ます。ハンカチで鼻を抑えたシンドラーの眼に、あの「赤い服の幼女」が「死体」となって二輪車の上に横たわっているのが見えます。食い入るように見つめるシンドラー。
35. 別れの杯?!
シンドラーと「ユダヤ人会計士」の「イザック・シュターン」が話をしている。なにやら深刻の様子。「プワシュフ強制労働収容所」が “閉鎖” され、“全員がアウシュヴィッツ送りになる” 模様。それは “ガス室送り” すなわち “死” を意味している――。
もちろん、ユダヤ人の「シュターン」も、「アウシュヴィッツ絶滅収容所」送りとなるわけです。しかし、シンドラーは、“救済” のための「特別措置」をゲートに頼むと言います。シュターンは、シンドラーの「DEF=ほうろう容器工場」の経理チェックのため、ゲートのオフィスで働かされています。そのため、シンドラーも自分が雇った部下ではあっても勝手なことはできません。
シンドラーはシュターンに告げます。
「私は故郷へ帰る。望み通り、使い切れないほどの金を貯めた。……この戦争もいつか終わる。そのとき、君と一杯飲もうと……。」
しかし、シュターンは首を横に振りながら寂しげに――、
「今、飲みましょう。」
静かに見つめ合いながら、一杯のグラスを飲み干す二人。“別離” を意味しています。
36. シンドラーの一大決心――「リスト」の作成
ベッドの上で裸のまま寝ている「愛人」の姿。シンドラーは、ガウン姿で物憂げに窓際に立っている。ほんのちょっと大きな「トランク」に触れた後、レースのカーテン越しに窓の外に眼をやるシンドラー。特に何かを見ているわけではない。
スーツに着替えたシンドラー。「札束」を「トランク」に詰めています。彼は、「プワシュフ強制労働収容所」の閉鎖によって、「アウシュヴィッツ絶滅収容所」送りが決まっている「ユダヤ人」を救おうと決心したのです。
そのため、シンドラーはゲート少尉と交渉し、「チェコに新しい工場を作り、そこで働いてもらうために、現在のDEFの労働者とその家族を連れて行く」と切り出します。
その「第1の理由」は、“新しい職工を訓練する手間と金が省ける” からであり、「第2の理由」は、“砲弾や戦車砲のケースなどを作るためドイツ軍にもメリットがある” ということです。
何とか、ゲート少尉を説得したわけですが、その最大の決め手は、もちろん「お金」でした。シンドラーは、自分の身近な「ユダヤ人」を救うために、ゲートから “金銭でユダヤ人を買う” という手段を選んだのです。次のシーンは――、
★シンドラーが読み上げる名前を、シュターンがタイピングしています。まさしく、これこそ「シンドラーのリスト」そのものです。
……ドレスナー、ボルディック及びミラのべファーリング夫妻、出資者全員、子供達一人残らず……とシンドラーの口から名前が告げられ、“リストに載せられて” 行きます。シンドラーは、同じやりかたを他の「経営者」にも説いて「ユダヤ人」を救おうと呼びかけたのですが、結果的には彼一人となりました。
シュターンは、怪訝な表情でシンドラーに尋ねます。「ゲートをどう説得したんです? よく引き渡してくれましたね。」そう言ってシンドラーを見つめながら、気付いたようです。
「あなたが金を出して買ったので?」
「君なら金がかかりすぎると反対しただろう」
シンドラーは、「リスト」の “最後に一人分” のスペースを空けるよう指示し、作業の終了をシュターンに告げます。
シュターンは、“打ち終えた”ばかりの“最後の1枚” をタイプライターからはずし、重ねた総ての「リスト」をシンドラーに見せながら――、
「これは善のリストです。生命(いのち)のリストです。この紙の外は死の淵です」
☆
このあと、“最後の一人分” として「ヘレン・ヒルシュ」を想い描いていたシンドラーは、ゲートとのやりとりの果てに、ゲートの「メイド」をしている彼女の獲得に成功します。(続く)
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※註1 「ユダヤ人」以外にも「一部の犯罪者」や「政治犯」などもいたようです。
※註2 所在地は「オーストリア」。「マウトハウゼン」はドナウ川左岸の丘に囲まれた町。この収容所には、「アンネの日記」の著者アンネ・フランクの、隠れ家での恋人と言われた「ペーター・ファン・ペルス」(ユダヤ人)も収容されていました。彼は、1945年5月5日の解放当日に死去したとされています(17歳)。
なお「アンネ」が最後に収容されたのは「ベルゲン・ベルゼン強制収容所」(ドイツ・プロイセン州)であり、彼女は1945年2月か3月初め頃にチフスにより15歳で死去したようです(※姉のマルゴーはその数日前にやはりチフスにより死去)。