それにしてもこのたびの豪雨はまさに驚天動地。わが人生最大の降雨であり、氾濫といえるかもしれない。24日金曜の夜、幹線道路を車で通っていた時、まるで水中翼船を走らせているような気分になった。明らかに自分の車が水を分けて走っている。タイヤに水の抵抗を感じはするものの、車体は少し浮いていたはずだ。水の上を滑って行くような感覚があり、正直言って心地よかった。そのため、ついその気になってやや興奮気味にハンドルを握っていた。
何とか家に帰りついてテレビをつけた。放映されている画面の外枠に「避難警報」が報じられ、「避難対象地域」とその「避難先」が表示されている。……草香江1丁目、2丁目…避難先:草香江小学校、六本松公民館。田島1丁目…避難先:田島小学校。鳥飼4丁目……。思わずハッとした。いずれもわがマンションから近く、しかも川沿いの地域だった。
結局、この「避難勧告」は土曜、日曜と続き、「避難対象地域」は拡大するばかりだった。なんと福岡県下で2万世帯以上が「避難勧告」を受けたようだ。それでも、わが町が対象地域になるはずはないと高を括り、優雅に『マントヴァーニ』オーケストラの華麗なる演奏を聴いていた。
雨音が少し落ち着いた日曜早暁。何となく眠りから覚め、また何気なく窓を開けた。外は薄暗く、また眼鏡を掛けていなかったので、よく見えなかった。しかし、得体の知れない「白い物」がいくつか動いていることに気づいた。よく見かける猫の動きにしては、やけに軽くまた落ち着いた動きだ……と思ったそのとき、眼の前の表面が光りながら流れているように感じられた。「白い物」は水に浮いた発泡スチロールの箱だった。
やっと眼が慣れて来た。その眼に映ったのは、道路に溢れた雨水であり、ようやく意味を理解した私は窓際に近づき、マンションの玄関アプローチに眼を落した。紛れもなく水が押し寄せている。
しかし、今さらジタバタしたところでどうなるものでもない。そう腹を括ったものの、一応、玄関とドアの下端に眼をやった。雨水が浸入した気配はまったくなく、何事もなかったかのようにシンとしている。
やはり「RC=Reinforced Concrete(鉄筋コンクリート)」と「玄関ドア」の“気密性”の高さが物を言う……“気密性”が高いということは、それなりの“水密性”も期待できる……と自らに言い聞かせながら、大いに納得していた。
それにしても得手勝手なものだ。普段は安藤忠雄氏の『打ち放しコンクリートの建築』を称賛しながらも、「素材」としてのコンクリートについては、“呼吸もできないデカオモ野郎”と、その“馬鹿でかさ”と“重さ”に悪態をつくばかり。
だが、今回はさすがに“神様、仏様、水神様、そしてRC様……”と感謝の意を込めてRCの壁とドアを撫でまわし、華麗なる『マントヴァーニ』のメロディに、いつしか眠り落ちて行った……。
ところが、水が退いた昼過ぎに《衝撃の事実》を悟った。玄関からの浸水はなかったものの、木材によって床組された堀炬燵付きの和室の床が早晩ダメになるのでは……。
“ああ! 神様、仏様、水神様、エトセトラ……”
★お礼とご報告★
このたびの福岡の豪雨に際しましては、いろいろとお気遣いをいただき、心より感謝申し上げます。本文中にありますように、私の住戸はまったく被害もなく本当にありがたいかぎりでした。被害に遭われた方々に対して、大変申し訳ない気持です。今回のブログは他の原稿を予定しておりましたが、急遽、以上のようなご報告となりました。 深謝