恋は、遠い日の花火ではない サントリー・オールド
昨日土曜日、「福岡市総合図書館」で新刊書を拾い読みしました。書名は『職業 コピーライター』。著者は、元・資生堂の「コピーライター」として、その世界では知る人ぞ知る小野田隆雄氏。
自身の半生を振り返りながら、氏自身の「キャッチコピー」を中心に、そのときどきに話題となった名コピーの紹介ともなっています。
当然のことながら、氏の作品の多くは「資生堂」の化粧品関係ですが、筆者のような男性でも、唇に上るコピーがいくつかあります。 例えば―‐、
ゆれる まなざし
素肌美人
時間よとまれ、くちびるに
も氏の作品ですが、これはどうやら『ファウスト』(ゲーテ)の “瞬間よ止まれ。おまえはいかにも美しい” からヒントを得たものかもしれません(※註1)。
それにしても「時間よとまれ、くちびるに」とは、凄いそして素晴らしい表現です。
ファウストのこの台詞は、1972年の「ミュンヘン・オリンピック」のテーマフレーズ《時よ止まれ。君は美しい》にも採り入れられていましたね。
氏はその後独立して、さまざまな企業のコピーを手がけますが、筆者にとって印象深いコピーとなれば、やはり「サントリー・オールド」のコピーでしょうか。
恋は、遠い日の花火ではない
というテレビCMがそれです。
このCМでは、夕暮れの中、帰り道を急ぐ課長(俳優:長塚京三)の背中を、“ずっと見ていたい” という部下の女性社員(女優:田中裕子)。課長とは反対の方向に帰りながらも、振り返って課長を探す表情が、何とも「いじらしく、微笑ましいシーン」でした。“落ち” として、課長が飛び上がって喜びを表現する姿も効いています。
この小野田氏が、退職後に作った「資生堂」の『さびない、ひと』も、小泉今日子というピッタリの人選によって、コピーがいっそう活かされたような気がします。
★
少し愛して、長~く愛して サントリー・レッド
車を運転しながらの図書館からの帰り道、筆者の脳裏に過去の「キャッチコピー」が駆け廻り始めます。まずは――、
少し愛して、長ーく愛して
という、「サントリー・レッド」ウイスキーのもの。素直で純な女性の感覚・感性を、大原麗子はよく演じていたと思います。このシーンの彼女の表情や仕草のディテ―ルについては、自分でも驚くほど鮮明に記憶しています。
「サントリー・オールド」とは異なった「イメージ」や雰囲気という、サントリーの商品戦略でしょうが、成功していたのではないでしょうか。
個人的なことを言うと、大学時代は遥かに安い「レッド」オンリーの筆者も、自分で稼ぎ始めたこの時代は「たぬき」、すなわち「オールド」派でした。
アルコールついでに言えば、『すべては、お客さまの「うまい!」のために』(アサヒ:スーパードライ)でしょう。このコピーは、今では同社の商品全体のテーマフレーズとなっているようです。
ちなみに「キリンビール」のテーマフレーズは『おいしさを笑顔に』でした。
★ ★ ★
旧国鉄時代のキャンペーンソングともなった山口百恵の
いい日、旅立ち
もいいですね。歌詞の内容もさることながら、キャッチコピーでもある「曲名タイトル」が秀逸。あらためて作詞・作曲の谷村新司氏に尊崇の念を感じました。
旧国鉄といえば、1970年から一大キャンペンとなった「DISCOVER JAPAN」のキャッチコピーも忘れがたい秀作でしょう。
サブコピーの『美しい日本と私』も巧みであり、まさに「一億総旅人」というスピリットを、とてつもないスケールと時間を通して浸透させたように思います。(続く)
★ ★ ★
※画面は粗いようです。
※註1 :訳本によっては、「瞬間」を「時間」や「とき」としているものもあるようです。