【32】 卒業式
……訓練校の「卒業式」の日――。整列した卒業生の中にデラ・セラや黒人のペリマン、それに女性士官シーガーの姿が見える。だがザックの姿が見えない……と思いきや、ようやくその顔が映し出される。
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その後、卒業生は教官のフォーリー軍曹から簡単な祝辞を受けています。
女性のシーガーが、軍曹の前に進み出ます。
――Conglaturation. Ensign Seeger.(おめでとうございます。シーガ―少尉殿)
――Thank you, sir.(ありがとうございます。軍曹殿)
――Gunnery Sergeant, Ensign Seeger. …sir.(「殿」はやめてください)
これは、今や「少尉」となったシーガーの方が、「軍曹」のフォーリー教官よりも「階級」が「上」であることを物語っています。
次はザック・メイヨの番です。
――Conglaturation, Ensign Mayo.(おめでとうございます。メイヨ少尉殿。)
――I will never forget you, Sergeant.(軍曹。君のことは忘れない。)
――I know.(分かっています。)
――I wouldn’t have made this, if it weren’t for you.(君のおかげで卒業を……)
――Get the hell out of here.(早く行け)
――Thank you, Sergeant.(ありがとう。軍曹)
太字の「会話部分」ことに「アンダーライン」の『早く行け』という言い回しに注目してください。本来、上官(ザック・メイヨ少尉)に対して使うべき「言い回し」ではありません。それをあえてそう言ったところに、ザックとフォーリー軍曹の関係すなわち「精神的な絆」の深さといったものが的確に表現されています。もっとも、“気恥ずかしさ”もあったのでしょう。
つまり、ザックにとってのフォーリー軍曹は“父的な存在”であり、フォーリー軍曹とっては“息子的な存在”ということになるのです。
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『愛と青春の旅立ち』の「愛」については、とかく男女の「恋愛関係」における「エロス的な愛」を大前提にしているように思われるかもしれません。しかし、このシリーズの初回に示したこの映画の「タイトル」の意味を想い出してください。次のように述べていました――。
……ザックが、トライアンフ・ボンネビルに乗って基地内を走っている。
「卒業式」に関する一連の行事や挨拶回りを終えたのでしょうか。基地を去ろうとしています。その彼がやってきたのは、「次期新入訓練生」の「入校整列」の場です。
青年それぞれが、思い思いの服装に伸ばしっぱなしの髪や髭をしていますね。ザックやシドやデラ・セラやペリマンの入校時もそうでした。
この新入生に対して、教官のフォーリー軍曹は「同じようなこと」を言っています。ある新入生の出身地を尋ね、彼が『アリゾナ』と答えると、すかさずシドの時と同じように、
――たった2つだけアリゾナの名物ってやつがある。 Steers and Queers. おまえはどっちだ。角がないようだからゲイの方だな。
「Steers and Queers.」は、もうおわかりですね。本シリーズの4回目に出てきました。「Steers」(去勢牛)と「queers」(ゲイ)であり、両者の「脚韻」が、フォーリー軍曹の台詞回しをリズミカルに、また歯切れよくしていましたね。
トライアンフ・ボンネビルにまたがったまま「入校整列」の様子を見ているザックの表情に注目してください。フォーリー軍曹の「言葉の洗礼」を受けている新入訓練生の姿に、入校時の自分とシドを想い浮かべているかのようですね。
映画的には、「訓練生」から「士官パイロット」として旅立とうとしている者と、これから「訓練生」として旅立とうとしている者との対比を示しているのでしょう。
【34】 ポーラのもとへ
……ポーラが勤める製紙工場内を進み行くザック。海軍航空隊の制服に身を包み、“堂々”とまた“吹っ切れたとでもいうべき爽やかな”表情で工場内を進んで行く。制服が一段と映え、その足取りは自信と未来に溢れている。ザックが進むほどに工員たちが気付き、好奇と好意の眼差しでその後ろ姿を追っている。
ポーラのところに行こうとしているようです。しかし……、ポーラは「訓練生」時代の“単なる遊び相手”ではなかったのでしょうか。本意ではないにしても、ポーラも“仕方なく”そのことを受け入れていたはずです。なのに……。
それなのに、なぜ彼ザックはポーラを「迎え」に行ったのでしょうか。もうおわかりでしょう。
ザックは「シドの死」によって、気付かされたということでしょう。こと女性に関しては、ザックとは対極的な“純愛路線”的な考えを持っていたシド。その大の親友(シド)が叶わなかった「愛する女性との結婚」を選ぼうとしているザック。どうやらザックの選択は、親友に対する「レクイエム(鎮魂歌)」的な意味合いがあるのかもしれません。
『シド。見てるか。俺はポーラと結婚するぞ。そのために彼女を迎えに来た。よく見届けてくれよ。』
そう呼びかけているかのようです。それにしてもラストの「お姫様抱っこ」とは、いかにも時代を感じさせますね。
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このたび何とか「最終回」を迎えることができました。読者のみなさんには、大変なご心配並びにご迷惑をおかけいたしました。そのことのお詫びと各位からの励まし等のメッセージに対するお礼の言葉を、本「シリーズ完結」のご挨拶とさせていただきます。(完)
★本稿一部の修正★ 2018年4月20日の「20代の新卒」さんのご指摘により、主人公「ザック(リチャード・ギア)」が乗っていたバイクは、当初稿の「ハーレー・ダビットソン」ではなく「トライアンフ ボンネビル T140 (Triumph Bonneville T140 )でした。その根拠として、wikipediaの以下の記事を参考にしました。
◆Triumph Bonneville T140 ☚クリック
ずっと下にスクロールしてください。Мediaの初めに関係の記事が出てきます。google翻訳などをご利用ください。
以上お詫びと訂正かたがた、「20代の新卒」さんにあらためお礼申し上げます。花雅美秀理拝(2018.4.28記)
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――あ~、やっと終わったのね……。この「シリーズ」ほんとに長かったこと……。7か月もかかったのね。「1か月」とか「ほぼ2か月」という「とっても長いお休み」があるんですもの。心配なんてもんじゃないわ。
“次はどんな展開に……”って思っていたら、まったく更新の気配がなく、内容の展開よりも、“次の原稿アップはいつ?”ってことが気になって……。最後は、“無事に完結するのかしら?”って気が気じゃなかったのよ。ほんとに人騒がせな人。
“風の便り”では、歳相応の方に特有の「何とか障害」ではないかって……。「男性」もかかるものなのね、この手のものは。
……これからは今回のようなことがないようにお願いしたいわ。そこであたくしから「提案」させていただきたいの。今回は『映画を読み解く』だったでしょ。だから次回は、『時間を読み解く』というのはどう?
……ついでに、もうひとつよろしいかしら? その原稿、できれば「シリーズ物」ではなく、一回読み切りの「単発」ということで……。ぜひお願い。……ねえ? 聞いてる? あれ? 寝ちゃったの?