『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・『愛と青春の旅だち』-16(最終回)/卒業と新たなる旅立ち

2012年10月31日 21時18分53秒 | ◆映画を読み解く

 

 【32】 卒業式

 ……訓練校の「卒業式」の日――。整列した卒業生の中にデラ・セラや黒人のペリマン、それに女性士官シーガーの姿が見える。だがザックの姿が見えない……と思いきや、ようやくその顔が映し出される。

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 その後、卒業生は教官のフォーリー軍曹から簡単な祝辞を受けています。

 女性のシーガーが、軍曹の前に進み出ます。

 ――Conglaturation. Ensign Seeger.(おめでとうございます。シーガ―少尉殿)

 ――Thank you, sir.(ありがとうございます。軍曹殿)

 ――Gunnery Sergeant, Ensign Seeger. …sir.(「殿」はやめてください)

 これは、今や「少尉」となったシーガーの方が、「軍曹」のフォーリー教官よりも「階級」が「上」であることを物語っています。

 次はザック・メイヨの番です。

 ――Conglaturation, Ensign Mayo.(おめでとうございます。メイヨ少尉殿。)

 ――I will never forget you, Sergeant.(軍曹。君のことは忘れない。)

 ――I know.(分かっています。)

 ――I wouldn’t have made this, if it weren’t for you.(君のおかげで卒業を……)

 ――Get the hell out of here.(早く行け)

 ――Thank you, Sergeant.(ありがとう。軍曹)

 太字の「会話部分」ことに「アンダーライン」の『早く行け』という言い回しに注目してください。本来、上官(ザック・メイヨ少尉)に対して使うべき「言い回し」ではありません。それをあえてそう言ったところに、ザックとフォーリー軍曹の関係すなわち「精神的な絆」の深さといったものが的確に表現されています。もっとも、“気恥ずかしさ”もあったのでしょう。

 つまり、ザックにとってのフォーリー軍曹は“父的な存在”であり、フォーリー軍曹とっては“息子的な存在”ということになるのです。

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 『愛と青春の旅立ち』の「愛」については、とかく男女の「恋愛関係」における「エロス的な愛」を大前提にしているように思われるかもしれません。しかし、このシリーズの初回に示したこの映画の「タイトル」の意味を想い出してください。次のように述べていました――。

 ――『愛と青春の旅だち』の原題は『An Officer and a Gentleman』ですね。この「原題」には、“祈り”のようなものが込められているような気がします。それは最後にお話しするのがよいのかも知れません。(…中略…)(意味は)士官(軍人)であるとともに、紳士たれ』というところでしょうか――。
 
 結論的にいえば、この映画が伝えようとした“祈り”とは、“男女だけ”のものではない“家族愛”さらには“人間愛”といったものではないでしょうか。ザックとポーラ、シドとリネットという恋人同士はもとより、ザックと「父バイロン」、ザックと「自殺した母」という関係。そして、ザックとシド、ポーラとリネットという同姓同士の友情から生まれた愛。
 
 さらには、ポーラがそうであったように「父と娘」といったようなもの。無論、ザックとフォーリー軍曹との「父と息子」に似た「師弟愛」といったものもあるのでしょう。
 
 ことに、ザックとフォーリー軍曹については、途中で何度もその重要性に触れてきました。個人的には、ザックに対するフォーリー軍曹の“愛”のようなものを強く感じます。映画つまり物語の中ではひとことも触れられてはいませんが、ひょっとしたらフォーリー軍曹は、実の息子と疎遠になっているか、早い段階で亡くした……といったところでしょうか。そういう雰囲気すらにじみ出ています。
 
 
 もちろん、私の勝手な想像にすぎないのですが、現実にこのようなキャラクターが存在するとした場合、単なる“フィクション”や“ひと事”では片づけられない深い“人間観”、そして“人間(=家族)関係”が絡んでいるような気がしてなりません。
 それほど、役柄の設定に深みを感じるのです。脚本の勝利といえるでしょう。
 
 
 【33】 新たなる「訓練生入校」の季節

 ……ザックが、トライアンフ・ボンネビルに乗って基地内を走っている。

 「卒業式」に関する一連の行事や挨拶回りを終えたのでしょうか。基地を去ろうとしています。その彼がやってきたのは、「次期新入訓練生」の「入校整列」の場です。

 青年それぞれが、思い思いの服装に伸ばしっぱなしの髪や髭をしていますね。ザックやシドやデラ・セラやペリマンの入校時もそうでした。

 この新入生に対して、教官のフォーリー軍曹は「同じようなこと」を言っています。ある新入生の出身地を尋ね、彼が『アリゾナ』と答えると、すかさずシドの時と同じように、

 ――たった2つだけアリゾナの名物ってやつがある。 Steers and Queers. おまえはどっちだ。角がないようだからゲイの方だな。

  「Steers and Queers.」は、もうおわかりですね。本シリーズの4回目に出てきました。「Steers」(去勢牛)と「queers」(ゲイ)であり、両者の「脚韻」が、フォーリー軍曹の台詞回しをリズミカルに、また歯切れよくしていましたね。 

 トライアンフ・ボンネビルにまたがったまま「入校整列」の様子を見ているザックの表情に注目してください。フォーリー軍曹の「言葉の洗礼」を受けている新入訓練生の姿に、入校時の自分とシドを想い浮かべているかのようですね。

 映画的には、「訓練生」から「士官パイロット」として旅立とうとしている者と、これから「訓練生」として旅立とうとしている者との対比を示しているのでしょう。

 

 【34】 ポーラのもとへ

 ……ポーラが勤める製紙工場内を進み行くザック。海軍航空隊の制服に身を包み、“堂々”とまた“吹っ切れたとでもいうべき爽やかな”表情で工場内を進んで行く。制服が一段と映え、その足取りは自信と未来に溢れている。ザックが進むほどに工員たちが気付き、好奇と好意の眼差しでその後ろ姿を追っている。

 ポーラのところに行こうとしているようです。しかし……、ポーラは「訓練生」時代の“単なる遊び相手”ではなかったのでしょうか。本意ではないにしても、ポーラも“仕方なく”そのことを受け入れていたはずです。なのに……。

 それなのに、なぜ彼ザックはポーラを「迎え」に行ったのでしょうか。もうおわかりでしょう。

 ザックは「シドの死」によって、気付かされたということでしょう。こと女性に関しては、ザックとは対極的な“純愛路線”的な考えを持っていたシド。その大の親友(シド)が叶わなかった「愛する女性との結婚」を選ぼうとしているザック。どうやらザックの選択は、親友に対する「レクイエム(鎮魂歌)」的な意味合いがあるのかもしれません。

 『シド。見てるか。俺はポーラと結婚するぞ。そのために彼女を迎えに来た。よく見届けてくれよ。』

 そう呼びかけているかのようです。それにしてもラストの「お姫様抱っこ」とは、いかにも時代を感じさせますね。

       ☆

 このたび何とか「最終回」を迎えることができました。読者のみなさんには、大変なご心配並びにご迷惑をおかけいたしました。そのことのお詫びと各位からの励まし等のメッセージに対するお礼の言葉を、本「シリーズ完結」のご挨拶とさせていただきます。(

 

 ★本稿一部の修正★ 2018年4月20日の「20代の新卒」さんのご指摘により、主人公「ザック(リチャード・ギア)」が乗っていたバイクは、当初稿の「ハーレー・ダビットソン」ではなく「トライアンフ ボンネビル T140 (Triumph Bonneville T140 )でした。その根拠として、wikipediaの以下の記事を参考にしました。

 ◆Triumph Bonneville T140 クリック

 ずっと下にスクロールしてください。Мediaの初めに関係の記事が出てきます。google翻訳などをご利用ください。

 以上お詫びと訂正かたがた、「20代の新卒」さんにあらためお礼申し上げます。花雅美秀理拝(2018.4.28記)

 

        ★   ★   ★

  ――あ~、やっと終わったのね……。この「シリーズ」ほんとに長かったこと……。7か月もかかったのね。「1か月」とか「ほぼ2か月」という「とっても長いお休み」があるんですもの。心配なんてもんじゃないわ。

 “次はどんな展開に……”って思っていたら、まったく更新の気配がなく、内容の展開よりも、“次の原稿アップはいつ?”ってことが気になって……。最後は、“無事に完結するのかしら?”って気が気じゃなかったのよ。ほんとに人騒がせな人。

 “風の便り”では、歳相応の方に特有の「何とか障害」ではないかって……。「男性」もかかるものなのね、この手のものは。 

 ……これからは今回のようなことがないようにお願いしたいわ。そこであたくしから「提案」させていただきたいの。今回は『映画を読み解く』だったでしょ。だから次回は、『時間を読み解く』というのはどう? 

 ……ついでに、もうひとつよろしいかしら? その原稿、できれば「シリーズ物」ではなく、一回読み切りの「単発」ということで……。ぜひお願い。……ねえ? 聞いてる? あれ? 寝ちゃったの?