『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・漢字は日本人のアイデンティティ ④

2021年09月14日 11時30分47秒 | ■文化小論

 

  日本人名前に刻み込まれた儒教思想

  前回までの〝おさらい〟を兼ね、私見を交えながら進めてみましょう。

  1.日本人にとって中国から伝わって来た「漢字」は、「日本文化」とりわけ〝言葉〟や〝言語表現〟の中に深く根ざしている。

 2.上記の〝言葉〟や〝言語表現〟は、「儒教思想」の「仁・義・礼・智・信」そして「忠・孝・中庸」等といった徳目(道徳)として、〝日本人の精神の奥深くに浸透して行った〟。

 3.その〝精神への浸透〟こそが、日本人に〝正直で親切、穏やかでで優しい、礼儀正しく丁寧、清潔で几帳面、規律遵守の徹底、調和の心に満ちている〟といった好い評価をもたらした。

 4.そして以上の〝精神への浸透〟を決定的にし、今日も少なからぬ影響を与えているものこそ、「教育勅語」(※注①)と言えるでしょう。これこそまさしく、「忠君愛国」主義と儒教的道徳を根幹とする学校教育でした。

 5.以上2・3・4の〝精神への浸透〟の一つの証左として、「日本人の名前」の中に、「儒教」の徳目を意味する「漢字」の使用が数多く認められる。

  と言うところでしょうか。

  ではここで一つ「クイズ」を。次の「漢字」は、いずれもかなり昔の〝或る物語〟に登場するキーワードです。さてその「物語」とは何でしょうか。

 【仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌】

 

  「八文字」がヒントですが……、「儒教思想」に出て来る「仁・義・礼・智・信・忠・孝」の七文字が入っていますね。「」だけは新たに出て来た一字ですが、実はこの「」も「儒教思想」を支える重要な一語です。

  というのも、「論語」において孔子は、『と言う事こそ、仁徳の根本であろう。』(※注②)と語っているからです。すなわち儒教における「」とは〝親に従う事〟、「」とは〝兄や年長者に従う事〟を指しています。この二つがあってこその「」を説いているのです。

 

  ところで、答えは……というと、『南総里見八犬伝』です。この物語に登場する「伏姫(ふせひめ)」は、幼い頃に護身の数珠(108玉)を授かっていました。彼女は後にある出来事により、身の純潔を証するために自害するわけですが、その際、大玉の「八つの玉」が八方へ飛び散ります。それには「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が印されていました。

  そしてこの「霊玉」を持つ、苗字に「」の文字が入った「八犬士」が登場して来るのです。

 

 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌 表札に求めた小学二年生

   1947年(昭和22年)生まれの筆者は、「団塊(だんかい)の世代」であり、戦後〝ベビーブーム〟のさなかに生まれました。

  『南総里見八犬伝』を読んだのは、小学二年の初め、放課後の図書室でした。今思えば、小学生向けにコンパクトに判り易くまとめられた読み物だったのでしょうか。それでも、3巻か4巻になっていたような気がします。とにかく、一気に読み終えたことを憶えています。

  それ以降、特に小学校から中学時代は、いつとはなしに「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の八文字が筆者の中で反芻され、日常生活の中で触れるこれらの「漢字」に、特別な愛着を感じるまでになっていました。

  印象深く憶えていることは、小学校の高学年から中学時代に触れた「礼子」「智子」「信子」「孝子」という女子の名前でした。もちろん、男子名の「仁(ただし、ひとし)」「義(ただし)」「礼(あきら、ひろし、まさし)」「智(さとし、さとる、まさる)」「忠(きよし、ただし)」「信(あきら、まこと)」「孝(たかし)」などもそうです。

  また以上の八文字を〝組合わせた〟「義仁、義信、義孝、信義、信智、信忠、信孝、忠礼、忠義、忠孝、孝義、孝信」等もありました。こうした儒教熟語」の「名前」については、家々の表札を見ているときに見出したものが圧倒的に多かったようです。それもそのはず。筆者は小学校の通学コースを大きく外れ、まるで〝宝探し〟でもするかのように、「八文字」のある「表札」を追い求めていたのですから。

  この小学二年生の頃、筆者は福岡市(現在の「東区」)箱崎の近くに住んでおり、それも「九州大学箱崎本校」のすぐそばでした。「九大前(当時は「帝大前」)」という電車の終点駅があり、その傍に「古本屋」が5、6軒以上あったように記憶しています。

  小二の筆者はほぼ毎日、放課後はひたすら「図書室」に通い、その帰りにこれらの「古本屋」に入り込んでは、書棚の背表紙の「著者名」に、あの「八文字」を見出そうとすることもありました。〝他の誰も知らない、筆者一人だけの秘かな愉しみ〟でもあったのです。

 さらに上記「八文字」に、高い道徳性を意味する「正」「良」「善」「和」「真(眞)」や「明」「幸」「豊」「平」などを組合せたものも数多く見られ、女性の名前だけみても、上記に「子」を付けただけの代表的なものとして、ご承知のように「正子、良子、和子、明子、幸子」などがあります。

 男性名となれば、すぐに思いつく「義正、正義、義明、義幸、智和、智明、智幸、忠良、忠明、忠幸、信良、信明、信幸、良孝、孝明、和孝」等であり、これらの組合せは膨大な数に上るでしょう。

 さらに女性名としては「美」「優」「雅」「愛」なども、格調高く道徳性や美意識を漂わせるものでした。「美子、優子、雅子、愛子」はもちろん、「八文字」との組合せによる「仁美、美智子、智美」などがそうであり、男性名の「雅義、雅信、雅孝」などもそのようです。

 ……とここまで来れば、もうお気づきでしょう。……そうです。今上天皇の「徳仁(なるひと)」陛下」、皇弟「秋篠宮文仁(ふみひと)親王」さらに「悠仁(ひさひと)親王」と、皇族男子のお名前には、いずれも「」が付けられています。

  のみならず、平成天皇でいらした上皇陛下「明仁(あきひと)親王」をはじめ、昭和天皇の「裕仁(ひろひと)親王」、大正天皇の「嘉仁(よしひと)親王」、明治天皇の「睦仁(むつひと)親王」にも共通しています。つまりは「儒教」最大の徳目である「」を、男子皇族はお持ちだと言う事です。

 「令和」すなわち「Beautiful  Harmony」(美しい調和)に相応しい「」(思い遣り、慈しみ)であり、いかに「儒教思想」が日本に、そして日本人に根付いているかの証左ではないでしょうか。(続く)

 


 【参考】

※注① 正式名称は教育ニ関スル勅語」。1890年10月23日に下され、1948年6月19日に、国会により排除又は〝失効〟が確認されました。これは家族国家観に基づく、教育の基本方針を示す明治天皇の勅語。「勅語」とは「天皇陛下の御言葉」です。この「教育勅語」こそが、「天皇制」の精神的・道徳的支柱となり、学校ではこの「教育勅語」の暗唱が義務付けられたようです。


※注② 「論語」學而第一。原文は、「弟他者、其爲之本興」。「読み下し文」は「孝弟なる者は、其れ仁の本なるか」。  「弟」は「悌」と同じです。


※注③ 漢字」一つの読み方をみても、想像以上に多いことが分かります。「」にしても、他に【じん、にん、きみ、きむ、さと、しのぶ、とく、とし、とよ、のり、ひさし、ひろ、ひろし、まさ、まさし、めぐみ、めぐむ、やすし、よし】など多数あり、「」にも、【あき、いき、しげ、たけ、ちか、とも、のり、みち、よし、より】、「」にも、【あき、あや、かた、なり、のり、ひろ、まさ、みち、ゆき、よし】その他かなりあります。もちろん「」「」「」「」「にしても、実に多彩です。ぜひ一度確かめてみてください。


 ◆宮内庁-天皇皇后両陛下(※「愛子内親王」含めて)[website]  ☚

 

 


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