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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

人間の性はなぜ奇妙に進化したのか

2022-09-27 18:45:59 | 読んだ本

ジャレド・ダイアモンド/長谷川寿一訳 2013年 草思社文庫版
これは今年3月だったか古本まつりで見つけて買ってみたもの、最近になってやっと読んだ。
ジャレド・ダイアモンドは、前に読んだ『銃・病原菌・鉄』がたいそうおもしろかったんだが、ほかには読んでなくて、こんなのもあったんだとは知らなかった。
原題「Why Is Sex Fun? : The Evolution Of Human Sexuality」は1997年の出版、1999年の日本語訳単行本は『セックスはなぜ楽しいか』という直訳タイトルで出たというが、文庫化にあたって改題したという、まあ、そのほうがいいでしょうね、進化を解き明かす科学の本ですから。
人間の性の奇妙な進化ってのは、
>(略)どうして排卵が隠蔽され、女性がほとんどいつでも性的に受け入れ可能な状態になり、遊戯としてのセックスが行なわれるように進化してきたのかを解き明かしていこう。この三つの風変わりな繁殖行動こそ、ヒトの性的特徴の根幹をなすものだからだ。(p.107)
ということだそうで、他の動物からみると、妊娠の可能性もない時になにムダなことしてんだろ、という生態が人間の特徴。
排卵の隠蔽の理由についての代表的な仮説は、「マイホームパパ説」と「たくさんの父親説」という対立する二つ。
マイホームパパ説は、排卵の隠蔽が、男を家にとどまらせ、妻の産んだ子の父親が自分であると確信させるってもの。
繁殖可能なタイミングがはっきりしてたら、そのときしか男は家にいない、他の日には他のメスを探しにどっか行っちゃうだろうと。
たくさんの父親説は、排卵を隠蔽したメスが多くのオスと交尾すると、生まれてきた子供の父親が自分だと確信できるオスはいないが、ひょっとしたら自分が父親なのかもと可能性をもつ多くのオスがいる。
なんでそんなことが大事なのかというと、さまざまな猿の種にみられるような子殺しが避けられる、子殺しってのは新しくボスになったオスが、前のボスがつくった子供を殺す、それみて発情したメスと交尾するってショッキングな生態、自分の子ぢゃないって確信があるから子殺しが成立する。
で、どっちかだけが正解ってんぢゃなくて、たぶん結論としては、ヒトの進化は、配偶関係が乱婚とかハーレムの形態の時期に、子殺しを防ぐ機能として排卵の隠蔽が生じ、それが定着したとこでやがて一夫一婦制に切り替わって父親を家にとどまらせるようになったんぢゃないかと。
それにしても、べつのオスの子供は殺しちゃうとか、繁殖期にないメスはほっぽって他のメス探しに行っちゃうとか、ムチャ言ってるみたいだけど、この自分の遺伝子を残す、遺伝的な利益って考え方がすべての基本にある。
>(略)逃れようのない父性の不確かさから、ほとんどの哺乳類のオスが達した進化的結論は次のようなものだ。交尾が済んだらすぐにメスのもとを離れ、別のメスを探して交尾する。これを繰り返し、その都度メスを置き去りにして、子育てはメスに任せる。(p.45)
ってことで、ほかの哺乳類とか鳥類の例もたくさん出して、生物の進化ってそういうもんだと説明してくれる。
おもしろいと思ったのは、生れてきた子供の子育てについて、メスがひとりで子育てするのか、オスが責任引き受けるのか、両方が分担して行うのかを決める要因は、
>(略)胚や受精卵にすでにどれほど投資したか、この先、胚や受精卵を育てることでどんなチャンスを逃すことになるか、自分が本当に胚や受精卵の親であることを確信できるか(略)(p.38)
っていう三つあって、それで決まるっていうんだけど、わずかしか投資しなかった場合より、多大な投資をした場合のほうが途中で投げ出しにくい、それは子供に対する親の投資でも同じ、って考え方。
たいがいの場合に、受精卵に対して自分の栄養分まで使って胚を成長させたりするメスが子育ての世話をするパターンになるが、それって母性とかって感性ぢゃなくて、投資したものたやすく放棄できないからなのねって、そういう指摘が刺激的。
章立ては以下のとおり。
1 人間の奇妙な性生活
2 男と女の利害対立
3 なぜ男は授乳しないのか?
4 セックスはなぜ楽しいか?
5 男はなんの役に立つか?
6 少なく産めば、たくさん育つ
7 セックスアピールの真実


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