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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

銃・病原菌・鉄

2020-12-20 18:04:30 | 読んだ本

ジャレド・ダイアモンド/倉骨彰訳 2012年 草思社文庫版(上・下巻)
ことしの夏ごろだったか、著者がインタビューにこたえてるテレビ番組みて、興味もったんで9月だったかな古本を買ったんだが、例によって例のごとく、しばらくほっぽって積ん読になってた。
そしたら、こないだ読んだ丸谷才一の『ゴシップ的日本語論』のなかに、「ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』のこの箇所を文部省の役人のなかの何人が読んでゐるか、とぼくは思ふ。」って一節があって、早く読まなくてはと思い、最近やっと読んだ。
ちなみに、丸谷さんが指摘しているのは、アメリカで発明されたトランジスタ技術が地理的に遠い日本で花開いたのはなぜか、「それが文字を読み書きできる人びとの国だったからである」ってとこ、日本語教育ちゃんと考えろよという話。
まあ、日本のトランジスタ技術はさておいて、とりあえず
>本書のタイトルの『銃・病原菌・鉄』は、ヨーロッパ人が他の大陸を征服できた直接の要因を凝縮して表現したものである(上巻p.147)
とあるとおり、主題は人類の歴史のそのへんのこととなる、一万三〇〇〇年前に始まった人類のうち、どうしてヨーロッパ人がアメリカやオーストラリアの先住民より優位に立ったか、って話。
刺激的でたいへん面白いから、とっくに読めばよかったな、原題「GUNS,GERMS,AND STEEL The Fates of Human Societies」は1997年の作品、日本語版は2000年に発行。
なんで、全世界に分布している人類は、大陸ごとに違う進歩のしかたをして、いまの富の分配の形になっちゃったのか、オーストラリアやアフリカやアメリカの先住民たちがヨーロッパに遠征して虐殺とか征服とかをするっていう、逆の流れになんなかったのはどうしてか。
そりゃヨーロッパ側が銃持ってて、アメリカ大陸側が持ってなかったからでしょ、で終わらない、ぢゃあ何でヨーロッパが銃持ってアメリカが持たないことになったのと。
(ちなみに、スペイン人がインカ帝国を制圧したとき銃は12丁しかなくて連射もできないやつだから、銃よりも鉄のほうが重要だったという、鉄製の剣でインディオを惨殺できるし、インディオの棍棒での攻撃は鉄兜や鉄鎧には効かなかったと。)
そこで、まちがってもカン違いしちゃいけないのは、人種としてヨーロッパのほうが優秀だったから、とかって理由ぢゃない、と説くのが本書のテーマになってる。
キモは食料生産だという、それも15世紀時点で何をつくって食べてたのかとかってことぢゃなく、ユーラシア大陸の「肥沃三日月地帯」(メソポタミアとかの南西アジアのとこ)では植物の栽培化が始まったのが紀元前8500年、動物の家畜化始めたのが紀元前8000年、それに対して中央アメリカでは植物の栽培化が紀元前3000年、家畜は紀元前500年、とかって気の遠くなるようなスケールでの話だ。
狩猟採集生活ぢゃなくて食料をつくり始めると、余剰分ができるんで人口多くやしなえる、移動ぢゃなくて定住生活始めると人口は増える(移動生活だと幼児は足手まとい、定住だと次の出産が早くなるんだと)。
食料多いと、直接食料の生産の仕事をしないで済む専門的職業につくひとが存在することができる、官僚みたいな人とか組織ができりゃ政治的にも発展する。
人の数が増えてくうちに、競合したりする社会が近くにいっぱいできてくると、技術とか発明とかってのが出てきやすくなるし、文化ってのは伝播していくもんだと。
で、なんでそれがユーラシア大陸のそのへんで起きたかっていうと、野生の植物で人が栽培・改良しやすいやつとか、野生の動物で家畜にしやすいやつが多かったという環境のせいだという。
>現に私の知るかぎり、肥沃三日月地帯の住民に生物学的に何か特別なところがあって、それが食料生産をはじめるにあたって助けになったという主張をまじめに展開する学者はいない。肥沃三日月地帯における食料生産のはじまりは、気候や環境、そして野生動植物の分布状況などの面から充分説明できることは見てきたとおりである。(上巻p.260)
ということで、そこ住んでた人が優れてたんぢゃなくて、動植物がよかったということだ。
ムギとかマメとか、実として食えるとこの保存がきく一年草が生えてたんで、都合のよさそうなのを増やそうとしてうまくいったわけだ。
牛、豚、馬、羊、山羊といった動物がいて、それは食べるのもいいけど、労働力として使えば農業がまたパワーアップできたし。
それに対して、オーストラリアとかアメリカは大きい哺乳類は絶滅しちゃったので家畜がいない、動物絶滅したのは人間が関わってる可能性もあるけどね。
アフリカも種類いっぱいいるけど飼って繁殖させられるタイプはいなかったと。シマウマはねえ、ダメなんだよね、気が荒いらしくて。
そうそう、なんつっても馬の存在は大きいんだと馬好きの私としては再認識させられた、戦争するのにだって馬を使える人たちは遠くまで行けるし、反撃される前に逃げ帰るスピードだって速いから、有利。
で、なんでユーラシア大陸で植物の栽培とか動物を家畜とすることが広がっていったかの理由で、もうひとつ重要なのが大陸が東西に長いからだと説明する。
どっかで作られることになった植物をよそに持ってったときに、東西に行くぶんには緯度が同じなんで、季節の降水量とか日照時間とかが似たようなもんだから、同じノウハウで同じ収穫が得られる。
それに対して、南北アメリカ大陸とアフリカ大陸は南北に長いんで、暑いとこと寒いとこぢゃ条件全然違うんで同じような栽培できないし、パナマあたりで陸が途切れてたり、ジャングルがあったり、サハラ砂漠があったりで、なかなか大陸全体に伝わっていかないという。
>南北アメリカ大陸の発展が遅れてしまった原因でもっとはっきりしているのは、家畜化できたり栽培化できたりする野生動植物がこの大陸にあまり存在していなかったことである。(略)南北アメリカ大陸では、家畜化可能な哺乳類がほとんどいなかったことが部分的にわざわいして、肥沃三日月地帯や中国で誕生したような、狩猟採集生活と競合可能な食料生産システムが誕生しなかった。(下巻p.294)
ということで、あっさり言われてしまうと、そうなのかと。
家畜でもうひとつ大事なのが、病原菌にそれがつながるということで。
天然痘は牛由来、インフルエンザは豚由来みたいなとこで、家畜として動物が近くにいると、いろいろ病気が人間にも生じてくる、だけどそのうち免疫を獲得してく。
そういう人間が、家畜のいないアメリカ大陸に乗り込んでって先住民と接触すると、免疫とか抵抗力とかない相手はバッタバッタと死んでいくと。
最近の調査研究ではヨーロッパ人が入り始めたときのアメリカ大陸には2000万人の先住民がいたが、その後200年もたたないうちに95%減の100万人になってしまったが、それは病原菌に感染したせいだという、すごい威力。
そういうふうに銃も病原菌もすごいんだけど、タイトルには入ってないもので、やっぱ情報ってのも大事。
スペインのインカ侵略について、
>ありふれた言い方になるが、(略)数多くのアメリカ先住民の指導者たちがヨーロッパ人にだまされてしまったのは、スペイン人に関する詳細な情報を得ることができなかったからである。(略)
>読み書きの伝統を持つスペイン側は、書物などから情報を入手して、ヨーロッパから遠く離れた場所の同時代の異文化や、何千年間のヨーロッパの歴史について知っていた。ピサロは明らかに、コルテスの成功した戦略を学んでアタワルパを襲撃しているのだ。(上巻p.145-146)
ということで学習した知識があったから勝ったと解説してくれている。
大航海時代ってのは、ほかのひとがどうやって海わたってどこかへ行ったかってのを、航海日誌がどんなもんだったか知らんが、読んで知識として広がってくことができたからヨーロッパ側が強くて、同じ大陸の隣の国で何起きたか知らないアメリカ側はやられてしまったわけだ。
あと、多様性も大事、いろいろ文化を生み出すのもそうだけど、当時のヨーロッパは国家がいろいろあったのもチャレンジにつながってる、コロンブスは何人もの王様に断られたけど最後にはスポンサー見つけることができたのは群雄割拠のおかげ。
これと比較しておもしろいのは、中国で、もともと羅針盤とか火薬とか紙とかいろいろ発明したのは中国なのに、なぜいち早くアメリカとかアフリカとか進出して、世界の覇権を握ることになんなかったのかと。
それはだいぶ古い時代から統一国家になってしまっていたからで、最先端の航海技術なんかがあっても、どっかの代でときの皇帝が海外渡航禁止って宣言しちゃえば全部ストップしてしまう、で、一度失われると再開するのむずかしい。
産業革命なんかもホントは中国で起きたかもしれないのに、どこかで統一国家だからこそ止めてしまったのかもと想像すると、なんか歴史って不思議だなと考えてしまう。
コンテンツは以下のとおり。
プロローグ ニューギニア人ヤリの問いかけるもの
第1部 勝者と敗者をめぐる謎
 第1章 一万三〇〇〇年前のスタートライン
 第2章 平和の民と戦う民の分かれ道
 第3章 スペイン人とインカ帝国の激突
第2部 食料生産にまつわる謎
 第4章 食料生産と征服戦争
 第5章 持てるものと持たざるものの歴史
 第6章 農耕を始めた人と始めなかった人
 第7章 毒のないアーモンドのつくり方
 第8章 リンゴのせいか、インディアンのせいか
 第9章 なぜシマウマは家畜にならなかったのか
 第10章 大地の広がる方向と住民の運命
第3部 銃・病原菌・鉄の謎
 第11章 家畜がくれた死の贈り物
 第12章 文字をつくった人と借りた人
 第13章 発明は必要の母である
 第14章 平等な社会から集権的な社会へ
第4部 世界に横たわる謎
 第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー
 第16章 中国はいかにして中国になったのか
 第17章 太平洋に広がっていった人びと
 第18章 旧世界と新世界の遭遇
 第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったか
エピローグ 科学としての人類史


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