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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

私の食物誌

2017-07-30 18:27:26 | 読んだ本
吉田健一 昭和50年 中公文庫版
この昭和56年13版の文庫、地元の古本屋で定価より高いのを買ったんだが。
そのちょっと後で、べつの古本屋で単行本が三冊いくらで売ってんのを見つけて、やっちまったと思わされた。
欲しかったけど買わなかった、単行本、うちが狭くて本が仕舞いきれないんで、これ以上単行本増やす気にならない、いまは。
吉田健一の書くものはちょっとしか読んでないんだけど、食べもののこと書いたのはおもしろいに違いないと思って、これ読んでみた。
なんてったって潔いのは、知識ひけらかしたりしないとこで、知らないってことを淡々というのがいい。
本書のなかにも、「製法に就ての詳しいことは知らないが」とか「それが何という魚をどうしたものかもいつも聞いて忘れて」とか「これは今でもまだあるかどうか解らない」とか、そういう調子が多い。
書くときもそうだけど、もともと食べるときにも、わざわざ調べたり、記録したりしないようにみえる。余裕ある態度で、いいなあと思う。
そもそも取材にいって食べたりしてるわけぢゃなくて、なんか知んないけど、全国各地から土地のうまいものがうまい季節に家に送られてきているようで、名士というのはうらやましい。
いろんな食べ物採りあげてるけど、
>(略)ここで次々に取り上げている食べものの季節の順序が滅茶苦茶であることに気が付いた。併しこれは食べものの歳時記ではなくて思い出すままに旨い食べもののことを書いているので(略)
と言うように、適当に並べてるだけという雰囲気で、まあそのほうが読んでて疲れないからいい。
ただ、もとの出版がいつか知らないけど、昭和の時代にあって、すでに商品化なんかに関する危機感は、あちこちに見られる。
>大体旨いものだから皆で食べなければならないという法はないのである。それと栄養の問題は別でその上に各自の好みがあり、旨いからと言って早速それを全国の名店街で売り出す必要は少しもないということがこの頃は忘れられ掛けている。(p.13「飛島の貝」)
とか、
>ここにも食べものに就ての今日の妙な錯覚があって何か旨いものがあればそれをなるべく沢山作る方がそれを食べるものも作るものも得をするということらしいが、別に贅沢な話ではなくて或る種のものの味はそれが又どうということはないものであればある程出鱈目に沢山作るということを許さなくて、もしそれでもそうして作れば味がなくなり、これは大量生産ではなくてその食べものを消滅させるという無駄をすることなのである。(p.71「東京の佃煮」)
とか、
>それに付けても思うのはなるべく金も手間も掛らない方法で本ものでないとは必ずしも断定出来ない食べものその他を無暗に沢山作って売りに出すこの頃のやり方が結局は誰にも得をさせていないことで(略)(p.84「北海道のじゃが芋」)
とか、
>併しこれが壜詰めになって売り出されたりしていないのはいいことである。この蛸の格好から言ってどこにでもそう沢山いるものではなさそうで壜詰めが店に並べられるようになれば直ぐに絶滅するに決っているからで、それでも構わないという心理や論法が次々に旨いものをなくして行っている。(p.93「大阪のいいだこの煮物」)
とか、
>(略)それが食べものというものであって誰かに作って貰う程度にその人間と親しくなるとか、或る所にしかないのでそこまで行くとか、或は自分で作るとかいう手間を掛けて始めて食べものはその味がするのに破こうとしても破けない紙に似たもので包んで店で売っているのを買って来て温めたりするのは飢え死にしない範囲での栄養はあるかも知れなくても食べものではない。(p.97「新潟の身欠き鯡の昆布巻き」)
とか、
>(略)いいものも昔通りに作って売るのに任せて置けば無難なのに、そこをもう一工夫してと思うのが合成に冷凍に詐欺にと発展して他のものと同じ半透明のものに包んだべったら漬けだか何だか解らないものがいつでもどこでも店の棚にさらされることになる。(p.157「東京のべったら漬け」)
とかって具合に、いつでもだれでも食えるように商品をつくることへの攻撃は厳しい。
ところで、現代の食べものを扱った読み物の多くと違って、食べたものの味とかを書くのにも、それほど執念をみせてくれないので、そこんとこで読み手をあおってくるようなとこはない。
それでも気に入った箇所をいくつか抜いてみたい、なんかハッとさせられるものあるから。
>ただめばるという魚は旨いものだということが記憶にあるだけで他には生姜が使ってあったこと位しか覚えていない。併しそのめばるを煮たのは旨かったともう一度繰り返して言いたい。(p.52-53「瀬戸内海のめばる」)
なんてのは、「もう一度繰り返して言いたい」ってのがシンプルでいい。説明できない味覚を、ヘンな形容詞つくったりして振り回すようなことで書こうとしないとこがいい。
>一口に言えば、江戸の料理の特徴というのは親切であることにあったのではないだろうか。それでしつこいということになることがあってもそういうのは江戸前の親切がまだ足りないものと考えることですむ。親切が洗練の域に達したのが江戸料理だったと言い直してもいい。(p.133「江戸前の卵焼き」)
なんてのは勉強になるねえ。卵焼くのに、いたずらに砂糖を入れるんぢゃなくて、味醂を使ってるって話なんだが。
>その鎌倉のハムはハムの匂いがした。それを時々思い出すのであるが、ハムの匂いがするハムと卵の匂いがする卵で食事をすることで朝の光も朝の光になる。(p.160「高崎のベーコン」)
ってのは、「朝の光も朝の光になる」もうまいんだが、なんかっつーと戦前の食べものの味は旨かった、ってとこに行き着いちゃうんで、それ言われたら勝てねーなーという気がする。
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あじフライを有楽町で

2017-07-29 19:04:28 | 読んだ本
平松洋子 画・安西水丸 2017年6月 文春文庫
いや、例によって、テレビ東京の「孤独のグルメ」のシーズン6をずっと見てたんだがね。
そのなかでも、アジフライの回が、なんかとてもうまそうで、たまらないなと思ってたんだが。
そんなとき、書店の文庫の新刊コーナーに、これ積まれてて。
なんといっても水丸画伯の画が魅力で、ついつい買ってしまった。
なかに書いてあることは、どこでなに食べたとか、何がどうっていうほどのこともないんだが。
ちなみに、あじフライを食べる有楽町のお店というのは、東京交通会館の地下にある「キッチン大正軒」。
どうでもいいけど、私は銀座と有楽町と日比谷とかってどこが境い目なのかわかんない。
ざっくりと章立ては以下のとおり。
I 危うし、鴨南蛮!
II ボンジュール、味噌汁
III エノキ君の快挙
IV 鶏肉は魚である
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みみずくは黄昏に飛びたつ

2017-07-23 17:02:13 | 村上春樹

川上未映子・村上春樹 2017年4月 新潮社
5月の連休のころに書店に積まれているのを買ったんだが、読んだのはごく最近。
小説ぢゃないし、すぐ読まなくてもいっか、って思ってたんだが、読んだらわりとおもしろかった、早よ読めばよかった。
「川上未映子訊く/村上春樹語る」ってなってるように、インタビュー形式。
ただし、インタビュアーのほうが単なる聞き手ぢゃなくて、けっこう負けずに語ります。
『職業としての小説家』の出たあとに一度インタビューしたのと、そっからの流れで『騎士団長殺し』を書き上げたあとに、それに関してってことで3回にわたるロングインタビューを決行。
なので、けっこう小説の書き方、みたいなとこ問うてる場面が多い。
ただし、読んでて感ずるのは、なにか「こういうふうに考えますか」とか「こういうことってないですか」とか問われたときに、村上さんがあっさり「ない」って答えることが多いってこと。
あと、以前の自作を読み返すことはないし、書いたあとは忘れてしまう、みたいなこと言うのは、ホントかいなと思うが、ホントなんだろう、ちょっと意外だけど。
しかし、
>(略)村上さんは「小説家にとって、小説に登場するシンボルやメタファーというものは、そのまま現実として機能する」とおっしゃっているんですね。
みたいな水の向けられ方されて、
>そんなこと言ったっけ?(p.110)
は無いだろ(笑) そんなかっこいいこと言っといて、忘れるかね。
それでもなんでも、物語の重要性については、いつものとおり、ちゃんと表明している。
ところが、物語があることは大事なんだけど、小説に出てくるものや、いろんな展開については、解釈を読む側にまかせちゃってるのが、チープトリックをかけないものの造り手たるところみたいで。
>それはなかなか大事なポイントかもしれない。この小説の中で。どうしてなのかは僕も知らないけど。(p.154)
とか、
>頭で解釈できるようなものは書いたってしょうがないじゃないですか。(p.116)
とか言われちゃうと、“この作品で作者の言いたかったことは何でしょう”みたいな国語のお勉強みたいな本読みをする人は困っちゃうんでしょうね。
それと関連してくると思うんだけど、今回このインタビューのなかで、文章が大事だって語られてるとこには、とてもハッとさせられた。
>でも多くの作家は、発想とか仕掛けが先にあって、文章をあとから持ってくる。(略)いや、僕の感覚からすれば、同時にあるものじゃなくて、まず文章がなくちゃいけない。(p.219)
って、すごい宣言だと思う。
ちなみに、
>そろそろ読者の目を覚まさせようと思ったら、そこに適当な比喩を持ってくるわけ。文章にはそういうサプライズが必要なんです。(p.24)
みたいな楽しいテクニックについての説明なんかもある、なるほどねえ。
これ読んで、また新しい小説を待つのが改めて楽しみになった気はする。
>(略)人が人生の中で本当に心から信頼できる、あるいは感銘を受ける小説というのは、ある程度数が限られています。(略)一生のあいだにせいぜい五冊か六冊だと思うんです。(p.188)
なんて村上さんは言うんだけど、それしかないかと思うと、なんかとても寂しくなる。
それっぽっちしかないのか、人生は。
どうでもいいけど、タイトルに「みみずく」があるのはどうしてなんだろと思ったんだが、『騎士団長殺し』に屋根裏のみみずくが出てくるあたりから引っ張ってきたらしい。ぜんぜん忘れてた、それ。

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ぼくの宝物絵本

2017-07-22 17:38:22 | 穂村弘
穂村弘 2017年6月 河出文庫版
先月に書店で見かけて、こんなのあったんだあ、と買ってみた新刊の文庫。
私の好きな歌人である穂村弘さんに、古い絵本を集める趣味があったなんて、知らなかった。
カラーで絵をのっけて、そのコレクションを紹介しているんだけど。
でも、結論いうと、私ダメだな、これ見ても何の感慨というか共感のようなもの出てこない。
歌やエッセイをおもしろいと思うからって、やっぱ自分に最初っから興味のないものは、読んでも効果ナシ、と。

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BREATH

2017-07-17 18:29:52 | CD・DVD・ビデオ
渡辺美里 1987年 EPIC・ソニー
前から気になってて、どっかで中古でも見つけたら買おうと思ってたんだが、ことし3月に買った。
そのわりには、ずっと聴かずにほっぽっといたんだけど。
やっぱ私にとっては渡辺美里は夏なんで、ようやく聴く気になった。
1stや2ndアルバムに比べるとヒットナンバーっぽいのは少ないと思うが、よく憶えてる聴き慣れたアルバムだ。
なんせ、これは当時夏休みなってから毎日一回聴いてたし、一カ月以上ずっと。
この一枚約45分をかけてるあいだだけは、ドイツ語の宿題をやる、って自分ルールをつくってた夏だった。
かったるくなってやる気なくなる午後や夕方ぢゃなくて、まだ暑くなんない午前中にやってたな、意外と生真面目に。
だいたい夏休みの宿題なんてのは、新学期始まってから提出期限のくる順にやるような性格してんだが私は、相手はドイツ語(独文和訳)だからねえ、そういうの通用しない気がして用心してた。
なので、このアルバムかけると、自室の机の前に座ってる風景を簡単に思い出すことができる。ドイツ語はまったく忘れてるけど。
いま聴いたら、歌詞のなかの「Yes,I'm talking to you」って「タクシードライバー」へのアンサーか、とか新しい発見はあるけど。
…うーむ、しかし、あれ30年前かあ。時は流れたっていうか、トシとったなあ。
なかで好きな曲は昔も今も「BREATH」。
くせのある文字 ゆずれない生き方も のとこの高音はいい。(ちょっと薬師丸ひろ子みたい?)
1.Boys Cried(あの時からかもしれない)
2.Happy Together
3.It's Tough
4.Milk Hallでおあいしましょう
5.Breath
6.Richじゃなくても
7.Born To Skip
8.Here Comes The Sun(ビートルズに会えなかった)
9.Pajama Time
10.風になれたら
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