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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ひと皿の記憶

2013-08-29 21:19:56 | 四方田犬彦
四方田犬彦 2013年5月 ちくま文庫
めずらしい気がする、著者の文庫書き下ろしエッセイ。運よく、スルーしないで、発売直後に書店で見つけることができた。
食べものに関する題材を集めたもので、副題は「食神、世界をめぐる」なんだけど、なにも自分のことを神と言ってるわけではない。
で、このひとの書く食べものの話は、ありきたりのレストランのレポートなんかぢゃないから面白い。
外国での経験も、観光でいくような店ぢゃなくて、地元のひとしかいないような食堂とか、市場に潜入してって思わぬ食材みっけてきたりする。
自分でそこで実際に生活するとか、現地の友人に招かれて家庭の味として何かごちそうになるとか、そういう体験が多いから、食文化について生き生きとしたレポートになる。
野生のキノコを採ってきて食うってのも、なかなか普通の人には怖くてできないことだと思うけど、生きたスッポンを自らの包丁とまな板でさばくってのも、料理自慢のひと多けれど実践したことないほうが多いのでは。
んで、「鍋のなかでくつくつと泡を立てて煮えていく鼈を眺めていると、つくづく生きて殺生をしてゆくことの業というものに思い当たる」なんて、サラッと書かれちゃうのがたまらない。
ちなみにスッポンの食べ方でうまそうなのは、台湾風の「三杯(サンペイ)もの」という調理法で、中華鍋に大蒜や生姜や香草を入れて、胡麻油と米酒と醤油で蒸し焼きみたいにするやり方である。
横浜中華街の輸入食材屋さんに行くと、スッポンもあるっていうんだけど、意識して探したことがないから私は知らない。こんど(生きたのはさすがに難しそうだから)冷凍ものがあったら、チャレンジしてみようかという気になっている。(ふつうに和風の鍋だよな、失敗しなさそうなのは。)
ほかに外国の話もいろいろあるが、料理の味そのものなんかより、「世間には、一人で食事をしている人間を見かけると、どうしても放っておけないという性分をもった国民というのが存在している。イタリア人と韓国人である。」みたいな文化論みたいなのが、私にとってはおもしろい。
ところで、冒頭では、時系列に沿ってというか、子どものころの食べものの記憶をひもといて綴ってるんだが、阪急が宅地造成をはじめたばかりのころの箕面で育ったっていうけど、ずいぶんと生まれがいいなあという感想をもたざるをえない。
祖父母に可愛がられたのか、庶民ぢゃなかなか口に入らないものも食べて育ったんだなあという感じ。
でも、そういう食いものの味がどうこうっていうより、家族で囲む食卓で母親から二つの教えを受けたってとこのほうが、重要なことのように私には思える。
いわく、
>ひとつは眼の前に皿が出されたとき、けっして最初から塩胡椒を料理に振りかけてはいけないこと。もうひとつは、その場に同席している女性よりも早く料理を食べ終えてしまってはいけないということである。
こういう教育を受けられるってことが育ちがいいってことなんだよねえ。
コンテンツは以下のとおり。

奥伊勢の鮎
伊丹の酒粕
吹田の慈姑
神戸の洋菓子
ロシアのサラダ
出雲の梅干
金沢のクニャラ
信州の茸
日本の山椒
II
京畿道のスジョングァ
釜山のコムタン
朝鮮の冷麺
ピョンヤンの朝食
台湾の三杯もの
鹿港のカラスミ
香港の点心
上海の鼈
北京の豆腐
III
バンコクのケーン
イサーンの鶏
ジャカルタのサテ
サイゴンのネム
タンジェのミントティー
ハディージャのクスクス
テルアヴィヴのファラフェル
タスマニアの牡蠣
ラマダーン
IV
イタリアの料理学校の思い出
フィレンツェのビフテキ
ボローニャのカツレツ
ナポリの蛸
マルティナ・フランカの狂宴
ロンドンの鰻
コペンハーゲンのスモーブロー
オスロの鱈
バゲット
パリの朝市
バスティーユの豚
ボルドーの家鴨
ブルターニュのクレープ
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コーヒーと恋愛

2013-08-28 19:42:33 | 読んだ本
獅子文六 2013年4月 ちくま文庫版
つい最近書店で見かけて買って読んだ小説。
帯に「やっと読める」ってあるんだけど、書店の店頭の宣伝にいわく、おもしろいと定評があるのに、長く絶版に近いままで、古書としては人気がある(値段が高いってことだな)んだが、ようやく文庫になったという。
そういうの聞くと、宣伝文句だなとは思いつつも、ふらふらと読んでみる気になっちゃう。逆に私が単行本もってたら、なんだよ今さら余計なことをとか言うのかもしれないけど。
私は獅子文六って読んだことないんで、これが初めて。
初出は1962年から翌年にかけての読売新聞連載だったそうで、物語の舞台もそのころ。
43歳のテレビタレントである坂井モエ子さんが主人公。
新劇出身なんだが、テレビでいつも与えられる役、好評な役は普通のオバサンといったところ。
彼女は、年下の某劇団の舞台装置係と一緒に暮らしてる、事実婚っていうんだろうな、昭和の当時にそんな呼び方あったか知らないけど。
で、彼女の特技は、コーヒーを淹れること。本人はごく当たり前にやってるだけなんだが、まわりに言わせると才能としか言いようがないくらい、おいしいコーヒーを淹れてしまう腕がある。
そんなことから、お互いにコーヒーを淹れあって飲みあう、コーヒー通の集まり、会長のこだわりのせいで会員も厳選された5人しかいない、「日本可否会」のメンバーに入ってたりする。
んで、テレビの人気もでてきて仕事も順調だとおもってたら、その年下の夫が突如別の女、しかも自分も知ってる若い女優に鞍替えして家を出てくという事件が起きちゃう。
いろいろドタバタするんだけど、最後はちょっとスッとするところもあって、娯楽としてはなかなかおもしろい小説ですね。

どーでもいーけど、おいしくコーヒーを淹れるといえば、映画「かもめ食堂」を思い出すなあ。
コーヒー豆に指を突っ込んで言うおまじない、「コピ・ルアック」だっけ?
「コーヒーは自分でいれるより人にいれてもらうほうがうまいんだ」ってセリフもあったし。うーむ、真理だ。
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冬の犬

2013-08-27 21:11:30 | 読んだ本
アリステア・マクラウド/中野恵津子訳 2004年 新潮社・新潮クレストブックス
こないだ「灰色の輝ける贈り物」を読み返したら、なんだかとてもよかったので、あわてて買って読んでみた。
原典の短編集『Island』の後半の8篇を収録したもの。
舞台は、前回と同じく、カナダの東端のケープ・ブレトン島。
出てくる人物は、これまた大家族が多い印象で、今回は漁師はそれほどいないけど、動物を飼ってたりする。
あと出身がスコットランドからの移民で、ときどきゲール語(それってアイルランド語ぢゃないの?)が出てくることがある。
全体をとおして感じたもんは、人を含めて生きものってのは生まれてくるしやがて死んでくしかない、って当たり前のことかな。
全然関係ないんだけど、『ガープの世界』を読んだときに、人間ってのはみんないつか死んぢゃうんだ、って思ったのと、ちょっと似た感想をもった。
本のタイトルにもなってる「冬の犬」は、少年時代にうちで飼ってた犬とのエピソードの回想。
見た目コリーなんだけど、ちょっとシェパードが混じってるかもしれなくて、体のでかい金色と灰色の毛並の犬。
アタマが悪いのか、牧羊犬としては、使えねえ犬なんだけど、力持ちなんで、ソリを引かせたりして主人公の少年なんかは遊んでた。
冬のある日、流氷が接岸してたんで、凍った海の上をこの犬に引かせてソリで遊びに行くんだけど、思わぬアクシデントが待っていた。
んー、なんということもないんだけど、とても読ませる。なんでだろう、やっぱ、ひとつひとつのことを丁寧に書いてるからなのかな。とても濃いというかコクのある一品。読んでいくのが楽しい。
「すべてのものに季節がある」(1977)
「二度目の春」(1980)
「冬の犬」(1981)
「完璧なる調和」(1984)
「鳥が太陽を運んでくるように」(1985)
「幻影」(1986)
「島」(1988)
「クリアランス」(1999)
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猛暑一段落、乗馬は楽し

2013-08-26 19:36:09 | 馬が好き
乗馬にいく。
きょうの予想最高気温は29度。ふぅ、ようやく厳しかった夏も終わりかねえ。
自分で好きで乗っといて何だけど、猛暑とか厳寒期にやるもんぢゃないよね、乗馬。苦しい思いまでしてするのは趣味とはいえない。(前はたしかに「仕事だ」と言って乗ってた私。)
暑いと、集中力っていうか注意力とかなくなるから、あぶないよねえ。まあ、そんな危ないことはしないんだけどね、もともと。

さて、すこし涼しくなった本日の、私の乗る馬は、おなじみの天蓬。
乗んないとかわいい、でっかーい馬である。
えーと、なに気をつけるんだっけ、と記憶をたどる。障害は止まるかもしれないから、やらないほうがいいな(笑)

さて、障害なんかはやるわけもないんだが、天蓬を動かすの大変そうな気がするし、それだと暑くてボーッとしちゃいそうな予感がするし、自分で運動のメニュー考えるのもめんどくさいしで、部班に混じることにしちゃう。
ところが、ひとの後ろについてきゃ天蓬は勝手に動いてくれるという読みだったのに、先頭にさせられちゃう。ひゃー、動くかなあ、4頭の先頭。

でも、列になる前の常歩であれこれやってみてた感じでは、前には出てくれそうな気がする。ちゃんとウケられるかどうかは、やってみないとわかんないけど。
そしたら軽速歩スタート。おお、やっぱ思ったよりは軽いぞ、これなら何とかなりそうだ。
軽速歩でベースをつくったら、輪乗りで正反撞。
正反撞になると、人情として(? 座れないからだけど)、スピードが落ちるもんだが、なるべくそうならないように、前に出てるのを維持する。
無駄な力つかって大汗かきたくないんで、馬の口をこっち持ってこようとか、アタマを下げさせようとか、今日はあんまり考えない。ただただ前に出てもらうように。
幸い、脚に対する反応は、とてもいい。前に出たら、それに乗っていくつもりで。

ただ、内方姿勢はもっと求めていい、って言われる。
今日のところは内の手綱あまり開きすぎないように、使ったらすぐかえして、真っ直ぐ前へ前へって意識のほうが自分では強かった。
馬のクビ内に向けようとすると、逆に肩から外に張り出してっちゃいそうな気がするもんで。
自分の外の肩を前に出さないように、壁、外のカベって、そっちのほうに注意が向いてた。

しっかし、気がつくと、大腿部の前側に力が入ってるよ。膝が上がってんだ。っていうか、腿上げしながら乗ってるみたいだね、まるで。そりゃあ疲れるわけだよ、そんなことしてたら。
ヒザ上げるな、カカト上げるな、逆だ、アブミ踏め、一歩ごと踏み下げろ、って思う。そしたら今度は脚が前に突っ張り出すような気がするんで、そうぢゃなくてえ。
あまり力入れないで脚全体を馬体にくっつけることのほうに考えをシフトする。考えなきゃできないんだから、年とってからおぼえるスポーツは困ったもんだ。
速歩のあいだにときどき常歩を混ぜて、ギヤチェンジするとき一歩目からちゃんと変わるように。ポンと速歩発進、スイッと常歩に移行。すべては、前進気勢を失わずにコンタクトを保ってないと、できない。
んぢゃ、駈歩。前に出てる速歩を受けとめといて、ポンと発進。そしたら、また速歩に。馬を前に出しといて、それを保つ。
駈歩から速歩におとしたときの速歩は、当然のようにとてもよく前に出てる。最初っからこの歩様をつくっとくのが理想なんだけど、なかなかそれはね。

駈歩で蹄跡行進、長辺で歩度を伸ばす。
隅角で詰めるときに、脚つかって前に出したをのを詰めるつもりで。いたずらにブレーキかけて減速してはいけない。アクセルは吹かしたまんまにしとけば、こんど直線向いたときにすぐ伸びてくれる。
最後、もう一度輪乗りで、駈歩と常歩の移行をして、おしまい。最後はちょっと雑になっちゃったかな。丁寧にウケないままで、力任せに駈歩出しちゃったような気がする。
ふう、でも、そんなに熱くなんなくて済んだ。きょうの天蓬はよく動いてくれた、そのおかげ。
乗ってて気持ちいい瞬間が何度かあったし。この馬乗って馬場の経路とかやってみたいなあなんて思わせるようなね。

手入れが終わって、リンゴを取り出すと、得意のおねだりポーズ。
これやりだすと、とてもカワイイ。

ここんとこ、乗馬して帰ってくると、体重が1キロは減ってる。(注:でも練習後に500mlの水は飲んでる。)
しかし、私の基準からは(2年前と比べて)、3キロオーバーしちゃってる。乗馬で減っても一時力で、なかなか本来の減量につながんない。困ったもんだ。
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さらば愛しき女よ

2013-08-22 21:21:42 | 読んだ本
レイモンド・チャンドラー/清水俊二訳 昭和51年 ハヤカワ・ミステリ文庫
フィリップ・マーロウが主人公の長編。
持ってるのは昭和61年の24刷。
原題「Farewell,My Lovely」は、「大いなる眠り」に次ぐ長編第二弾、らしい。1940年の発表、って戦前だ。
前作にくらべると、話の筋道というか進み具合は単純で追っかけやすい。
大鹿マロイなる大男が、8年ぶりにシャバに出てきて女を探しているんだが、街の様子は変わっていて、いるはずの昔の店もない。イラつくマロイは馬鹿力が余ってるはずみで、人を殺してしまう。
たまたまその場に居合わせたマーロウは警察に事情聴取されて、関わり合いついでにマロイの足どりを追う、カネにもならないのに。
それとは別に、知らない男から、強盗から宝石を買い戻すのに同行してくれという依頼をうけて、うさんくさいなとは思いつつ、商売なので引き受ける。
その結果、ろくでもないことに巻き込まれていくんだが、複数の事件はどこかでつながってることが徐々に明らかになっていく。
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