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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

年の残り

2012-11-10 18:10:00 | 丸谷才一
丸谷才一 1975年 文春文庫版
こないだ長編の「たった一人の反乱」を久しぶりに読んでみたら、すごくおもしろかったので、短編もまた読んでみることにした、丸谷才一。
持ってるのは1985年6月の第10刷だ。
当時の私が、これ読んで面白いと思ったとは、思えないけど。
今回読んでみたら、やはりけっこうおもしろい。
うまいよね。何がうまいか説明できないけど。
「年の残り」は、69歳の病院長が主人公。
旧制中学の友人である、銀座の菓子店の主人や、英文学者やその従弟の新聞記者との交友の話なんだけど。
淡々としてるようでいて、話が現在と過去の記憶の部分とかとをスピーディーに舞台移したりして、けっこうめまぐるしい。
そのせいか、老人のまわりの人が死ぬことが数多く出てくるんだけど、ドンヨリした感じにはならない。
「川のない街で」の主人公は、一歳の子供がいる母親。
夫に突如別れ話を切り出されて困るんだが、そのあとにも、海水浴で溺れた人を救おうとするとか、赤ん坊が生後まもなくヨソの子と取り違えられそうになったとか、ありそうもないけどありえるエピソードが飛び出してきては、それをグイグイ読まされちゃうとこは、うまいとしか言いようがない。
「男ざかり」は、新聞小説の挿絵なんかも描く画家が主人公。
あるとき、とっくに死んだとうわさを聞いていた、中学の上級生にあう。顔を見るのも厭なやつなんだけど、押しが強いんで、なんだかんだと付き合わざるをえない。
「思想と無思想の間」は、巻末解説にもあるように「たった一人の反乱」に似ている。
タイトルだけ見ると、なんか哲学の話かと思わされるんだけど、ただただ面白いエンターテイメントとして読める。
語り手である主人公は翻訳家なんだけど、もうひとりの圧倒的な存在感がある登場人物は、妻の父である黒田英之輔。
この黒田英之輔も文筆業で、アタマはいいんだろうけど、良識ある世間からは「知識人の風上に置けないやつ」とけなされたりしてる。
でも、論文を書かせると「ひどくごたごたしていて、そのくせ一気に読ませる力は持っているという変な文章」を書くし、とにかく自論に理屈をつけて飾り立てて喧伝する才能はある。
で、あるとき「大東亜戦争がなぜ悪い」というフレーズで、マスコミの寵児になったりする。
独特のユーモアと話の展開で、ちょっと他にない感じの、面白い小説であることを再発見。(まったく忘れてた、私。)

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