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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

二十世紀を読む

2023-10-05 18:29:07 | 丸谷才一

丸谷才一・山崎正和 1999年 中公文庫版
これはたしか去年の12月末ころに買い求めた古本で、最近になってやっと読んだ。
通算100回の対談をしてきたおなじみのお二人による対談集、あいかわらずおもしろい、早く読めばよかった。
単行本は1996年で、初出は1995年の「中央公論」で二か月に一度の計六回の対談。
なんか現代史の本を取り上げて、それをとっかかりに二十世紀とは何であったかを論じたもの。
二人の知見とか視点がけっこう刺激されるもの多くて、もっと若いころに読んでたら受け売りで使っちゃうだろうなって感じのものいっぱい。
>丸谷 ベネディクト・アンダーソンというアメリカの学者が、国家は何によって成立し、機能するかということをうまく説明しています。国家とは、(略)みんなが一つの文化を共有するということを想像力によって体験して、それによってはじめて成立するのだというんです。アンダーソンによれば、国民国家というものが成立してまもないころ、十八世紀のヨーロッパは、二つの形式を生んだ。一つは新聞、一つは小説です。この二つの形式によって、国民国家、つまりイギリスとかフランスとかは、国家の成員が一つにまとまることができた。(p.22)
とか、
>山崎 エミール・デュルケイムの「アノミーの理論」というのがあります。彼はなぜヨーロッパにおいて工業化がある程度進んで、豊かになると自殺が増えるかという問題を設定して、「アノミー(無規準)」という理論を立てたわけです。(略)十八世紀以前の小さな共同体、村や職人組合というのが壊れていった。その中にあって、じぶんとはどういうものかというアイデンティティの手応え、あるいは、(略)日本語でいえば「分を知る感覚」、そういうものが一挙に崩壊する。そうすると、人は不安になって自殺をするというわけですが、それが攻撃的に現われればテロリストになると見ることができます。(p74)
とかって国家と人の関係みたいなもの、政治学の教科書よりはるかにわかりやすくておもしろい。
ほかにも、中国文化は男性原理で、日本は女性文化だって話のなかででてくる、
>丸谷 源頼光はなぜ偉いのかというと、京都の女官たちによって支持されている権力が派遣した軍の長官だから、偉いんですね。酒呑童子伝説というものをじっと考えてみると、結局、男性原理らしきものが外国から入ってきたときに女性原理が勝つ物語、これが酒呑童子の話なんじゃないのかな。(p.103)
みたいな論じ方とか、イギリスってのは大陸ヨーロッパの階級社会とはちょっと違うって話のなかで、
>山崎 『ヘンリー五世』を見ますと、フランスの貴族とイギリスの貴族が比較されていますね。最後の決戦の場面で、フランスの貴族はまった庶民を相手にしていない。(略)だけどヘンリー五世は、同じイギリス人として兵隊に訴えるわけですね。(略)第二次大戦を描いた戦争映画でも、イギリス軍の士官がノルマンディーで敵前上陸するときに、この台詞を叫ぶんですよ。まさにこれがイギリス精神なんですね。要するに最上層と最下層が、ナショナリズムでひとつになれたということなんです。(p.167)
みたいな語られ方をされてみると、なんか勉強になるなあって気がする。
さらに、日本の二十世紀前半、昭和史を動かしたものとして、
>山崎 私がなるほどと思ったのは、要するに近代の日本を宗教ないしは精神の面で切ると、結局は広義の日蓮主義的気風と官僚主義との対決だったということですね。どちらもそれは不幸な結果を導いたわけですが。(p.117)
みたいな話が出てくるんだけど、こういうのは歴史の授業では教えてくれない、趣味的にみえるけど大事なことなんぢゃないかと気づかされる。
あと、文化人類学とか神話とか物語とかってことを、
>山崎 文化人類学者が小説が好きだということを、やや厳めしくいいますと、二十世紀というのは、巨大なひとつの小説が世界を支配しそうにみえた時代なんですね。マルクス主義という小説。
>丸谷 ほう、あれは小説ですか。
>山崎 フィクションだという意味で、ひとつの巨大な物語ですよね。この物語は、他の物語の一切の存在を許さないんですが。
>丸谷 なるほど、昔、そういう物語がひとつありましたね。新約聖書です。
>山崎 そういうことですね。マルクス主義のそんなあり方に対して、思想的に文化人類学者がやったのは、無数に物語があるよということだったわけです。(p.196)
みたいに対談でうまいことやられると、むずかしい論文読まされるよりスッと入ってくる感じがして、ここんところはとても好きだなって感想をもった。
コンテンツは以下のとおり。題材となってる書名も並べとく。
カメラとアメリカ
 ビッキー・ゴールドバーグ/佐復秀樹訳『美しき「ライフ」の伝説 写真家マーガレット・バーク-ホワイト』
ハプスブルク家の姫君
 塚本哲也『エリザベート ハプスブルク家最後の皇女』
匪賊と華僑
 フィル・ビリングズリー/山田潤訳『匪賊 近代中国の辺境と中央』
 高島俊男『中国の大盗賊』
近代日本と日蓮主義
 寺内大吉『化城の昭和史』
サッカーは英国の血を荒らす
 ビル・ビュフォード/北代美和子訳『フーリガン戦記』
辺境生れの大知識人
 ミルチア・エリアーデ/石井忠厚訳『エリアーデ回想 一九〇七-一九三七年の回想』『エリアーデ日記 旅と思索と人』


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