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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

雪の中の三人男

2021-10-17 18:11:29 | 読んだ本

エーリヒ・ケストナー/小松太郎訳 1971年 創元推理文庫版
これは先月の下旬に地元の古本屋に立ち寄ったときみつけた文庫。
『ボートの三人男』なら知っているが、雪の中の三人男とはなんぞや、と思ったんだが。
ホントは、棚に並んでる背表紙ながめてて、著者名がケストナーなのが最初に目にとまったんだけど、ケストナーったら、あのケストナーだよなと、ちょっと驚いて手に取った。
『エミールと探偵たち』は、私の生涯ベストの何冊かのうちのひとつに間違いなく入る、好きな本。)
なら、おもしろいにちがいないと決め込んで、サッと買ってサッサと読んだ。
主人公のひとりは、トーブラー・コンツェルンの枢密顧問官トーブラー氏、大金持ち。
このひとが自分の事業のひとつである工場で広告の懸賞募集をさせて、偽名で自分も応募したら二等賞に入った。
賞品として与えられるのはアルプスにあるグランドホテルの十日間滞在なんだが、ホントの名前は伏せたままで、貧乏人のふりをして行くと言って、家族や使用人をあきれさせる。
下男のヨーハンをお供につれてくんだけど、ヨーハンは金持ちの役回りで、おたがい他人という設定で行くぞと命令する。
わざわざ安物の衣装を調達して旅の準備をしてると、娘のヒルデガルトに「ホテルから放り出されてしまいますよ」と忠告されるが、トーブラーは「放り出されたら、おれはホテルを買っちゃうよ、そしてほかのやつらを放り出す」と言い返す。
父トーブラーのことを心配する娘ヒルデは、内緒でホテルの支配人に電話して、懸賞広告の受賞者が一人行くけど、百万長者なのに貧乏人として登場すると告げる。
>「気まぐれなんです。人間を勉強するつもりでいるんです。(略)子供なんですよ、その人、おわかりになります? (略)本人には、貧乏人だと思われてるってふうに信じさせておいて、しかもふだんと同じような扱いをしてあげていただきたいんです」(p.51)
というふうに手回しをしてホテル側に承知させる。
その「ふだんと同じような扱い」の具体的指示もだすんだが、それがおもしろい。
一日おきのマッサージをさせること、郵便切手を集めているので提供すること、夜は暖めた煉瓦をベッドの中に入れること、好きな食べ物は牛肉入りのうどんなどの惣菜料理、酒はコニャック。
そして、なんといっても極めつけは、シャム猫を二、三匹都合して、部屋に入れておいてくれ、だって。
かくして、ホテル側も準備万端受け入れ態勢整えるんだが、従業員からもれた話が、滞在常連客まであっという間に広まり、酔狂な百万長者がやってくるってうわさは知らぬ者なしって状態で現地は盛り上がってしまう。
一方、懸賞の一等になったのは、ドクター・フリッツ・ハーゲドルンという若者、大学は出たけれど失業中で、母には親孝行。
こちらも同じホテルに同じ日から滞在することになるんだが、いつもの一張羅で行くしかない。
ところが、到着時にホテル側が勘違いしたもんだから、この青年が身分隠そうとしてる百万長者か、はたまたアルバニアの皇太子かってまちがえられて、丁重な扱いを受ける。
シャム猫のいる部屋に案内されるだけぢゃなく、泊り客の御婦人たちからも盛んに誘いを受けることになる。
ハーゲドルンは、シュルツェという偽名を名乗るトーブラーと出会い、懸賞の入賞者だと見抜いたことから、広告の話などして、親しくなる。
トーブラー枢密顧問官のほうは、お望みどおりに扱われることになり、暖房もない屋根裏部屋に泊まらされて、スケートリンクの雪かきとか、リュックサック持って村まで買い物とか、こき使われるんだけど、面白がって対応して「煙突掃除もやりたい」ぐらいのこと言い返す余裕がある。
かくして、シュルツェを名乗るトーブラーと、実はその下男だけどケッセルフート氏という大陸間航路の持主という設定でとおすヨーハンと、若者ハーゲドルンの三人は、仲良く大きな雪人形を作ったりする。
いろいろ騒動を起こすんだが、最後には、ヨーハンから連絡を受けてトーブラーの娘ヒルデまでやってくる、もちろん身分を偽って。
ただただ楽しくて毒のないお話なんだけど、やっぱいいなあ、ケストナーは。

※いま探してみたら、昔読んだはずの『一杯の珈琲から』をこのブログで採りあげてなかった。
それどころかウチんなか、さんざ探したんだけど、その文庫本が見当たらない、どこやっちゃったんだろう?


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