うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

ponytail

2022年09月18日 00時00分36秒 | ノベルズ
「ふぅー…」
9月の午後、既に盛夏は過ぎたとはいえ、この南国オーブはまだ暑い。
制服も夏仕様になっているとはいえ、プラントの人工管理による過ごしやすい気温とは違って自由が利かない分、今日のような蒸し暑い日は一歩外に出れば汗が噴き出す。
それでもこの決済版は自分で持っていく、代わりを申し出るものがあっても誰にも許さない。
無論内閣府に堂々と立ち入れる理由になるからだ。
先に内線を入れておいたおかげで、目的の彼女はちゃんとそこにいた。
「熱い中ご苦労だったな。でもわざわざお前が出向かなくても、秘書に任せればいいのに。」
どんなに忙しくとも、さりげない気遣いを口にする彼女。誰に対しても同じなのか思うと少し心に重く来るものがあるが、そんな不満を顔にでも出して「小さい男」だと思われるわけにはいかない。
「いえ、代表もお忙しいところ、お時間をいただきましてありがとうございます。」
「いいぞ、他人行儀にしなくても。今は誰もいないから。」
これも俺のために気を使って人払いを―――などと考えてはいけない。顔じゅうの筋肉が緩んでしまりが無くなっては、かえってカガリに不信を抱かせてしまう。
それでも、こうして柔らかな空気にくるまれるのは心地いい。仕事中とはいえ、俺も肩の力を抜いた。
「じゃぁ、今回の資料について説明させてもらっていいか?」
そうして俺は資料を開き、カガリの視線が俺の指先に注がれる。すると
<ポタ。>
机の上に見慣れぬ水滴が落ちた。
「ん?」
カガリが顔を上げる。そして俺の顔…というか、顔の周りを見回しこう言った。
「お前、ちょっと顔かせ。」
「え?」
意味が解らず、一瞬固まった隙にカガリがジャケットのポケットから、白いフリルのハンカチを差し出し、俺の額を拭ってくれた。
「やっぱり暑かったんだろ。髪を伝って汗が落ちてるぞ。」
「え…」
気にしてふと襟足に指先を伸ばせば、濡れて束になっている毛先が触れる。
「本当だ。」
この部屋の冷房で、俺の体温より冷やされた毛先から冷たい雫が再び落ちた。
俺もハンカチを取り出し、彼女のハンカチも受け取ろうとする。
「すまない。それ、洗って返すから。」
「いいよ、この位。…にしてもすっかりお前、髪伸びたな。それじゃ暑いだろう?ちょっとそこに座れよ。」
そう言ってカガリは俺の背後―――彼女の目の前にある応接用のソファーを視線で挿す。
意図していることがわからなかったが、勧められるままソファーに腰掛けると、カガリが机の小引き出しから彼女愛用の化粧ポーチを取り出し、そこから紐のようなものを取り出した。
そして俺の背後に回ると、彼女の細い指が俺の項に触れる。
途端に俺の背筋から下半身に向けて、ゾクリとした電流が走る。
「―――っ!カ、カガリ!?///」
「いいから動くなよ。お前の髪、まとめてやるから。」
そう言って、ブラシが手元にないせいか、手櫛で俺の髪を柔らかく頭頂に向けて集めていく。
柔らかな指が地肌を通り、くすぐったくって温かい、小さなスキンシップ。
一時触れることさえできないような心の距離を感じた過去もあったが、こんな穏やかな触れ合いができるようになったとは、あの頃の自分は想いもしなかっただろう。
そしてカガリは口にくわえていた紐―――黒いゴム紐を束ねた髪にキュっと通した。
「ほらできた!こうすると首筋は涼しいだろう?」
そう言って小さな鏡を俺の前に置いてくれる。
そういえば初めてだ。この程度の長さでもできるもんなんだな、ポニーテールとは。
感心すると同時に、でも
「クス」
「?なんかおかしいところあったか?」
キョトンとする彼女に、俺は言った。
「随分と後ろのあたりがブカブカなんだな、と思って。」
おくれ毛と共にしっかりとまとまっていない自分の後頭部に触れていると、カガリが顔を赤くした。
「し、仕方ないだろう!?/// 今ブラシ持っていないんだから…」
あ、まずい。ちょっとむくれてしまった。
「でもおかげで涼しくなったよ。これなら襟足の汗が落ちないし。」
「だろう?」
フフーン( ̄ー ̄) と自信を持ち直したカガリ。そういえば彼女の髪も俺とさほど変わりない長さだ。ということは・・・
「カガリも結ってあげようか?」
「え?私はいいよ。別段外に出る予定ないし、帰宅時間の頃はとっくに日は落ちてるから涼しいし。」
「でも折角だから、ペアルックならぬペアヘアーできたら嬉しいんだけど。」
「ぺ、「ペアヘアー」!?ってお前///」
「せめてこの部屋にいる間だけでも。…ダメか?」
少し上目遣いに願い出る。やれやれ、俺も随分と彼女の弱いところを見つけられるようになったもんだ。少し憂いたような視線で希うと、彼女はどうしても「嫌」とは言えないのだ。
「う///・・・お前、ずるい・・・」
「じゃぁ、ここに座って。」
俺はソファーの席をずらし、俺の隣の座面をポンポン♪と叩く。「ここにおいで」ということだ。
「場所替わればいいだろうが。」
「いや、俺の身長だとカガリに座られると中腰になってやりづらいから、隣に来てもらったほうが助かる。」
最もそうな理由をつけて、再び笑顔でポンポン♪と叩く。
「・・・じゃあ・・・」
まだどこか不満そうだが、観念したのか促される場所に大人しく隣に座るカガリ。
早速サラサラの金髪に指を通す。
(ぁ・・・)
自分の髪とは全く違う感覚。柔らかくて細くって、指どおりが滑らかだ。
(いい香り・・・)
一櫛通すたびに、彼女の愛用のシャンプーの香りが柔らかな空気の流れに乗って、俺の鼻をくすぐる。
指先に感じる仄かな彼女の体温をゆっくりと味わう。
「あの・・・まだか?///」
「もう少し。今ゴムで止めるから。」
いや、もう少しこのまま手櫛を続けたい。ゴムで結ぶのもゆっくりと、精密機器を扱っている時のように、彼女の金糸を傷つけないように括る。
「できた。」
「ありがとう。へぇ~お前流石手が器用なんだな。綺麗にまとまっているぞ。」
彼女の称賛は誰からのものよりありがたい。だが俺の眼はそこから動かない。
白くてほっそりとしたうなじ。彼女の優しい薫りがたまらない。
「・・・いい匂い。」
思わず鼻を近づけて<スン>と香しさを堪能する。
そのまま唇が触れ―――そうになった瞬間

<バチッ!>

***

<キィ>と金属の滑る硬質な音と共に軍令部の管理室のドアが開く。
「あ、おかえりなさいませ、准将・・・って、どうしたんですか?」
次官が気づいたのは珍しいポニーテールの髪―――ではなく、
「何かついているのか?」
「いえ、その、鼻が真っ赤で・・・」
驚く彼に、俺はおどけて見せた。
「大丈夫だ。いい香りのする花があったんで、顔を近づけたら棘に刺されただけだから。」
「花?そんないい香りのする花なんて、この近くに咲いてましたっけ?」
訝しがる彼を笑顔でかわす俺。
教えるものか。
どこに咲いているのかは、俺だけの秘密だから。


・・・Fin.


***


何故かこんな夜中にいきなりUP。
いえ、実はTwitterの方で、フォローさせていただいております絵師様が、先日「ポニーテールのアスラン」を描いていらっしゃいまして。
それがとってもセクシー♥(*´Д`)ハァハァ なんですが、ちょっとおくれ毛があったりして、「カガリがアスランのポニテやったけど、不器用なので綺麗にまとまらなかった」と勝手に妄想させていただいていたら、止まらなくなりました(笑)
なんか二人でほのぼのできるシーンがあるっていいですよね。
やっぱり平和は大事✨

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