あの大戦が終わった日、決めたんだ。
命を賭してオーブの理念を守り抜いたお父様の代わりに、
そして戦争で傷ついた人達―――アスランも、キラも、ラクスも、みんな、
そして何より愛するオーブをわたしが守るって
だから我武者羅に頑張った。
まだ為政者として何から手を付けたらいいのかすらわからなかった私。
でも―――止まるわけにはいかない。
大切なものを、オーブを守るためなら、弱くったって 辛くったって、走り続けなきゃ。
私には立ち止まる選択肢なんてなかった。
必至に走り続けた。
―――でも、あの時―――
「俺の家族は、オーブに、アスハに殺されたんだ!」
真っ赤な怒れる瞳が、私の足を立ち止まらせる。
(お父様たちが、命を投げ出してまで守ったのに、何故憎まれなきゃいけないんだよ!?)
でも後になって、思い知ったんだ。
お父様たちが選んだ方法は、決して国民みんなを救えたわけじゃない、ということを。
命だけじゃない。心だって―――
たった一人の少年に、何も言い返せない自分に苛立ち、更にデュランダル議長からも諭すように
「いいえ姫、争いが無くならないから、力が必要なのです」
柔和に微笑んで見せる彼は、既に私が何も答えることができないことを見抜いていた。
そう―――言い返せなかったのは、私自身がまだ何も成していないからだ。
お父様と違ってこんな小さな手しか持っていないのに
この手で私が全部守るなんて、よく言えたものだ。
プラント、ZAFT、太平洋連合…いや、オーブ国内からでさえ、容赦なく私に襲い掛かかってくる困難。
それに対処するのが精一杯で、一番近くにいた大切な人が傷ついていることさえ、気にかけてやれなかった。
アスラン、ごめんな。
私は不甲斐ないばかりに。
自分の出来うる手段で何とか争いを回避しようと、プラントに戻る彼を止める権利は私にはない。
ただ、彼の私への思いを受け止め、指輪をはめる―――ただそれだけが私の心のよりどころ。
しかし、その思いさえ打ち砕かれていく。
二度目の大戦がはじまり、ミネルバを匿ったことで地球連合からの圧がさらに増え、結局はユウナとの結婚で、私にかかった負担を減らす…いや、セイラン家が私からオーブという船の舵を奪った。
そして何より―――アスランの思いを裏切る―――身を引き裂かれるような痛み
それでもなさなきゃいけない!
オーブ首長会から、連邦軍から、いや、それだけじゃない。
ミネルバと…あの赤い瞳の少年:シンから激しく受ける圧に酷く、それでも強く耐えて、
―――「それでも、私は全部守るんだ!」―――
自分でそう決意したんじゃないか!どんな困難が襲い掛かっても、オーブを、大切な人を守るって。その為には、自分の体は国の物。そして、そう…「心」だって…
だからユウナとの結婚を決めた。
アスランへの思いを無理やりにでも封じ込めて。
覚悟決めた あの日の涙は 嘘じゃない!証明だって出来るから―――
「出来ないでしょ。」
全て悟ったような瞳でキラが、私の心の一番深いところに隠していたものを鋭く突いてくる。
結婚式の途中で私を奪取したキラとラクス、そしてAA。
私がいなくなったことで、完全にオーブはセイランの手に渡った。そして連合と同盟を結んでしまう。
(そんな―――!)
私は叫ぶ。血のにじむ心の底から
―――「オーブの理念を忘れたのか!?」―――
だが、決して認めぬ戦いに、キラが私を射抜く。
「オーブ国内を押さえられず、連合軍と同盟を結んじゃったのは、カガリの責任でしょう?」
決して他国を侵略せず、他国に介入せず、それがオーブの正義のはずだ。でも、
(じゃあ、正義は何処に在るの?)
膝を折った私は自分の両手を見つめる。
なんて無力な小さな手
何一つ 掴めないで馬鹿だな
その手で唯一できたのは、顔を覆って泣くことだけで。
これだけ傷ついても、それでもまだ私にできることはあるのではないか?
私はオーブを裏切れない。このまま見過ごすわけにはいかない!
そこにそっと差し伸べてくれた優しい手。
「まずはやってみる。そして考える。」
そうラクスは言ってくれた。
Try&Error
人生はそれでいいんだと。
でもな、ラクス。
それには一つ大きなリスクがあるんだ。
何よりも大事な――『人命』
Errorを起こせば、確実に人の命が奪われてしまう。
失敗は許されないんだ。
それでも、何とかオーブとミネルバとの戦いを止めたい!
説得に応じてくれるだろうか。
かつてラクスが何度もプラントに訴え続けたように、オーブの理念を訴え続ければ、聞いてくれるだろうか…?
ずっと独りで身を削って、壊れそうでも決めたから。私が守るからって。
するとキラも、AAの皆も頷いてくれた。
「僕もやれるだけやってみるから。」
だから戦場の只中でルージュを駆り、私はありったけの思いを込めて叫んだ。
「オーブの理念にそぐわない戦いは今すぐ止めるんだ!」
それでもそこには地獄だけが待っていた。
連合とオーブ軍を前に現れたのは満身創痍のミネルバと、そして――シンの搭乗するインパルス。
あの時、私に向けた憎しみをそのままぶつけるかのように、インパルスはたった一機で駆逐艦を次々と落としていく。連合だけじゃなく、私の目の前でオーブ軍を、ムラサメ、そして旗艦「タケミカヅチ」がなすすべもなく目の前で轟沈する。あの少年、オーブで育ったシンの手で。
それでも覚悟を持って死出へと向かう彼らを、涙で見送るしかなかった。
(どうしてこうなってしまうんだろう…)
大切なものを 守りたくて 守りたくて
ただひたすら走ってきたのに、
怖くたって 痛くたって
私には立ち止まる選択肢はない
今だって、必死に走って 走って 走ってるけど
それじゃ、ダメなのか?
願ったって叶いやしない
それでも戦闘を止めさせたくって、AAと共に各地を回った。
でも更に痛みは続く。
キラが討たれた―――インパルス―――シンに。
シンの憎しみはキラの護りたい思いをも凌駕した。
(どうして…ここまでするほど、彼はオーブを、私を憎んでいるのか? キラを討って、心は満たされたのか?憎しみは晴れたのか??)
―――「殺したから殺されて、殺されたから殺して、それで最後は本当に平和かよ!?」――
あの時自分で言い放った言葉を、同じくシンに向けたかった。
けれど
今の私に、その資格はあるのだろうか?
「守る」どころか失ってばかりの私に。
キラは何とか一命はとりとめたけど、御旗のMS:フリーダムを失った。
この先どうすればいいのだろう?
それでも立ち止まれない。
私はオーブを守るって決めたんだから。
覚悟決めたあの日の涙には、今も嘘なんてつけない。
どん底から何度でも這い上がらなきゃいけないのが、私の決めた道。
そこにZAFTから脱走してきたアスランが救助された。
傷ついて、それでも議長の真意を私たちに知らせるために。
「アスラン!アスラン!!」
悲鳴に近い嗚咽と共に名を呼べば、土気色の唇が僅かに開いた。
「守りたかった…カガリ…キラ…」
撃墜され、瀕死の状態の彼を見て、泣いて 泣いて
一度違えた道は、もう再び交差することは無いかと思っていた。
でも、アスランはこの戦いの真実を握り、命がけで戻ってきてくれたんだ。
こんなにボロボロになっても、それでも意思を貫いて。
眠ったままの冷たい彼の頬に手を触れて、
私はまた、あの日の覚悟をまた思い出す。
アスランも、キラも、ラクスも全部守るって覚悟決めた、あの日の涙には嘘なんて つかない!
(だったら―――!)
私は立ち上がる。ジブリールを匿ったとしてオーブがZAFTからの攻撃を受けたあの戦いで、私は国を取り戻すことを決めた。
今度こそ、道を誤らない。ただその一心で。
私の目の前には、理念を携えてくれる仲間と、お父様の遺した意思=「アカツキ」がいた。
こうして皆の協力で、セイラン親子を捕縛し、オーブを取り戻すことができた。
今度こそ、私の手を持ってこの国の舵と、理念を証明してみせる!
だが、ようやくオーブを建て直そうとした矢先、議長の発表が全宇宙を震撼させる。
『ディスティープラン』
遺伝子に刻まれた運命に従って生きること。
でもそれは「決められたこと以外、してはいけない」という表裏一体の定。
自由と平等を掲げるオーブの理念とは正反対。
つまり議長は―――オーブを滅ぼすことを決めていた。
「宇宙へあがろう、アスラン。」「あぁ。」
キラとアスランは新たな機体を得て、最前線で戦うことを決めてくれた。
でも私は共にはいけない。
今度こそ、私の手でオーブを守るために。
もう一度私は自分の手を見つめる。
今は 小さな手
でも、それでもいいんだ。受け止めるに足りない分は、
仲間と合わせて一つにして―――
そして私は彼らを見送る
私個人の幸せより、オーブを選んだ。
まだ何も成していない私が、全て自分が守ろうなんて、なんて大それたことを思い上がっていたのだろう。
だから、今はアスランのくれた指輪を外す。
彼は私の思いを汲んだように、何も言わず抱きしめてくれた。
口にせずとも全身から伝わってくる、彼からの思い―――
(―――行ってくる。今度こそ、迷うことなく君を、オーブを守って見せるから。だから、君もどうか無事で―――)
だから私も別れの言葉話は言わない。そっといつの間にか広くなっていたその背に手を回す。
(―――どうか無事に帰ってきてくれ。無理するなよ。それから―――)
いや、今は言えない。
お前が帰ってきた時、まだ私への想いがあったなら―――なんて。傲慢だよな。欲張りすぎる。ユウナとの結婚の時、決めた覚悟とは違う。国を守るために仕方がなく、じゃない。
今はただ、オーブと、この戦争と、議長の計画を止めるためだけに、私は私の命をかけた戦いをする。
今はこれでいい。
だから笑って、いつかまた「抱きしめて」
きっと、この想いは届きやしないけど。
そして、オーブと共に救いたい人がいる
大切なものを
許したくて 許せなくて
怒りをぶつけてきた、あの真っ赤な瞳の少年。
彼も、どうかこの戦いで生きていて欲しい。
そして、もう一度だけでいいから、今のオーブを見て欲しい
全部 元に戻ることは無いけれど
それでも、お前の憎しみも怒りも、救えることができるなら…
今わかったよ。
シン…お前と私は同じだったんだ。
オーブに裏切られ、それでもオーブを好きで。
ずっと独りで塞ぎ込んで 壊れないように
でもな、私には仲間がいてくれた。
一緒にオーブを、世界をいい道へ導こうとしてくれる人たちが。
だから、今度はお前に寄り添いたいんだ。
そして肩を並べて、こう言ってやりたい。
「同じだな。」
傷つけど、やっぱりオーブを愛してる、って―――
・・・Fin. (Respect for ぷす)
***
最近忙しすぎて、自分の時間がなかなか取れなかったんですが、久しぶりにSSです。
今回はモノローグ風でカガリ様の種運命の心象をお届けしてみました。
タイトルを見た瞬間、「あ!」って思った方も多いと思います(笑)そんな貴方は東リベファンですね✨
そう、TVアニメの東京リベンジャーズの2期目「聖夜決戦編」のED『傷つけど、愛してる』( Song by ツユ)をオマージュした作品となっております。
最初にこの歌詞を聞いた瞬間、「まるで運命の時のカガリみたいだ・・・」と思わずにいられなかったんですよ。本当は「聖夜決戦編」のヒロインでもある柴柚葉ちゃんをイメージした作詞になっているんですが、まさに逃げたくても逃げられない、いや、逃げちゃダメなことを自分自身に誓いながら、それでも何とか弟の八戒くんを、柴家を大寿の暴力から守ろうと必死になっている彼女の姿が、どうにも理念ごと国の崩壊に向かっているオーブを守ろうと泣いているカガリダブるんですよ!毎週東リベ2見ながらEDは姫様を思いつつ歌を聞いてました。
無論、姫様主役となれば、相方のアスランを選ぶところなんですが、劇中、同じように「祖国を愛していたけど、裏切られて失望と憎悪の対象になったのに、どこかまだ思いを捨てきれない人物」=シンも重ねてみました。傷ついてもやはり忘れられない家族との思い出の地。一見加害者側(アスハ)と被害者(シン)で立場は違うと思うのですが、それでも視線の先にはオーブがある。なので、今回はカガリからシンに語り掛ける感じで書いてみました。
本来だったら、結末まで書き上げてようやく完成✨・・・になると思うのですが、今回はあえて中途半端なところで切りました。
勿論、真の続きはこれから始まる「劇場版」になるから。カガリとシンがどういう関係に描かれるのか分からないのですが、このストーリーの先にある二人の決着が、劇場版で見られたらいいな、と思う願いも込めて、ここまでで止めておきます。
ともかく、この曲で、いつかオマージュしたいな~と思っていたところ、今日少し時間ができたの一気書き!(笑)
楽しんでいただけましたら幸いです(^人^)