うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

H&B (・・・オマケ)

2015年10月31日 17時04分29秒 | ノベルズ
10月31日の午後―――
アスランとカガリはアスハ家所有のリムジンの後方座席で並んで座っていた。
学校でも隣同士とはいえど、クラスメイトのいる前では控えめにしなければならない。最も、アスランにとってはそんなことはどうでもよく、常に傍らに居たかったが、カガリにそこは拒否された。
だから邪魔の入らないカガリと一緒の空間…それは何よりアスランにとっては至福のひと時だった。欲を言えば運転手もいなければ更に至高だったが、送迎してもらっている身となれば、流石にそこまでの贅沢は言えない。
カガリも終始ご機嫌で、ニコニコしている。
本来なら、その小さな手を取って、握りしめていたいのだが、カガリの両手はカガリこだわりの手製の大きな袋を抱え込んでおり、アスランの手をシャットアウトしている。
折角恋人同士になれたのだから、もっと甘い時間が欲しいのだが…
こう考ええるとカガリの方は男性思考で、自分の方が女性思考なんだとつくづく思う。
まぁ、だからこそ、上手いバランスが取れている、と思うのだが。

そう考えているうちに、リムジンはある建物の門扉の前で、静かに止まった。
「さぁ、ついたぞ!」
運転手が先回りして、礼を取りながら車のドアを恭しく開ける。
「・・・懐かしいな・・・」
アスランが感慨深く、その建物を見上げる。
「だろ?きっとみんな喜ぶと思うぞ。」
カガリが進んで歩み出て、その門をくぐった。
『クサナギ養護施設』―――カガリとアスランの出身したホームだ。
「まぁ、二人ともいらっしゃい。」寮母の先生方が歓待する。
「お久しぶりです、先生。」
「あなたがあの、アレックス!?本当に立派になって…」
アスランが進んで挨拶すると、寮母たちも目を潤ませた。
幼少時は人一倍人見知りが強く、その点では先生方をてこずらせたアスラン。思わず気恥ずかしさに頭をかく。
すると
「あ!カガリだ!」
「カガリが来たぁー!」
たちまち幼い子供たちがわらわらとカガリの周囲に集まってくる。
カガリは時々、この養護施設を訪問し、ボランティアをしているらしい。あの頃と全く変わらず、相変わらずの人気者だ。
「カガリー、この人誰?」
幼子の一人がアスランを指差す。(そういえば…)とばかりに、周りの子供たちも、不思議そうにアスランに視線を送る。女生徒たちの熱い視線は、まぁ流すことは慣れているが、純粋な視線が真っ向から向いてくると、何故か威圧される。…なんだか幼少時から成長していない気がする…。
対応に困っているアスランに苦笑して、カガリは皆に言った。
「この人は『アスラン』。みんなのお兄ちゃんだぞ。」
「・・・『おにいちゃん』・・・?」
キョトンとしている子供たち。だが、すぐに瞳が輝きだした。
「やったー!」「ねぇ、アスランも遊ぼう!」
「ちょ、ちょっと待って―――」
あっという間に取り囲んだ子どもたちに引きずられるようにして連行されるアスラン。その姿をカガリは笑顔で見守った。

ホールではすでにパーティの準備ができていた。
――『Halloween & Birthday』――
いつも10月はハロウィンと、10月生まれの子供たちの誕生日会を一緒に行うのは、昔から変わりなく続けられているホームの楽しい行事だ。
「それじゃ、みんな。お菓子配るぞ~」
カガリの声に、子どもたちがたちまち集まってくる。
いつの間に着替えたのか、カガリはしっかりと『ハロウィン・コスプレ』の吸血鬼の格好をしている。スカート丈の短い黒のレースドレスからは、黒ストッキングが形の良い脚をすらりとみせ、軽く黒のマントを羽織って、頭にはコウモリ羽のカチューシャまでつけている。
ちょっと見せた八重歯が何とも愛らしい。
「何しているんだ?アスラン。お前もちゃんと着替えて配るんだぞ。」
「・・・俺が?何に?」
ぽかんとしているアスランに、カガリは仁王立ちしていった。
「決まっているだろ!?お前にはちゃんと『狼男』コスチューム持ってきてやったんだから、ちゃんとそれ着て参加しろ!」
「『狼男』って―――ちょっと待て!カガリ、俺は―――」
アスランに二の句も告げさせず、カガリはアスランを引きずるようにして連れていった。

「それではこれより、『ハロウィン&バースデーパーティを開きます!」
年長の子供の開会宣言に、歓声が沸く。
もちろん、吸血鬼のカガリと狼…ではなく、犬耳のカチューシャを付けさせられたアスラン(着ぐるみまで用意していたが、それだけは勘弁してもらった)も一緒だ。
カガリは持参したクッキーを美味しそうにほおばっている。と、アスランは飲み物だけで、お菓子を口にしていない。
「お前、お菓子食べないのか?」
「あぁ・・・あまり甘いものは好きじゃなくって・・・」
「じゃぁ…私、もらってもいいか?このクッキー好きなんだv」
「どうぞ、お姫様。」
「今は『吸血鬼』だっ!////」
「はいはい。」
くすくすと笑うアスラン。ようやくなじんできたようだけれど、なんかこちらだけ楽しんで食べているのが申し訳ない気がする。
お菓子を食べながらの歓談は、ちょっとアスランには居辛いか、と思い、カガリはとっておきの企画を早々にお披露目した。
「そうそう、お前たちに配ったお菓子。…実は一人ひとりに番号が書かれたシールが貼ってあるんだ。」
カガリの声に、子どもたちがモソモソと袋を取り出す。
なるほど・・・袋の中に、『パンプキン』の手作りカードが入っている。可愛いイラストなのは、カガリが必死に手書きしたのだが、あまりの不器用さに、アスランが代わって作ってやったものだ。
「これを使って『王様ゲーム』やるぞ!カードに王冠が描かれている人が王様だ。王様の命令には絶っっ対逆らっちゃいけないんだぞ~v」
途端にホールは大騒ぎ。アスランとカガリもカードは一枚引いていた。
「カガリは何番だ?」
カガリはこっそり、アスランにカードを見せた。
「私は5番だ。お前は?」
「俺は7番。」
そういってアスランもカードをこっそりと見せていると、いよいよ王様の命令が下された。
「1番と10番が歌う」「8番が3番におんぶしてもらってホール一周」などの子供らしい命令があったその後だ。
「んと・・・5番が」
カガリが思わず姿勢を正す。だが、問題はその後だった。
「7番に『チューv』して♪」
「・・・『へ?』・・・」
カガリの顔面が固まった。隣では、アスランがいけしゃぁしゃぁと7番のカードを皆に公開している。
「5番って誰?」「あーカガリだ!」「カガリ、早くお兄ちゃんに『チューv』ってして!」
早く早く、と急き立てる子供たちに、カガリは真っ赤になって応戦した。
「ちょ、ちょっと待てって!お前ら―――」
慌てて立ち上がるカガリに、アスランは澄ましていった。
「王様の命令は絶対じゃないのか?カガリ。」
「う・・・」
アスランにはディベートなら絶対に叶わない。子供たちの前で嘘はつけない。約束だって破れない。
こうなったら―――
「アスラン・・・」
カガリがギュッと目をつぶってそっと背伸びをし、唇をを寄せる。
柔らかな感触がアスランの頬に熱を伝えた。
「キャァ~~v」「カガリ、アスランのお嫁さんになってね!」
子どもたちがはやしたて、今年のパーティはいつも以上に盛り上がった。

「・・・全くもう・・・とんだパーティになっちゃったな・・・」
カガリがまだ頬を染めたまま呟いた。
まさか子供たちにまで、公認の恋人同士にされてしまうとは・・・
あれだけ引っ込み思案のアスランが、子どもたちに断るどころか、正々堂々とキスを要求して来るなんて。
・・・なんかアスランの策略に乗っけられてしまった気がする。
横目でじろりと彼を一睨みすれば、気が付いていないのかわざとなのか、涼しい顔でアスランが話し出す。
「そうだ、カガリ。俺の食べなかったお菓子、結局君が食べたんだっけ?」
「だって、アスラン「いいよ」って言ったじゃないか。」
「言おうと思って言えなかったんだが、俺、そういえば一つ甘いので好きなものがあったんだけど・・・」
「え!?全部食べちゃったかな!?まだ残っているかもしれないけど、どれだ!?」
袋の中をがさがさ探すカガリ。すると
「じゃぁ遠慮なく。」
彼の涼しい声が聞こえたら、カガリの完敗だ。顎をくいと引き上げられ、唇が奪われる。
「―――っ!///な、なにするんだよ、いきなり!」
「だって甘いもの、くれるって言ったじゃないか。」
「言ってないっ!///そ、それに私の唇は甘くなんて―――」
「カガリの唇にクッキーの欠片が付いていたから。甘くておいしかったよ。」
「えっ!?えぇっ!?」
慌ててポーチから手鏡をとりだして確認する。
そんなカガリをアスランは笑いながら、温かいまなざしで包み込んでいた。

―――どんなお菓子より甘い、君の唇。
     あっという間に俺の心を惑わす、蠱毒。
 
    これから毎日だって味わいたい、俺だけの甘いお菓子―――


・・・fin.