高砂大学最後の講座です。
テープ起こしです。
今から三十数年前の話です。ある子供の話です。
その子の名をかりに哲也としましょう。
その学校は割と大きい学校で、一学年200人ほどの学校でした。
毎年、学期の始めに転校生が来ます。最も大きい学校ですから、一人二人の転校生ではございません。２，３０人がズラーッと並ぶんですけど、最初に。始業式の時に壇の上に並びまして、みなさんに紹介されるんです。中に一人中学年だと思うんですけど…。そう、３年か、４年でしょうか。行儀のいい子でね。並んでる最中に怒鳴りまくるや、足、蹴っ飛ばすやら、頭をたたくやら…。わたし、3年、4年の持ち上がりの学級やさこい、いや～こんな子が自分のクラスに来るんやないんやろうかぁ…。学校の先生というものね、みんな殊勝なこと言ってますけど、あんまりキカン子が来ると困るんですよ。手のかかるからね。
やっぱり来ました。私、前、3年2組で今度は4年2組なんですけどね。哲也君は困った子でね。私の若いころは結構きつい先生でしたしね。みんな気を遣って、きちっと、人の名前を呼びますし、良く落ち着いたいいクラスやだと思とったんです。哲也君は、ったらね～。毎日毎日騒動が起きてね、掃除のじゃまはする、隣の座っている子の鉛筆は折る、・・・。子どもはその都度訴えてくるでしょう。そのうちね。始めの内は「哲也君が、哲也さんが」と言っていたのがあ、やがて「哲也が
」ってそんな乱暴なことを言う子になりましてね。よわった子が来たなあとおもっとたんですよ。もっと困ったのは1学期の終わりごろになると、嫌な噂を聞きましたね。子どもたちが「先生、哲也さんね。家からゼン持ち出しとる。」「おー、ほんなん。なんかあったん？」「この前、千円札でアイスクリームこーとった」。お母さんが再婚かなんかでいらしゃったと聞いとったんですけど、なんかせんなんかなあとおもっとったんですけど…。その内、子供たちが「先生、これは絶対、家からの持ち出しや。昨日ね、私ら5人ね、哲也からアイスクリームこーてもろうてぇ、あそこのスーパーで食べてぇ。ほれから、ついでに、動物の消しゴム、みんな一つづつこうてもろうてぇ。」こりゃ気付けんならんと思ったんですよ。その内、別の親御さんが「先生、やっぱり注意せんないかんぞね。家の子、こないだ返して来いと言うたんだけど、なんやらぁ、キラキラなぁ、下敷きこーてもって、こんなもんダメや返して来いと言うたんですけど…あの子、家から持って行っとるんやない」。
夏休みにね。8月の始めの全校登校日に子どもたちをみんな返してから、教室に呼びまして「あのね、僕はいい噂を聞かんがやけど。こんなこと聞いたんやけど、家からお金を持ち出しとるんやないかなー。」「ダラ。チゴ。」顔真っ赤にして否定して。この日私は、別に職員会議も何もないんで、ここは一つ持久戦で聞いてやろうと思いまして…粘ったんですよ。30分ほど掛かりましたわね。もう相手はだんだん、顔を真っ赤にしてえらい頑張っとるしね。僕をジーと見とるし。
私、割と短気なんですけど、その時に限ってまず、我慢して、30分ほどたっとるわね。我慢出来なくなったんですよね。哲也はね、顔を真っかっかにしましてね、「またやっちゃった」
私、いつもの悪い癖で、「
なにー、またやっちゃった」。ゲンコツ
入れようと思ったんです。でもね、その時ね。フッと止ったんですよ。自分が、アラッ・・・。待てよ。今、この子は、また、やっちゃったと言った。またやっちゃったということは、本当はやりたくなかったんかも知れん。
〝また″と付いとる時は、何か意味ある筈。だから「なにや、またー」って、ゲンコツ入れようと思った。の、代わりに、「どうしてまたやっちゃったんや」と聞いたんですね。そしたらね。今まで一言も、事のいきさつを言わなかった哲也がね。ペラペラペラペラしゃべりだして。よく聞いたら「どこの学校、どこの教室へ行ってもみんなわしを相手してくれん。みんなの感心を引いて、仲間にしてもらえとうて、みんなにいじわるしたり、買い食いしたり、はっきり言ってどうしたらいいか。しっこと分からん。」「することないがんか？」。「先生。することありましぇん」。「ほんなら、あんたのすること見つけたら、ほんでそんなダラんことせんか？」「しぇん」。「ほんなら、2学期になったらまた一緒になって哲也のすること見つけて考えような！」
9月になって、哲也はね。することがすぐ見つかりました。
例年、この学校では、10月になったら校内マラソン大会があるのです。学年ごとに男女別に1位から10位までは表彰されるんですけど、一番大事なのは1組から5組まであるんですけど、団体賞。一学年、男100人並び、女100人並び。ドーッと走りましてね、男女別に。一番先に入ってきた子には100点のカードを渡す。2位の子には9９点のカードを渡す。最後に集まったカードを集計するのですよ。
去年3年２組は5クラス中ドベ（最下位）でした。子どもたち悔しがりましてね。まず始めに、「学級会。先生開く」。「なんやったんや」。「<
