
■■■■■■■■■■蘇るか 微笑みの国■■■■■■■■■■
■「微笑みを忘れたタイ」
●2014年のクデター後,暫定軍事政権が樹立されてからから、4年半
が経過。やっと来年2月の総選挙の実施が発表された。
通常、クデターで生まれた暫定軍事政権は,総選挙による新政権が
出来るまでの暫定的な政権のはずだが、いつしか4年半にもなり、内
外から、軍部の横暴ではないかとの批判の声が挙っていた。
そして、かって「微笑みの国」とまで言われた、あの優しい雰囲気は、
タイ北部の古都チェンマイ辺りでは、とっくに失せてしまっていた。
(プラユット暫定政権首相)
●タイ北部といえば、古都チェンマイを中核とする古くからの伝統的な
農村地帯である。軍事クデターによって政権の座を追われたタクシン
元首相は、ここタイ北部を地盤とする政治家である。
それだけにその支持者であるタイ北部の農村部の人たちは、民政回復
の到来を一日千秋の思いで待ち望んできたことか。察するに余りある。
(タクシン元首相)
●その間、タクシン元首相の国外追放や、妹のスナワット前首相の国
外追放が相次ぎ、地元支援者としての辛苦を舐めてきた。
ひたすら隠忍自重、反対派である軍事政権の抑圧に何かと無言で耐
え抜いてきた趣がある。
●それだけではない。この暫定軍事政権の間、さまざまな出来事がお
こった。 昨年には、国民がこぞって敬愛する前国王ラーマ9世が亡く
なり、ワチラロンコン皇太子が新国王に即位した。
そして今回11日には下院議員選挙法が施行され、150日以内に総
選挙が行われる事になつた。総選挙は、来年2月24日の予定である。
■「総選挙と民政化」
●タイはいま、総選挙に向けて政治活動が解禁され、一斉に動き出し
た。そして集会も自由になった。
正当な総選挙で一挙に明るさが戻ってきた感じだが、政権を握る暫定
軍事政権側は、景気浮揚策の一環と称して、
・貧困層の1450万人を対象に一律500バーツの新年ギフトの配布、
・全国の高齢者に 1人1000バーツを支給
など 様々な ばらまき策を連発して、反対政党からは 「大衆迎合もひど
すぎる」 との非難を浴びている。
●現在予測される政党区分は、与党の軍政に近い 反タクシン派(都会
の中間層や軍人や官僚や財閥など)は、現役の閣僚4人が中核の
親軍政政党の「国民国家の力党」を設立して 総選挙への態勢ずくりを
始めた。
この党は地方政党も取り込み、親軍事政権を樹立して プラユット暫定
首相の再任を目指す。予測
●一方野党の主役は、クーデターで政権を追われたタクシン元首相
の「党タイ貢献」である。
かって政権時代に政策導入した1回30バーツ約百円という 低額の
医療制度は、北部や東北部の農村部に圧倒的な評価をえており いま
なお絶大の支持を維持しているという。
どちらにしても次の総選挙は、当時の政権をクーデターで引きずりお
ろした軍政党と、一方、軍隊により無理やり政権を奪われた当時の
政権政党との怨恨の戦いになることは間違いない。
●現地専門筋の予測によると選挙を目指すという。
(主な政党) (党首名)
・親軍政派の「国民国家の党」 ウッタマ党首
・反軍政派の「タイ貢献党」 ウィロート党首代行 (タクシン元首相派)
・中間派の「民主党」 アビシット党首
その他に
・「新未来」 反軍政の若手経営者や学者の党
・「タイの誇り」 タクシン派から分かれて民主党と連立
・「タイ国民発展」 貢献党、民主党との連立の実績を持つ
■「総選挙に至る道のり」
●昨年8月には、前政権時代',農家からのコメの買い上げ政策
を推進したタクシン派と、反タクシン派の軍部との根深い対立と
確執の結果ではないかと、内外の話題を集めた。
爾来、前首相は元首相ともども、国外に逃亡したままの異例な
政治状況が続いている。
(ワチラロンコン新国王)
●タイの前国王が死去してから2年になる。暫定軍事政権下で皇太
子が新国王に即位したことに伴い、プラユット暫定首相が総選挙前
に新国王の載冠式を行うと言及した。
王室がきわめて重視されるタイでは、その戴冠式準備のために、総
選挙が、またまた伸びるのではと危惧されたが、これは国王の意向
で総選挙後に持ち越された。
●そうこうしているうちに、現在の軍人首相の続投を支持するという
「親軍政党」が、あらわれてきた。
これは民政化に対する後退を狙うもので、次の総選挙の大きな争点
になりそうだと言われている。
●いまタイの経済は、ASEANのハブとして至って好調である。
にも拘わらず、政治は三流といわれる所以は、近代になってクーデタ
ーが頻発し、決して中進国とはいえない状況にあるからだろうか。
その理由は、国を二分する大きな経済格差が伏在する事だと言われ
る。 「持てるもの」と「持たざるもの」という タイ独自の対立の構図は、
いまもって解消されていない。
経済の発展が遅れた北部や東北部の貧困な農村地帯は、タクシン
大票田だが,主たるタックスペイヤ―(納税者)である中間層や上層
(財閥)を擁する南部の都市部と、永きにわたり政治的に対立してき
た。 いや今も対立を繰り返しているといっていい。
■「微笑みの国、復活なるか」
●100年足らずの一国の現代史の中で、こんなに多くの クーデターを
経験した国はないだろう。にも拘らず、一度たりとも大騒乱や内戦
にならなかったのは、国民が挙って敬愛する国王の存在があった
からに違いない。
●「タイのクーデター」
(立憲クデター)を皮切りに成功したものだけをを列挙すると、
・1932年 (立憲革命クーデター)立憲君主制に
・1933年
・1947年
・1951年
・1958年
・1971年
・1976年
・1077年
・1091年
・2006年 (タックシン政権の失脚)
・2014年 (インラック首相の追放)
●現地の総選挙、世論調査情報によると(タイ国立開発行政研究院調査)
・1位 タクシン派 (貢献党)
・2位 軍政派 (国民国家の党)
・3位 中間派 (民主党)
3位の中間派の動向が、来る総選挙の勝利の鍵を握っていると見ていい。
●次の総選挙(下院)では、500名の下院議員を選ぶ事になる。
軍政側は、すでに権力の保持を狙って、上院250人を事実上、軍が事前
に指名できるよう、特別の法制度を決めたという。
そして総選挙後の首相指名では、下院500名と上院250名、合計750人の
投票結果で、優位に首相を決める事ができるよう、既に工作済みという。
政争のためとは言え、なんと巧妙なことか。
(下部資料 出所、NHKダイジェスト2018)
●日本にとって、タイは、アジア最大の投資国である。日本の経済の専門
家は「経済政策の継続性からみて首相の続投は、日本企業にとってプラス
に映るが、軍政に対するタイ国民の反発や不安は、十分認識する必要が
ある」と指摘する。
軍政とはいえ、最近では民間人閣僚を登用し、柔軟政策を打ち出してきた。
去る5月の日本との経済閣僚協議でTPPにタイが参加する意向を表明した。
総選挙を前に、プラユット暫定首相は、訪米してトランプ大統領と初の首脳
会談を行い、改めて、経済と政治と国防の交流を約束したという。
●マレーシアの政治変動や近くはカンボジアの総選挙結果など、また一帯
一路を標榜する大国中国の動向など、タイ国の将来を控えての国民の政治
選択が、あと数ヶ月後に迫りつつある。
●タイはかっての農業国から、いま自動車や電子部品などの高度工業国に
構造転換途上にある。大きく経済が拡大すれば、民度が高まり、政治も自由
公正な態勢に変わっていくはずである。
しかしタイは、日本同様、世界でも有数の少子高齢者国という宿命を持つ。
それだけに先進国入りする前に、政策的に息切れするかどうかも大きな課題
となる。
来る総選挙を含め、当面するタイの国民の努力と叡智と協働に期待したい。
(注)タイのクーデターの歴史や経緯は、当ブログの右欄「カテゴリー」の
(タイのクーデター)を参照ください。
過去24回にわたり、その経緯を ドキュメントして解説しています。