少し時間が経ちましたが、3回目は10位から6位を紹介します。
10位 山中慎介 vs トマス・ロハス(2012年)
初防衛戦でビックネーム(ダルチニャン)に勝利した山中慎介、「2度目の防衛戦の相手は誰なのか?」、ファンの間で期待が膨らむ中、選ばれたのは元WBCスーパーフライ級王者で、日本でも河野公平や名城信男に勝つなど日本人キラーぶりを発揮しているトマス・ロハスだった。この相手は敗戦こそ多いが、「ジェリー・ペニャロサ」「アンセルモ・モレノ」「ホルヘ・アルセ」などビックネームとの対戦が多い強豪。打たれ弱さもあるロハスなので、山中のKO勝利も予想出来たが、試合は予想を遥かに上回るKO劇を演じた。山中のコンビネーションで前のめりに倒れたロハス、しばらく立ち上がれないほどのダメージ、まさに戦慄のKOシーンだった。
9位 井岡一翔 vs 八重樫東(2012年)
日本ボクシングで初めて世界チャンピオンになったのは白井義男さんだ。それは60年前の1952年のこと。その後、日本が公認しているWBAとWBCという団体の世界チャンピオンが数多く生まれた。しかし、この60年もの間、実は日本人の統一王者(WBAとWBCを同時に保持する王者)というのは出ていない。かつて鬼塚勝也(WBA)と川島郭志(WBC)の対戦を期待したが叶わなかった。夢のカードというのはなかなか実現しないのが現実。しかし2人の勢いあるチャンピオン、そしてファンを大切にする2つのジムが協力し、日本初の統一戦が行われることになった。井岡と八重樫、戦前の予想は無敗の井岡が断然有利だった。そしてそのとおり試合を支配する井岡だったが、何度良いパンチを当てても八重樫は怯まない。それどころか前に前にプレッシャーを掛け続ける。終盤は井岡も押される場面が多くなり戦前の予想を覆す「激戦」となった。判定で井岡が勝利するも、敗れた八重樫の評価は落ちるどころか上がった。八重樫へ向けた大きな拍手がそれを物語っている。
8位 長谷川穂積 vs ウィラポン・ナコンルアンプロモーション2(2006年)
日本人にとって1番有名な外国人ボクサーは誰か。私はウィラポンだと思っている。皆さんもご存知、辰吉丈一郎を2度も完膚なきまで倒し、先日ドネアと戦った西岡利晃とは4度戦い4回ともベルトを渡さなかった。まさに本物の日本人キラーだったが、2005年に長谷川穂積に判定で負けてしまう。長谷川穂積が強かったのか、ウィラポンの実力が落ちていたのか、再戦は早くも1年後に行われることになる。試合は前戦以上に長谷川のスピードが上回りポイントを重ねる。そして劣勢のウィラポンが意を決して強引に前に出たところ、長谷川の強烈な右フックがカウンターでウィラポンをとらえた。ウィラポンのダメージは重く立ち上がることが出来なかった。長谷川穂積は強かった。ウィラポンは全盛期に比べると力は下降線をたどっていた。時期が違えば真逆な結果もあっただろう。新たなニューヒーロー登場の喜びと、日本人に愛された強豪王者の終焉に寂しさも感じる一戦だった。
7位 長谷川穂積 vs フェルナンド・モンティエル(2010年)
ウィラポンを敗った長谷川は試合毎に強くなっていった。重ねた防衛は10度、6度目から10度目までは5試合連続KO防衛をしている。しかし同時にモチベーションの低下、大きくなった身体による減量苦が長谷川を苦しめた。そして11度目の防衛戦は長谷川のモチベーションを高める相手が用意された。モンティエル、WBOの現王者である。試合は初回から両者がハイレベルの攻防を展開。当時日本武道館で観ていたが、あの張りつめた空気は今でも忘れられない。みんなが試合に釘付けで、ラウンド終了のゴングを聞いて、まるでそれまで息するのを忘れたかのようにざわめきだすのだ。そんなハイレベルの攻防の中でも長谷川がポイントを重ねていた。しかし4R終了間際、モンティエルの1発のパンチで形勢逆転。今まで倒すことに重視していた長谷川は、ピンチでの対応を備えていなかった。いっそ倒れてしまえば良かったのだが、ロープを背にして打たれ続けレフリーストップとなった。残念な結果だったが、真の世界レベルのボクシングを観たという感動があった。
6位 西岡利晃 vs ノニト・ドネア(2012年)
西岡利晃の最終章は対戦を望み続けていたノニト・ドネアだ。なぜドネアなのか、答えは簡単である。彼が「最強」だからである。近年のボクシングは団体が増え(WBA,WBC,IBF,WBO)、その団体の中でも王者が乱立(スーパー、暫定など)している。だからボクシングは王者になることや防衛をすることだけでは評価されなくなった。複数階級制覇でも弱い相手ばかりだと世界的には評価されない。評価されるには簡単である「強い相手に勝つ」こと。フィリピンのボクサー「マニー・パッキャオ」が評価されているのは、常に強い相手と戦い続け、勝ち続けたからだ。そしてドネアも強い相手と戦い続け、パッキャオの後を追って栄光へと走っていた。ドネアにとって3階級目であるスーパーバンタム級ではすでにIBFとWBOのベルトを手にしていたが、WBCの西岡利晃が最強という声もあり、両者の思いが合致し「最強を決める対戦」が決まった。試合は西岡の9RTKO負け、完敗だった。しかし多くのボクシングファンの夢を叶えてくれた西岡、西岡のボクシング人生は「強い相手に勝つ」というボクシングの素晴らしさを改めて教えてくれた。
すべては夢の過程だから。 | |
西岡 利晃 | |
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211 ~長谷川穂積、ベルト奪還までの日々~ | |
水野 光博 | |
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