いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

大飯原発・・・橋下市長の心変わり? いや、首長たちのここまでの姿勢を評価するのが正解でしょう。

2012年06月03日 19時06分05秒 | 日記


 大飯原発の再稼働に、あれほど反対していた大阪の橋下
市長が、一転、再稼働を認めました。
  
 この問題では、「民主党政府を倒さないといけない」と
まで言っていましたが、再稼働の容認とともに、この発言
を「撤回します」と述べました。

 ほとんど、心がわりといっていいほどの変わりようです。

 私は東京にいて、直接、橋下市長を取材したことはあり
ません。
 しかし、記者生活を通じて実感するのは、重要な情報や
事実は、ほとんど、新聞やテレビで、公開されているとい
うことです。
 大事なのは、その公開された情報と事実から、実際のと
ころはどうだったのかを分析することです。
新聞とテレビの情報から、その分析をやってみましょう。
 
 橋本市長は、5月31日の木曜日、記者団の前で、
 「関西広域連合」の声明に言及し、
 「(再稼働の)事実上の容認ですよ」
 と述べました。

 では、この関西広域連合が何かというと、大阪や京都、
兵庫、滋賀など、関西の自治体で作っている自主的な協議会
で、知事や市長がメンバーです。
 関西の復権をどうするかなどの提言を出したりしており、
関西ではよく知られた協議会です。
 現在は、兵庫県の井戸知事が会長です。
 
 この関西広域連合が、30日の水曜日に、まことに分か
りにくい声明を出しました。
 次に掲げますので、ちょっと読んでみてください。
 判じ物のような文章です。

 関西広域連合の声明・・・
「大飯原発の再稼働については、政府の暫定的な安全判断
であることを前提に、限定的なものとして適切な判断をさ
れるよう強く求める」
 
どうですか。分かりにくいでしょう。
 そこで、井戸会長が、報道陣に聞かれて、 
「国に判断を任せるということですよ」
 と、えらく率直に説明しました。

 もう、関西の首長は再稼働に対して何も言わないから、
再稼働するかどうかは、国で決めてくださいーーというこ
とです。

 もちろん、国は原発を再稼働させたいのです。
 ですから、国に判断を任せるということは、関西広域連
合として再稼働を認めるーーということです。


 橋下市長は、この声明を受けて、
 「表面ばかり言っていてもしようがない」
 「事実上の容認ですよ」
 と言い、大飯原発の再稼働を認めたわけです。

 関西広域連合で、この声明をまとめることが出来て、関
西の首長のみなさんは、ほっとしたのではないでしょうか。

 元来、関電のエリアは原発への依存度が高いのです。
 ですから、大飯を止めたままでは、夏に電力不足が起きる
可能性が高い。
 電力不足で、実際に計画停電という事態になったら、市
民の間で不満が高まる。
 原発に代わるエネルギーがあればいいのですが、いまは、
それはまだない。
 再稼働を突っぱねるべきかどうか。
 関西の首長は、かなり苦しい立場に置かれていたと思い
ます。

 しかし、首長がだれか一人、率先して、
 「再稼働を認める」
 とは、なかなか言えない。
 言い出しにくい。
 そこで、「関西広域連合」という協議会が、
 「政府に判断を任せる」 
 と言えば、
 首長は、
 「関西広域連合の声明だから」
 と、ちょっと逃げられる。

 そういうことだと思います。

 しかし、橋下市長は、最も強硬だったわけですから、関
西広域連合の声明に対しても、
 「NO」
 といってもよかった。
 それを言わなかったわけです。

 橋下市長も、関西広域連合の声明に、あえて、
乗ったのです。

 そこは、やはり、心変わりといわれてもしようがないで
しょう。
 では、なぜ、そこで心変わりしたか。

 6月1日の日経新聞に、おもしろい一節がありました。
 東京都の猪瀬副知事が、橋下市長に電話をしてきて、
 「電力の実情を見ると、あまり突っ張らないほうがいい」
 とアドバイスしたというのです。

猪瀬氏は、橋下市長の理解者です。
 同時に、東電に対して、厳しい批判を続けています。
 その猪瀬氏から
 「あんまり突っ張らないほうがいいんじゃないか」
 と言われたのは、大きかったと思います。

 もうひとつ。
 きょう6月3日、日曜日の朝、テレビ朝日の番組で、橋下
市長の支持層である大阪の中小企業の経営者が、「電力が不足
して計画停電になるのは困る」と話す様子が流れていました。
 
 これは、かなり決定的な要素になったと思います。
 少し説明しますと、
 ・ 橋下市長のコアな支持層のひとつは、大阪の中小企
   業の経営者である。
 ・ 大阪の中小企業は、万一、計画停電などということ
   になれば、工場を停止する事態に追い込まれ、経営が
   苦しくなる。
 ・ だから、大阪の中小企業は、橋下市長に対し、大飯
   原発の再稼働を認めてほしかった。
 ・ 当然、橋下市長には、そうした要請は、さまざまな
   機会に伝えられている。
 ・ 橋下市長も、それは無視できなかった。
 ーーということになります。

  大阪は、もともと、中小企業の街で、かつては旧民社党
の牙城でもあったのです。
 中小企業にとっては、電力は、生命線です。
 代替エネルギーがない以上、背に腹は替えられないわけ
で、中小企業のことを考えると、大飯原発の再稼働を認め
るしかないのです。

 大阪府の松井知事は、
 「関西広域連合の声明を、(政府の再稼働の)アリバイ
作りに使われた」
 と述べました。

 しかし、政府がアリバイ作りに使ったというよりは、む
しろ、関西の首長が自らのアリバイを作るために、自ら、
関西広域連合の声明を出したーーということだと思います。

 当然のことながら、橋下市長をはじめ、関西の知事、市
長に失望したという声も、出ています。
 
 しかし、そうではなく、大阪の市長や、京都、滋賀の知
事が、公式の場で、
 「原発の安全性」や
 「原発依存への疑問」 
 を語ったことが、これまであったでしょうか。
 
 いまは、むしろ、そのことを評価するべきではないかと
思います。
 大阪や京都、滋賀の首長が、原発の再稼働に反対すると
いうのは、歴史的なことです。
 
 「心がわり」を批判するのは簡単ですが、しかし、
いまは、心がわりを批判するのではなく、大阪市長や京都府知事、
滋賀県知事が、原発への疑問を語ったということを評価する
のが正解だと思います。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿