日本経済が中国に逆転された。
中国の経済規模が、とうとう日本を抜き、アメリカ
についで世界第二位になった。
日本は、二位から三位になる。
さて、では日本が中国に抜かれたことをどう見れば
いいのだろうか。
まず、基本的なデータをおさえておきたい。
経済規模は国内総生産(GDP)の数字だ。GDP
は、その国で、1年間にどれだけのものが生産されたを
総合計したものになる。
中国の国家統計局は、20日、2010年のGDP
が39兆7983元になったと発表した。ドル換算する
と5兆8800億ドルになる。
一方、日本の2010年のGDPは2月14日のバ
レンタインデーに発表されるのでそれまでは分からない
が、1月から9月までのGDPから推計すると、5兆4
000億ドル前後とみられている。
約4000億ドルの差で、三位に転落するわけだ。
ちなみに、アメリカの2010年のGDPは、14
兆6000億ドルと推計される。
日本が中国に逆転されるのは、もう3、4年前から
予想されていた。しかし、実際に逆転されてみると、イ
ンパクトは大きい。
なぜ逆転されたのかということから見ていこう。
実のところ、逆転の一番大きな原因は、日本の物価
が下がっていることだ。このブログの牛丼の値下げのと
ころで書いたデフレがとりあえずは最大の原因だ。
日本のGDPを円のままで見てみると、
2001年 493兆円
2002年 489兆円
2003年 493兆円
2004年 498兆円
2005年 503兆円
2006年 507兆円
2007年 515兆円
2008年 505兆円
2009年 474兆円
2010年 477兆円(推計)
となっている。
これは、市場でのナマの数字で表してある。
これを名目値、名目GDPという。
驚くべきことに、2001年(493兆円)より、
2010年(477兆円)のほうが、日本のGDPは少
ない。
言い換えると、この10年間、名目GDPで見ると、
日本経済は、まったく成長していないことになる。
成長していないどこどか、経済規模が縮小している。
これがデフレだ。
なぜこんなことになるのだろう?
牛丼に答えがある。
牛丼各社は、今月、300円台の牛丼を200円台
に値下げした。簡単のために、300円から200円に
値下げしたとしよう。
それまで100人だったお客さんが、値下げによっ
て120人に増えたとする。それで売り上げを計算する
と、それまでは300円かける100人で、3万円だ。
値下げ後は、200円かける120人になるが、合計2
万4000円だ。
牛丼屋さんに来る人数が20人も増えたのに、売
り上げは3万円から2万4000円に、6000円も減った。
20人もお客さんが増えたら、店は忙しくなる。
店のスタッフの仕事はかなり増えるだろうし、使うおコメ
も多くなる。牛肉の消費量も格段に増える。
そうると店が活発になったように見えるのだが、値下げ
のせいで、売り上げは全然増えない。
それと同じことが、日本経済の全体に起きている。
牛丼屋さんの売り上げが減っているように、日本
経済の総生産、つまりGDPが減っているのだ。
怠けてなんかはいない。
それどころか、みんなして、一生懸命に仕事を探し、
一生懸命に働こうとしていて、以前より余裕がないほど
なのに、日本の経済規模が縮小しているのだ。
日本経済の全体が、牛丼屋さんのようになってし
まっているわけだ。
いってみれば
「日本経済の牛丼屋さん現象」
というような現象が起きている。
この状態を石川啄木の短歌でいえば
「働けど働けど
なおわが暮らし
楽にならざり
じっと手を見る」
ということになる。
もし、牛丼屋さんが値下げせず、お客さんが10
0人から、たったの一人でも増えて、101人になってい
たら、牛丼屋さんの売り上げが増えて、日本経済のGDP
が増える。
GDPとはそういうものだ。
しかし、実際は、日本中がいま牛丼屋さんのよう
になってしまっている。
現実に、日本の物価は下がっている。
物価が下がれば、給料の使いでが増えて、実質的
に給料が増えたことになる。そんな理屈がいわれたことも
ある。それも、このブログの牛丼の項で書いた。
経済学としてはそれで正しいのだが、しかし、実感
としては、それはほとんど屁理屈だろう。
経済学的には、給料と同じように、名目のGDP
だって、物価が下がったなら、実質のGDPは増える。
簡単にいえば、もし、物価が5%下がれば、給料
は5%分、使いでが増える。
同じように、物価が5%下がれば、名目GDPは
5%増えるとして計算する。それが実質GDPだ。
政府は、ずっと、名目GDPではなく、実質GDPを
重視し、それを政策判断の基準としてきた。
GDPは四半期ごとに発表され、新聞の一面を飾る
が、それも、よく見ると、実質GDPのことを書いてある。
バブルが崩壊して以来、実際に日本の物価は下がって
いる。そこで、この物価下落を勘案して、名目GDPを、
実質GDPに直す。それは、経済企画庁、いまの内閣府が
発表している。
その実質GDPを並べてみると。
2001年 504兆円
2002年 505兆円
2003年 512兆円
2004年 526兆円
2005年 536兆円
2006年 547兆円
2007年 560兆円
2008年 553兆円
2009年 525兆円
2010年 539兆円
驚くべきことに、実質GDPは大きくなっているのだ。
日本経済は、名目の規模で見ると縮小しているのに、
実質の規模で見ると拡大しているという、まことに不思
議な状態に陥ってしまっている。
しかし、私たちが、実際に牛丼屋さんや、街の
商店街、デパートで買う商品の値段は、もちろん、
名目の値段だ。
実質の値段などというものは、銀座を歩いて
いても、どこにもない。
そう。実質GDP というのは、極めてバーチャルな、
仮想空間のデータなのだ。
日本の実質GDPは成長しているんだけれどと
いったとすると、それは、プレーステーションで、
「シミュレーションゲーム・日本経済」というような
ゲームをやっているにすぎない。
各国の経済規模を比較するのに、そんなバーチャル
な実質GDP を使ってもしようがない。
比較するのは、名目のGDPだ。
日本と中国も、名目での比較になる。
日本経済は、この10年間、名目値で横ばいないし
は減少となっていたから、中国に追い越されるのは、時
間の問題だったわけだ。
景気の気は元気の気だ。
だから、経済でも、本当に大事なのは「名目」だ。
しかし、日本経済は実質GDPで成長しているとい
うのが、政府の長い間の公式見解だった。これはなに
も政府を批判しているのではなく、経済学がそう教え
ているのだ。
しかし、それが、経済政策をあやまらせた。
実質GDPは成長しているのだから、経済はうまく
いっている。そういう見方がどこかにある。
だが、きょう、日本の経済規模は、中国の後塵を拝
することになった。
それが、名目値の話だ。
そして、名目値こそ、私たちがいま現実に生きてい
る世界の話だ。物価が下がったから給料の使いでが増え
たでしょうといわれても、だれもうれしくない。むしろ、
物価が少々上がっても給料がそれ以上に増えたほうが、
はるかにうれしい。
それは、言い換えれば、 プロ野球の巨人・阪神戦で、
阪神がごく当たり前に通にプレーしているのに、巨人が
勝手に委縮してしまい、凡打と失策の山を築いているよ
うなものだ。
巨人が自滅したのだ。
今回、日本が中国に逆転されたのは、とりあえずは、
日本の自滅である。
もちろん、それだけが原因ではないが、それはまた
次回に。
(続く)