いまジャーナリストとして

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行政指導と霞が関・・・BPOはよく批判しました。高市総務相はせっかくワシントンにいたのに。

2015年11月10日 13時29分26秒 | 日記

  NHKのクローズアップ現代「出家詐欺」の、いわゆる過剰
演出について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検
証委員会が、「重大な放送倫理違反があった」とする厳しい意見書
を出しました。
 今回は、そのことより、むしろ、もうひとつ別の問題のことを
取り上げたいと思います。
 
 出家詐欺の放送が問題になった後、高市早苗総務相がNHKを
厳重注意しました。また、自民党がNHKの幹部を呼んで説明を
求めました。
 BPOは、意見書で、高市総務相と自民党についても、厳しく
批判したのです。

 放送法は、「報道は事実をまげない」と規定しています。
BPOは、高市総務相がNHKを厳重注意したのは、この放送
法を根拠にしていると指摘したうえで、「(報道は事実を曲げな
いという放送法の規定は)放送事業者が自らを律するための倫
理規定であって、政府が、放送法の規定に依拠して、個別番組
の内容に介入することは許されない」としたのです。

簡単にいえば、高市総務相が、個別の番組に口を出したのは、
許されないことだと、断じたわけです。

さらにBPOは、NHKが自主的に再発防止策を検討していた
のに、それにもかかわらず、高市総務相がNHKを厳重注意し
たことを、「放送法が保障する“自律”を侵害する行為だ」とま
で指摘しました。

BPOという放送界の組織が、政府、そして、監督官庁である
総務省に対し、ここまで明快に、厳しく批判するのは、極めて
珍しいことです。
テレビの電波の許認可権は、総務省が握っています。許認可権
を握っている官庁は、極めて強力な監督官庁です。
そういう強力な監督官庁に対し、BPOが厳しく抗議したのは、
ほとんど、快挙といっていいような出来事です。

ちょっと情けなかったのは、これに対する高市総務相の発言で
す。
BPOの意見書が出た11月6日の夜、高市総務相は、報道陣
の質問に答え、
「行政指導は法的拘束力があるわけでもなく、あくまで要請と
いうことであって、それを受けた側の自主性にゆだねるものだ。
行政指導は、行き過ぎだとも、拙速だとも思っていない」
 と述べました。
 
 さあ、この発言が、なんとも情けない。
 行政指導に法的拘束力がないのは、その通りです。しかし、
監督官庁から行政指導を受けると、民間企業は、ほとんど、そ
れを命令のように受けとります。そんなことは、日本では常識
です。
少なくとも、霞が関と民間企業の間では、常識です。
 日本では、戦後長い間、霞が関が「行政指導」という名前で民
間に指示を出し、民間がそれに従う、という格好で、政策運営が
行われてきました。
 行政指導の最大の問題点は、霞が関が、つまり、財務省や経済
産業省、農水省、国土交通省といった役所が、法律とは関係なく、
役所の考えや思惑で、政策運営をしてしまうというところにあり
ます。
 そうなると、政策運営が、法律に基づかず、役所のさじ加減に
よって展開されてしまいます。
 結局のところ、不透明な政策運営がまかりとおり、行政そのも
のが不透明なものになってしまいます。
 日本では、戦後長い間、それが続いてきました。
 霞が関が強い力を持っていたのは、そのためです。
 法律に書いていなくても、役所が思惑と都合で政策を運営する。それが、行政指導でした。
行政指導によって、霞が関が強力な力を持つ。そして、民間は、霞が関に頭が上がらない。
 それが、長い間の日本だったのです。

 それが大きく変わってきたのは、1980年代から始まった「規
制緩和」だったのです。

 もちろん、日本国内で、民間が力をつけ、そういうあいまいな
行政、恣意的な行政に対し、批判が強まったのが大きいのです。
 ただ、それと同時に、日米経済摩擦の中、アメリカから、日本
政府は行政指導によって市場を閉鎖しているとの批判が高まった
ことも、また、大きかったのです。

 高市総務相は、198年代後半、アメリカにいて、ワシントン
でアメリカの議員事務所で働いていました。
 日本のメディアのワシントン支局にも顔を出していたようです。
 ですから、当然、日本のあいまいな政策運営、不透明な行政、
恣意的な行政指導というものを、よく知っているはずです。
 そうでなければ、ワシントンの議員事務所で働いていた意味が
ないでしょう。

 総務省は、テレビ局に対し、電波を出せるかどうかを許認可す
る権限を持っています。テレビ局はみな、総務省から、電波を出
すための「免許」ともらっています。
 免許は、数年ごとに、定期的に更新されます。
 更新時期に、もし万一、総務省から免許がもらえなければ、テ
レビ局は、終わりです。
 官庁として、これほど強力な権限はありません。
 
 その総務省の、しかも、大臣から「行政指導」を受けたら、テ
レビ局は、それを、ほとんど命令と受けとります。
 とてもとても、行政「指導」などとは思いません。
 
 そんなことは、ワシントンにいた高市総務相なら、当然、知っ
ているはずのものです。
 それなのに、本人が「行政指導は法的拘束力あるわけではない」
と言ってはいけません。
 行政指導を受けた側は、ほとんど、法的拘束力があるものと受
け止めるのです。
 それを知らないはずがないでしょう。

 行政指導には法的拘束力がないとか、行政指導はいきすぎでも
拙速でもないとか、そういう言い方は、日本の行政を不透明にし
てしまいます。
 総務省は、郵政省と自治省が合併したものですから、自治省が
管轄していた地方自治体に対しても大きな影響力を持っています。
 地方自治に与える影響は非常に大きいのです。
 そのトップである総務相が、「行政指導は法的拘束力がない」な
どとうそぶいていては、地方自治体もまた、それに見習って、行
政指導を乱発しかねません。
 それがこわいのです。

 高市総務相は、猛反省しないといけません。
 ワシントンで働いていたのなら、なおさらです。







 










 





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