いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

日本の電機メーカーの衰退・・・米企業が指摘した日本企業の強みはどこに消えてしまったのでしょう。

2011年11月07日 14時22分25秒 | 日記

 スーパー・コンピュータといえば、天文学的な速さで計
算をする超大型コンピュータです。かつて、スーパー・コ
ンピュータの代表的なメーカーは、アメリカのクレイ社と
コントロール・データ社でした。この2社が、NECや富
士通、日立など、日本の電機メーカーとスーパー・コンピ
ュータの開発競争をしていました。

 しかし、1987年にコントロール・データ社が倒産し
ます。
 当時、私はニューヨークにおり、コントロール・データ
社が倒産を発表する会見に出席していました。
 このころは、電機も自動車も、日本の企業が圧倒的な上
り坂にあり、広範な分野で日米摩擦が起きていました。ス
ーパー・コンピュータもそのひとつで、政府レベルで交渉
がありました。日米スパコン摩擦という呼び名さえありま
した。
 
 コントロール・データ社は、その中で、倒産したのです。
 
 当然、日本企業との競争に負けたという見方になります。
さらにはまた、日米摩擦の最中ですから、日本企業がな
にか不公正なことをしたのではないかという見方も、アメ
リカから出ます。

記者会見でも、当然、そういう質問が出ました。
それに対し、コントロール・データ社の社長は、なかな
か立派でした。
彼は、
「いや、特段、なにか不正があったというようなことは
ない」と前置きしたうえで、
「日本企業が強いのは、彼らが、広くいろんな分野の製
品を作っていることだ。日本の企業には、総合力がある。
私たちのコントロール・データ社は、スーパー・コンピュ
ータしか作っていない。だから、スーパー・コンピュータ
の業績が悪くなると、会社自体の業績が悪くなる。
 それに対して、日本の企業は、スーパー・コンピュー
タだけではなく、パソコンも、テレビも、通信機も、冷蔵
庫や洗濯機まで作っている。だから、彼らは、スーパー・
コンピュータの状態が悪くなっても、ほかの分野の製品で
カバーできる。
 それが、日本の企業と私たちとの違いです」
 と冷静に解説したのです。

 コントロール・データ社の社長が言いたかったのは、日
本の電機メーカーは、たくさんいろんなものを作っていて、
総合力がある。総合的な体力がある。それが日本の企業の
強みだーーということでした。

 この会見を、私は、なるほどなあ、と思いながら聞いて
いました。
 日本の電機メーカーは、たしかに、実にいろいろな製品
を作っています。
たとえば、NECとパナソニックは、出発点がまるで違
う企業です。NECは旧電電公社の関係が深く、交換機や
通信機から出発しました。パナソニックは、松下電器とし
て、二股ソケットから出発したという有名なエピソードが
あります。
ところが、かつて、NECはコンピュータだけではなく、
テレビや冷蔵庫、洗濯機まで作っていました。またパナ
ソニックも、家電だけではなく、パソコンや半導体まで作っ
ていました。
日本の企業は、出発点が違っても、みな、同じように総
合電機メーカーになっていたのです。

そして、それを、スーパー・コンピュータの強力なライ
バルであるアメリカのコントロール・データ社が評価して
いたのです。
総合力こそ、日本の電機メーカーの強みであると。

ところが、バブルが崩壊し、日本が長期的な経済の低迷
に陥った990年代以降、日本の電機メーカーは、そうし
たせっかくの強みを、みずから捨てていくのです。

いま、日本の電機メーカーは、テレビを捨てようとして
います。テレビは、やせても枯れても、日本の電機メーカ
ーのシンボルでありました。
日本の電機メーカーは、リストラやアウトソーシングの
名のもとに、かつては基幹部分だった製品分野をどんどん
切り捨てていきました。
その結果、いま、たとえば、
 NECは携帯電話のメーカーになってしまったように
みえます。
 ソニーは、ゲーム機のメーカーになってしまったかのよ
うです。
 日立、東芝、三菱は、原子力のメーカーになってしまっ
たようです。
 サンヨーは、とうとう会社がなくなってしまいました。

 こうやった原因は、きっかけとしては、バブルの崩壊が
挙げられます。
 そして、なによりも、バブルが崩壊した後、自信を失っ
た日本企業は、なぜか、アメリカ流の経営コンサルタント
を起用します。アメリカ流のコンサルタントのやり方は、
     「不採算部門を切り捨てること」
 です。
 そうやって、日本の電機メーカーは、次々に、歴史のあ
る製品を切り捨てていったわけです。

 しかし、コントロール・データ社の社長がいみじくも指
摘したように、そうやって広くさまざまな製品を作ってい
ることが、日本企業の強みだったのです。
 せっかくアメリカのスーパー・コンピュータの社長が、
日本企業の強さを指摘してくれているのに、日本企業はみ
ずからその強さを捨てていったわけです。

 まことにもったいないというほかありません。
 これでは、「ものづくり」もなにもないというほか、な
いでしょう。
 残念ですが、それが日本の現状です。





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