goo blog サービス終了のお知らせ 

一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

あんでるせん・ファーストコンタクト(4)

2020-02-22 00:08:26 | 旅行記・九州編
私の想像をはるかに超えるマジックが展開され、私たち3人は半分混乱していた。なるほど、2回目の時の客が放心状態だったわけだ。
「私は中学生のころからこんなことをやってましてね、喫茶店を開いたとき、ヒマだったからお客さんにマジックを見せたんですよ。そしたらそれが口コミで拡がっちゃってね。このマジックを見るためにお客さんが増えちゃった」
私たちはフンフンと頷く。「だんだん店の前に行列ができましてね、朝の6時くらいから、向こうのほうまで並ぶようになった。おかげで駅前の交番から、随分不審がられました」
そうなるだろう、それは。「それじゃご近所迷惑だというので、いまは下で整理券をお配りしてるんです」
なるほど、あんでるせんには、ずいぶん歴史があるのだ。「特ホウ王国に応募したら、という人もいましたが、ああいうのはいくらでも不正ができますからね」
マスターのマスコミ嫌いは、社長から聞いて知っていた。「だって日本中からこんな田舎までねえ、わざわざ来ていただいて、ありがたいことです」
マスターは、目の前のお客さんを大事にしているのだ。
マスターがスプーンを出した。マジックでは定番のやつである。
「さっきカレーを食べた人はこのスプーンでしたが、ここが二重に捻じれていましたね。さ、じゃああなた、好きな角度を言ってください」
左の男性が30度と言うと、マスターは掌の上のスプーンの柄が、ククク、と上昇し始めた。これが30度なのだろう。
「42度」
マスターはそう言うと、さらにスプーンを曲げる。私たちは驚き疲れてしまって、このあたりのマジックなど、軽いものに思えてしまう。
するとマスターはスプーンを指1本で簡単に捻じり、水飴を巻くかのように、こねくり回した。お玉の角度は90度横に曲がり、
「これでカレーが食べやすくなりますね」
こちらは笑うのも疲れてしまている。
お玉の部分を裏側に半回転し、「これで左利き用」
もう、訳が分からない。
「ユリゲラーとか、曲がれ、曲がれ、って言ってましたね。あれは願望が入っているからよくありません。曲がった、と思わなければいけません」
「……」
「これはね、スプーンを折って離すこともできるんですよ。でもそれはスプーンに可哀想じゃないですか。だから折らずに留めてます」
私たちはただただ静かに聞くのみである。
「コインがあったら出してくれますか?」
私は100玉と50円玉を出した。2人組も10円玉などを出したが、500円玉が出ない。しまった……さっきのコーヒー代で使ってしまった。
左の2人もないようだ。するとマスターはとても残念そうだった。何だか私も、大変な逸機をしでかしたような気がした。
「いいでしょう、ハイこの100円ですね。これを豆腐とイメージしましょう」
マスターがそう言って、私に木片を渡す。「それで叩いて100円玉を割りましょう」
はああ……!? 私は何度か試みるが、100円硬貨が割れるわけがない。
だがマスターが同じことをやると、マスターの掌で、100円玉が3つに割れた!!
こんな光景は見たことがないから、驚くばかりだ。
「今度は繋げますよ」
マスターが手の中で揉むと、一瞬にしたその3つは1つに復元された。
「エエーーーッ!?」
「ちょっとこのあたり、まだ線が残ってますかね」
「……!!」
さらに100円玉に、タバコを「通す」。スッとタバコが抜けると、そこにはタバコ大の穴が開いていた。
「いいいーーーっ!?」
私は、恐るべき世界に迷い込んでしまったのだ。これは現実の世界なのか。いままでの常識が、すべて覆されていく。ただ確実にいえることは、いま私は世界中の誰よりも、不思議で贅沢な空間にいるということだった。
マスターが先ほどの千円札に50円玉を近付ける。すると50円玉が、そのまま紙幣の中に切り込んでいった。
「ええええーーーーーっ!?!?!?」
夏目漱石の眉毛の上で止めて、「サンバイザー」。
頭の上で止めて「ウルトラセブン、ジョアッ!!」
ここは笑わなければいけないのだろう。「1,000円の買物をした時、このまま渡すといいですね。消費税込みで1,050円。でもレジに入れにくい」
これもジョークなのだが、私たちはもう、笑う余裕がない。マスターは左手を広げ、その指の間に右手の指を通す。ちょうどクロスさせる感じだ。
「イメージはこんな感じですよ。分子と分子の間を抜けていく」
いや、そんなの説明されてもできるわけがない。
10円玉は小さくしたり大きくしたりして、ガラス瓶に入れてしまった。
最後は50円玉を、グニュッと半分に曲げてしまった。
「私の握力は400キロ。両手で800キロなんです」
はああ…もうグッタリ。とにかく凄いの一言である。ああ、ここに500円玉があったら、どんなマジックを見せてくれたのだろう。私はとんだ失敗をしてしまった。
気が付けば時刻は午後10時を回り、お開きの時間が近づいてきたようである。最後にマスターは、つねに物事をいいほうに考えること、つねにイメージを持つことを説いた。そして、「今日もいいことがなかったと下を向いて歩いていると、前を歩く人の埃ばかりを吸うことになりますよ」という意味のことを、文語調で語った。
「お名残り惜しいですが、これで終わりです。私のことを超能力者という人もいますが、私は2階にいる、イッカイの喫茶店のマスターです」
私たちは拍手をもって、最大限の賛辞をした。喫茶で1時間半、マジックで1時間半。そしてマジックショーのお代はなし。なるほど、これじゃあ客が殺到するわけだ。
そして、そうか、と思った。マスターが私たちに見せたかったのはマジックではない。今後の人生をいかに豊かに生きるか、そのヒントを与えたかったのだ。
私たち3人は表へ出た。私はこれから宿を取らねばならないが、「ビジネスホテルガイド九州版」は携行している。諫早あたりのホテルに泊まれるだろう。
そうだ、彼らに確認したかったことがある。例の生年月日当ての、彼らが押した数字である。
その数字と私の数字で検算して私の生年月日が再度出れば、マスターの超能力の証明にならないか?
……だが私は、彼らに声を掛けることができなかった。そこが私の欠点で、気軽に他人に声を掛けることができない。もっともそれがフランクにできていれば、夏子さんにも連絡を取っていたはずだ。
いずれにしても、私はあんでるせんにハマってしまった。何より、客がたった3人でも、(たぶん)満席時と同じマジックをやってくれたのが素晴らしい。
私は来年からも、この時期にお邪魔しようと思う。予約は大変そうだが、私がここに再訪するイメージがあるのだから、大丈夫だろう。
日にちはそう、今日と同じ12月の第3土曜日がいい。毎年ここで1年の疲れを落とし、生き方をリセットしようじゃないか。
(おわり)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あんでるせん・ファーストコンタクト(3)

2020-02-21 00:07:40 | 旅行記・九州編
マスターはマジックも凄いが、話術が巧みだ。普通の単語を使っているのに話し方と間が絶妙で、私たちは驚きの中にも笑いを交えるのだ。
ただ、マスターの本質はマジメ人間の気がした。ふだんも禁欲的な生活を送っているのではなかろうか。
「ヒトは過去には戻れませんね。30代の人が40代になった。あの頃は若かったナーって思う。40代の人が50代になる。40代は若かったと思います。50代の人が60代になる。やっぱり50代は若かったと思います。いつまで経っても、あの頃は若かったと思う。この繰り返しですね。でも過去をどうこう考えても、人は過去には戻れませんね。
……過去に戻れる方法が、ひとつだけありますよ。
いま30代の人が、10年先の40代のことを思い浮かべる。そこから10年過去に戻ってきたと考えれば、10年間大儲けですね。そう思ったら、これからの10年間で何をすべきか。うかうかしてられませんね」
なるほど、私はいま30代だが、10年先もいまの会社に勤めているとは思えない。まさかと思うがオヤジの仕事を継いでいるのだろうか。
でも家の仕事に就いたら性質上、もう結婚は無理だ。となればいまから結婚相手を探さねばならないが、候補がまるっきりいない。
角館の美女にはもう会えそうもないし、寝屋川市の真知子さんとも数年間連絡を取っていない。足柄市の夏子さんも同様だ。夏子さんは癒し系で私が押せば何とかなったかもしれないが、肝心なところで私は怖気づいた。要するに、連絡を取らなくなった。
しかしこれから毎度こんな感じだと、いよいよ私は生涯独身になってしまう……。
次はサイコロである。平たいグラスと、大きめのサイコロを出す。
マスターは私にサイコロを渡し、「何を出します?」
「3」
「じゃあ振ってください」
私が振ると、3は真横にあった。「3が出ましたね。
上から見る必要はありません。横から見れば3です」
「ハハハ」
「世の中、なんでもいい方にいい方に考えないといけません。
倦怠期の夫婦でも、お互いイヤになる時がありますね。こういう時旦那さんは、奥さんを隣の住人だと思えばいいのです。
その奥さんがわざわざ夕食まで用意してくれて、お風呂も沸かしてくれる。それでもう帰るのかと思ったら、床まで敷いて、横で寝てくれる。
辛くなったら子供をごらん。仲がいい時にできた子よ、ってね」
マスター、笑いの中にためになる話をぶちこんでくる。「風邪になっても、治りますように、はいけません。それは願望が入っていますから。もう治った、と完了形にしなければいけません。
自動車でも、フロントガラスに御守りを大量にぶら下げている人がいますね。あれは事故をイメージして、事故を起こしますよ、と言っているようなものです」
なるほど、そういうものかと思う。「さ、ではあなたが好きな数字を出しましょう。もちろんあなたが振ります」
「じゃあ5で」
「何回連続で?」
「2回」
「それじゃ少ないですね。せっかくだからもっと多く」
「じゃあ5回で」
それで振り始めると、5ばかりが出た。振っている時は、もちろん私も念じている。そして5回連続5が出たときは、大してギャラリーもいないのに、なぜかホッとした気持ちになった。でもマスターが念を送っていたのは言うまでもない。次に振った時は、違う目が出た。
次にマスターは、マッチ箱と爪楊枝を取り出した。「この楊枝で、このマッチ箱を刺してください」
私は言われるままにやる。楊枝がブスッと刺さり、そのまま沈めると、楊枝は貫通した。そのまま下から楊枝を抜く。
「驚くのはこの次です」
マスターがマッチ箱を開けると、そこにはマッチ箱大の金属が入っていた。ということは、私の楊枝が金属を貫通させてしまったということか!?
「あなたが、マッチ箱の中身は空だとイメージしていたので、これができたのです。イメージすること、これが大事です」
私は口をあんぐりするばかりである。
金属が入ったマッチ箱に私は再び楊枝を通すことを試みたが、もちろん通らなかった。
「今度は写真を撮りましょう」
マスターがポラロイドカメラを出した。マスターがトランプを切り、私に数字のほうを見せる。私は♡の3を選んだ。そのままマスターが私を、カメラで撮った。
1分で写真が浮かんできたが、私の頭上に、♡の3と、マスターの指の一部が映っていた。
「あなたが見た映像をそのまま映し込みましたよ」
そしてその上方には、かわいい女性が映っていた。「オバケならぬオマケですね。一緒に映りこんじゃった」
「ええー」
「かわいいコだね。たぶん高校の同級生でしょう。クラスにいなかった?」
私は高3の時だけ共学クラスだったが、見覚えはない。「廊下や街ですれ違っても、無意識に記憶に残すことはありますよ」
写真にはマスターがサインをしてくれた。名前は何とお読みするのだろう。
ところで、私はさっきからかなりマジックに絡んでいる。私はここに来るまで、マスターのマジックを粛々と観賞するだけだと思っていた。しかしそうではないのだ。もし観客がもっと多かったら、私はこんなに絡めないに違いない。これは、7時の回にずれたことが怪我の功名だったのではないか?
「ヒトはシチュエーションによって、考えることが違いますね。ある旅館で、宿泊の男性がポンポンと手を叩く。池の鯉は餌が貰えるかと思って近づいてくる。電線のカラスはビックリして逃げてゆく。仲居さんは用があるかと思って飛んでくる」
マスターが伝票を破った。
「では、ここにあなたの名前、ご両親の名前、生年月日を書いてください」
私は渡された伝票に、それらを書く。もちろんマスターに見えないように、である。それを小さく畳んで、ワイングラスに入れた。
「お父さんは、これなんと読むのかな。お母さんは、ミヨちゃん」
2人とも当てられ、私は驚いた。そんなことまで分かるのか!
マスターは電卓を取り出す。数字板に紙片で目隠しをすると、マスターは最も左の彼に「5ケタの好きな数字を押してください」と言った。そして左の彼にも、私にも同じことを言った。私は「12345」と打つ。
2周目に入り、「4ケタの好きな数字を足して」「3ケタの数字を引いて」と続く。私には、2ケタを指示された。私は「12」と打つ。いったい、何が起こるのだろう。
ここでマスターの指示があり、私が紙片を取ると、5ケタの数字が点灯しており、それが私の生年月日だった!!
「ええええーーーーーッ!!」
左の2人組は、なぜ私が驚いているのか分からない。
もちろん私の名前も当てられた。い、いまのもマジックだというのか!?
だが私がどの数字を押すか、マスターに分かるわけがない。そもそも生年月日自体を知らないのだ。何が、どうなっているのだ!?
私は混乱するばかりだった。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あんでるせん・ファーストコンタクト(2)

2020-02-20 00:10:00 | 旅行記・九州編
私は奥さんと思しきママさんにカウンター席を勧められ、座った。
すぐに、男性の2人組が入店した。彼らはテーブル席に座った。
店内を見回すと、出入り口の近くに大きなツリーがあり、天井まで届かんとしている。その下は大テーブルで、7~8人くらい座れそうだ。あとは4人掛けのテーブル席がいくつかあり、窓際のそれはゲーセンのテーブルだった。あれは100円を入れれば遊べるのだろうか。
壁には芸能人を思しきポラロイド写真が何枚か貼られている。なるほど芸能人からも知られた店なのか。
奥の厨房にはママさんと、そしてマスターがいるはずだ。
ママさんが注文を取りに来た。2人組はカレーライスとブレンドコーヒーを頼んだが、私はコーヒーのみとした。504円で、東京料金だ。私としてはこれだけでも十分な出費である。それに、もうお腹自体が一杯だった。
運ばれてきたコーヒーは普通の味だった。男性2人も、黙々とカレーを食べている。なんだかこれじゃあ、普通の喫茶店と変わらない。ここでマジックは行われるのだろうが、とてもそんな感じがしないのだ。
彼らも、この店を超能力マジックと認識しているのだろうか。たんに喫茶店として利用しているんじゃないか? いや違う、私の整理券は3だった。1と2が、この2人組なのだ。
私はコーヒーを飲み終えたが、マジックはまだ準備中である。例の社長は、このお茶の時間が随分長いと言っていた。私は、長い分には一向に構わない。
カウンターの端には、電話番号が記されてあった。そうか、まずは電話予約をしてこの店に来るのが手順だったのだ。知らぬこととはいえ、私は随分危ない橋を渡っていたようだ。
私はボンヤリと今年の旅行を思い出す。9月の沖縄も楽しかったが、槇原敬之が覚醒剤所持で捕まったニュースにはビックリしたな……。
追加の客は入って来ない。7時の回は、毎日あるのだろうか。まさか私たちだけのために、臨時で開いてくれたのだろうか。
そういえば今夜は9時からテレビ朝日の土曜ワイド劇場で、「混浴露天風呂連続殺人」がある。推理の楽しみはどうでもいいが、温泉ギャルのオッパイは観賞したい。
どうなんだろう。マスターのマジックは高が知れているだろうし、もう会計を済ませてどこかの宿に直行し、テレビを観ようか。今からなら温泉シーンにギリギリ間に合うんじゃないか?
いやいや、さすがにそれはない。わざわざここまで来たんだから、マジックを見るのが筋だ。
ようやく会計になり、私は504円をピッタリ払った。そしていよいよ、マジックとなった。男性2人組は、私の左に座った。やはり私が3番目のようだった。しかし客はこれだけである。この3人から、ついに人は増えなかった。
カウンターの前に出てきたのは40代と思しき男性で、丹波哲郎の息子の丹波義隆に似ていた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。マジックで束の間の時間を楽しんでください」
マスターは客が少ないことも意に介さず、マジックを開始した。まず、客からタバコを所望する。2人組がそれを差し出すと、マスターはそれを掌に載せる。そのタバコがクククとせり上がったので驚いた!
それをテーブルに置くと、ピン、とすっ飛んだ。私たちは口あんぐりである。
続けてマスターは、ボルトを取り出した。それにはナットが嵌まっている。マスターはそれをアクリル状の円筒に入れてカウンターに置くと、両手に拳を作り、気を入れた。するとボルトがカタカタ動き、ナットがシュルシュルと外れてしまった。
「うげー!!」
私たちは驚く。
「イメージですよ。ボルトとナットが外れるところをイメージする。結果をイメージするのです。3ヶ月練習すればできるようになります」
マスターが再び気を入れると、今度はボルトにナットが嵌まった。
「……!!」
マスターは千円札を所望すると、それを小さく折り畳み、中空に浮かせてしまった。お札はマスターが作った指の輪をくぐり、自由自在に動く。私たち3人はまたも奇声を発し、絶句する。マスターが「ハウス!」というと、お札がマスターの肩の上に乗った。
はああ……!! いままでこんなマジックは見たことがない。私はこれだけでもう、心を奪われた。
マスターがESPカードを取り出した。「丸、四角、星、十字、波形……世の中のあらゆるものは、これらの組み合わせでできていますね」
マスターはその5種類をカウンターに伏せて置く。その配置を私たちが当てる、という趣向だった。左の2人が3種類をテーブルに乗せる。私が残り2枚を乗せる。マスターが順番に開いていくと、それらはすべて同じ記号だった。
何が驚くって、私たちより先にマスターがカードを置いたということだ。これでは細工のしようがない。
「私は結果から見てますからね」
続いてトランプを取り出した。「トランプは13枚の4種類ですね。これで1年を表しているといいます。13週でひとつの季節。ドラマでも1クールは13週ですね。13×7日で91日、それが四季で364日。それにジョーカーを足して365日。うるう年は……エクストラジョーカーを足して、366日になります」
なんだかこじつけのようだが、私たちはウンウンと頷いてしまう。そしてここでもマスターは鮮やかなマジックを繰り出していった。
いくつか終えたあと、マスターが52枚のカードを拡げ、私に好きなカードをイメージさせた。
「♠の7です」
「ここから取ってください」
私が任意の1枚を取ると、それは♠の7だった!
「驚くのはここからですよ」
マスターが残りのカードを開くと、それは全部白だった!!
「エエーーーーッ!!」
「あなたがこの場所の♠の7を取ることが分かっていましたからね。ほかの数字はもう必要ないんです」
「……!!」
私は、とんでもない場に来たのではないか? 混浴露天風呂を回避して本当によかったと、私は胸をなで下ろした。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あんでるせん・ファーストコンタクト(1)

2020-02-19 00:09:35 | 旅行記・九州編
営業先の会社の社長から、妙な喫茶店のことを聞いたのは2年くらい前だ。
ある著書に記されていたのだが、その喫茶店は長崎県の川棚という田舎町にあり、そこのマスターが余興にマジックをやるらしい。これが超能力と見紛うばかりの出来だというのだ。
それはお客の名前をピタリと当てたり、紙幣に開けた穴が元に戻ったり、念写をやったりと、マジックの域を出た凄まじいものらしい。
ところがそれだけ凄いマジックを披露しながら、余興なのでお代は喫茶代だけだという。
私もその類の話は好きなので、その程度の出費で済むのなら行ってみたい。ただ店は全席予約で、場合によっては満席で断られる時もあるという。
そもそも長崎は遠く、よく考えたら旅費がかかる。さすがの私もしばし放置していたが、このたびJALのマイルが15,000たまった。それを使って長崎に行こうと思った。
有給休暇を1日取り、行きは12月18日(土)、帰りは20日(月)とし、往復の便を取った。ただし福岡空港往復である。年末の忙しない最中だが、驚異の体験をしそうな予感がした。

18日朝、自宅最寄り駅で青春18きっぷ(11,500円)を購入し、その1日目を使って、京浜東北線に乗った。浜松町からモノレールで羽田空港駅まで行き、09時35分発の357便・福岡空港行きに搭乗した。席は「44A」だったが、外を見る余裕はなかった。
福岡空港11時20分着。ここから福岡市営地下鉄空港線に乗り、博多下車。すぐさまJRに乗り換え、12時01分の下り鹿児島本線に滑り込んだ。
タイム51分で、鳥栖着。6分の待ち合わせで長崎本線に乗り換えた。タイム39分で肥前山口着。今回の目的地は大村線の川棚という駅だが、到着までなかなかに手間がかかる。ただし鉄道料金はもう払ってあるので、その点は心配いらない。
13分の待ち合わせで佐世保線に乗り換えた。車内はなかなかの乗車率で、私は立っていく。途中の三間坂で座ったが、高橋あたりで座るべきだったかもしれない。
早岐着14時42分。16分の待ち合わせで大村線に乗った。これが最終ランナーである。等級は普通列車だが、車両は特急電車のごとく豪華だ。JR6社の中では、JR九州が最も車両に力を入れていると思う。
右手に大村湾を見やり、15時23分、川棚着。ついにこの駅に着いた。ただし駅舎は平屋で、これといった特徴はなかった。
目指す店は駅前とのことだったが、屋号は何といったか。私は駅近くにある軽食喫茶「ペチカ」に入った。
店のオーナーはママさんだったが、ペチカか。もっと長い名前だった気がする。
私はとりあえず焼きうどん(500円)を頼む。遅い昼食である。食べながら店内を見渡すが、どうも違う気がする。
何となく食事を終え、会計にする。「この近くに超能力の喫茶店は……」と聞くと、ママさんは「ああ、あんでるせんでしょ? それなら」と、西肥バスセンターの向こうにあるお菓子屋の2階だと教えてくれた。そうだそうだ、あんでるせんという名前だった。あっちの方角だったか!
「あんでるせん」のたもとに着いた。ここが噂に聞く名店である。2階への入口には「フルーツパーラー」と白抜きされた庇があった。
そうそう、この1階のお菓子屋で整理券を受け取るのだった。私は引き戸を開ける。
「あのう……あんでるせんさんでマジックを拝見したいんですが」
対応してくれたのは実年男性で、マスターのご尊父に思われた。
「ああそうですか、でも3時の回がいま満席になっちゃったんですよ」
「えっ!?」
しまった……。ペチカで焼きうどんを食べたのがマズかった。すぐにあんでるせんの在処を聞けばよかった。
「男性1名だけなんですが、もうダメでしょうか」
「ちょっと、無理ですね」
「あの、私東京から来てるんですが、今日のイベントはこれでもう終わりでしょうか」
「あとは7時からありますよ」
「7時!?」
いまは午後4時にならんとしている。ここから3時間もあるのか……。
それでもいいと、整理券をもらった。「3」だった。私で3人目ということだろうか。
さてこれからどうするか。青春18きっぷがあるので、意味なく列車に乗っていれば時間を潰せる。だが僻地に行って何かあり、帰って来られなかったら面倒だ。
駅前は大村線に沿って県道が走っており、私は早岐方面に意味なく歩いた。
といってもこれといった施設はない。大きな本屋があったので入ったが、潰せる時間は高が知れている。
洒落た喫茶店があったので入ってみる。エビピラフ(500円)とコーヒー(250円)を頼んだ。これからあんでるせんにも行くし、はるばる長崎まで来て喫茶店三昧だ。
エビピラフはもちろん美味かった。会計の時、セットメニューが適用されたか、700円だったのに感激した。
川棚駅に戻り、今度はその先に行ってみる。長浜ラーメンの店があったので、入ってみる。ラーメンはトッピングも豊富で、美味かった(500円)。
そろそろ、あんでるせんの前に行ってみる。時刻は6時半を過ぎ、あたりは暗くなっていた。2階を見上げると、窓ガラスから灯りが漏れる。いまあの中では何が行われているのか。
しばらくすると、2階からゾロゾロと人が下りてきた。イベントが終わったようだ。だが皆さん快活というわけではなく、どこか放心状態に見えた。皆さん一体、何を見たのだろう。
もう私が入店してもいい時間だが、それにしては同好の士が見当たらない。
2階に上がり入店すると、果たして客は私しかいなかった。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あんでるせんの予約でいろいろ2019

2019-10-02 12:24:20 | 旅行記・九州編
長崎県川棚の超能力パーラー「あんでるせん」は全席予約。2ヶ月前から予約可能だったが、昨年あたりから、予約は「来店2ヶ月前の月の1日朝8時から」となった。つまり11月15日の回に行きたければ、9月1日から電話予約となる。
私は毎年12月の第3土曜日にお邪魔しているので、10月1日、すなわち昨日からの予約となる。
朝、朝食を摂ったあと電話を掛けたが、話し中である。あんでるせんには2つ電話番号があるが、メインは「82-2375」のようだ。そちらをメインに掛けたが、やはり話し中だ。
あんでるせんには都市伝説があり、マスターがその人を呼びたければ、ちゃんと繋がるという。
ついに呼び出し音が鳴ったが、なかなか出ない。9回鳴ったところで、切った。
午後になり、何度か掛けたが、また話し中である。午前の呼び出し音が鳴った時、もう少し粘るんだったの思いがよぎったが、もう遅い。
ところで今年の日程だが、12月の第3土曜日は21日である。だが下旬より中旬にお邪魔したい。そういうイメージなのである。それで、第一希望を14日、第二希望を21日とした。
午後2時ごろ、また掛ける。呼び出し音4回目で、なんとマスターご自身が出た。いつもはママさんが出るので、これは甚だ異例である。
私は14日か21日を希望したが、マスターは、14日でいいですよ、という。でもカウンターは塞がった、とのこと。これは想定内だし、いまさらカウンターに座る気もない。むしろ週末で空いていたのが奇跡的ともいえ、もちろん立ち見でOKした。
マスターも私に気付くでもなく、淡々と処理を済ます。
かくして12月14日、21年連続のあんでるせん行きが確定した。

続いて飛行機の予約である。私は10月1日現在、ANAマイルが15,000以上残っているので、できれば無料航空券の特典で行きたい。だが調べると、土曜日の「羽田→長崎」はほぼ1日、(無料特典の席が)満席だった。当日まで2ヶ月半あるのに、何てことだ。
ちなみに金曜の夜は空いていたが、その日は勤務しているとイメージしているので、予約は取れない。このあたり、自営業の時は融通が利いたから、まことに都合がよかった。
ちなみに翌15日の「福岡→羽田」も、ほぼ満席だった。私はこの時期2回か3回、特典を使ったが、当時は席の制限を設けてなかったのか、こんなに困難ではなかった印象がある。
ANAの「SUPER VALUE」を見ると、12月14日の401便(08:15~10:20)は空きがあり、16,190円だった。同企画では「75日前」の予約がかなり安いが、12月14日は74日前のようだ。もう、何もかもタイミングが悪い。
ためしにスカイマークを見ると、こちらは661便(07:20~10:25)の「いま得」が11,290円だった。飛行時間が3時間余もあるのは、神戸空港経由だからだ。
いずれにしても、朝55分早起きするだけで4,900円の節約は大きい。だが朝の55分は大きいし、ANAならマイルもたまる。意外に差額は小さいのだ。
だがどちらを予約したらあとあと後悔しないかと考えたら、これはスカイマークだった。「いま得」は料金変動制だが、これ以上急激に安くなることはないだろう。これで予約した。
復路はANAのSUPER VALUEが、20:55発の272便が13,690円だった。こちらは「75日前」に滑り込んだのか、かなり安かった。こちらも予約した。
あとは忘れずに入金するのみである。

昨年「マスター」は、「(あなたは)物作りの会社で働くのが似合っている」と言った。
実際その後、私は物作りにも関わる企業に就職したのだ。そこまでマスターの予言は当たっていたのに、そこを2ヶ月で辞めるとは、マスターも予定外だったに違いない。
私は合わせる顔がないが、今年マスターは私に、どんなアドバイスをくれるだろう。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする