冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

Jazz現代の名盤 その31

2011-07-31 19:08:46 | 息抜き
ヨーロッパのピアノが続きます。

Debut。Thomas Ruckertトリオによる2002年の作品。アルバムタイトルどおり、これがリーダーデビュー作です。当時31歳。

このアルバム、前にご紹介したJoe Haiderが運営するレーベルから出ています。当時私はHaiderの骨太感あるジジイピアノにはまっていたので、Haiderつながりでこれを買ってみたわけですが、かなり当たりでした。

とにかくバカテク組の一人であることに間違いはありません。1曲目から炸裂します。全然アメリカの臭いはしませんが、あえて言えばOscar Petersonを想起させる超絶技巧、そしてそれを自然とやってのけるふてぶてしさがあります。変調の繰り返し。恐ろしく即興的。そしてメロディもしっかり。ヨーロッパ的な美意識は健在。

2曲目はコルトレーンの26-2で遊びます。これまたバカテク。そして嫌味にならない美意識。31歳でこの能力は恐るべき。
スイスのジャズは大国アメリカやフランス、あるいは北欧に十分対抗する厚みがありますが、この1枚はかなり衝撃でした。
また、このアルバムではこの2曲目などで目立ちますがドラムの出来がよく、ピアノとの調和がかなりよいのですが、どうやらドラムを担当するのは実弟のようです。このレビューを書くまで調べていなかったのですが。やはり兄弟って何かを併せ持っているのでしょうか。

3曲目は美しい旋律のオリジナル曲です。作曲能力の高さもこれで証明され、あとは終わりまで安心してアルバムを楽しめます。
アマゾンで見ると、2007年にアルバムを出しているようですが、私が香港暮らしであまりJazzの情報が取れないときだったので、その盤は未聴です。
いずれ機会があればトライしてみたいと思います。きっとさらに成長していることでしょう。

↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村 経済ブログ 日本経済へにほんブログ村人気ブログランキングへ

↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち

Jazz現代の名盤 その30

2011-07-24 12:00:55 | 息抜き
暑い夏の夜に熱き情熱のアルバムを。

Giovanni MiravassiのDal Vivo!。迫力のライブアルバムです。

この人は現在のイタリア(活動拠点は主にフランスのようですが)ではピカ一なんではないでしょうか。日本の澤野商会が1990年代の終わりに才能を見出したのだと思いますが、鮮烈な印象でした。
テクニックはいわゆるバカテクですが、とにかくロマンティックな表現をします。イタリア人って羨ましいと思いますよ。たとえ私が技巧的に同じように有能なピアニストだったとしても、こんな表現はできないでしょうな。恥ずかしい。
また、このトリオのドラムは素晴らしいです。Louis Moutinという方ですが、情熱的ライブ演奏にあって、しっかりとリズムを支えて盛り上げながらも出過ぎません。
ちなみに、実兄のFrancois Moutinはベース奏者で、こちらも全盛期のJean Michelle Pilcトリオなどに参加しているつわものです。

1曲目の"Jean-Paul Chez les Anges"の美しいメロディとラテンヨーロッパのピアニストらしい熱い演奏が極めてキャッチー。このライブの場に居合わせたかったと思わずにはいられないパワーとリリシズムの競演。
2曲目のバラードも、静かに始まり、主旋律が物悲しく響き、、、最後には情熱が高ぶり、、、そしてまた物悲しく主旋律が奏でられて幕を閉じる。ロマンティックですが、男性的なパワーがあり、男性の踊るフラメンコのような迫力と美しさがあります。
その後もバラード主体の選曲で進行しますが、感情的に盛り上げるところは相当パワフルで、退屈しません。
5曲目の"Requiem"、6曲目の"Memento Mores"など死をイメージしたタイトルが続きますが、暗さはなく、極上のメロディを奏でるピアノにベースとドラムがよく絡みます。この演奏からは、死よりも愛を感じられると思うのですが、そんなのは私だけでしょうか。

Amazonでは売っていませんね。まあ、どこかで入手可能と思います。
まだ人気のあるピアニストだし、活動も活発に続けているので、どこかのCD屋さんで彼のコーナーがあるでしょう。

↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村 経済ブログ 日本経済へにほんブログ村人気ブログランキングへ

↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち

Jazz現代の名盤 その29

2011-07-18 19:23:11 | 息抜き
名盤と名高い1枚を。

Hope。スウェーデンのLars Jansson のピアノトリオ作品です。
このトリオについては、前にも1枚ご紹介したことがあります。
北欧的な、丁寧で無駄のない作り。安心して聞くことのできるアルバムです。

Janssonのアルバムの特徴はバランスとメロディでしょう。
即興性やグルーヴ感はほとんど感じられませんので、人によってはジャズに求めるものが存在しない駄盤と思うかもしれません。
かく言う私も、気分しだいではこのアルバムはまず聞きません。先週ご紹介のトロティニョンなどとは全然違います。
しかし、完成度のむちゃくちゃ高いメロディと完璧なテクニックに支えられたトリオの演奏は、これを嫌いというのは難しい美しさ。
以前にご紹介した"Witnessing"は邪魔にならない音楽と書きましたが、この"Hope"にもそれは通底しています。

そして、この"Hope"のモチーフはギリシャ神話のパンドラの箱。
パンドラが開けてしまった箱から、あらゆる災厄が飛び出た後に残った1つの光。それが希望。
震災と原発問題に菅の無垢なるテロとも言える人災が加わり苦しむ今の日本にこそ必要なメロディ、それがこのアルバムに収められた多くの美しい曲なのかもかもしれません。

Janssonは作曲家としても腕が高いので、この盤も1曲目を除いてすべて自作。そしてそれがとても優美。
単に美しいだけでなく、色を感じるのが私としてはスウェーデン的。
北欧の家具や食器って、大胆かつ巧みに色を使ってますよね。ああいう感じ。
全体として温かみのある雰囲気なのに、それぞれのカラーは結構大胆。
音楽の楽しい部分を感じさせてくれる名盤。

↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村 経済ブログ 日本経済へにほんブログ村人気ブログランキングへ

↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち

Jazz現代の名盤 その28

2011-07-10 18:50:53 | 息抜き
さて、今週は毒とパワーと技巧のすべてが溢れるフランスのピアノを。

Fluide。Bapetiste Trotignon (バプティステ・トロティニョン)という舌を噛みそうになる名前のピアニストの作品です。この作品の後にも名盤をどんどん出しており、私も年初に1枚紹介しました

全体的にパワーがみなぎるアルバムと言えましょう。
楽しく一気に聞くことのできる作品で、ある意味ロックやポップのアルバムを聴く感覚で聴いてみるのもいいと思います。
そして、ピアニストの自己主張が強い。
同じヨーロッパでも、北欧や東欧、スイスなどのピアノではこういうのにはまずお目にかからないですな。
フランスの流の毒。そして自信。

1曲目の"This is New"から、早いテンポで技が炸裂。軽快な感じではなく、重厚感を感じるのはリズムを支えるベースとドラムがしっかりしているから。主題は分かりやすいメロディですが、ちょっとだけ暗い部分を感じるのが毒気につながっており、フランスジャズっぽい色が出ています。このスピードと重厚感は、3曲目の"Uit Blues"でも炸裂します。
2曲目の"Not for Debby"は自分が叙情系エバンス派のピアノを弾く気はないです、という宣言。複雑でモンク的とも言えるような不思議なワルツ。

このアルバムをたまたま買ったときは、ラッキーだと思いましたね。
ジャズのアルバムというのは結構当たり外れがあると思いますが、これは明らかに強力なピアニストを発掘したという確信を伴う1枚でした。
フランス、奥の深い芸術大国ですな。相当個人主義的なのはこの1枚を聴いても分かります。。。

↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村 経済ブログ 日本経済へにほんブログ村人気ブログランキングへ

↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち

Jazz現代の名盤 その27

2011-07-03 21:44:26 | 息抜き
先週の悲しく美しいケニー・ワーナーから一転、クールで楽しいアメリカの王道トランペットをご紹介。

Talented Mr. Pelt。自分のことを才能に恵まれた、と形容するとは、何とも潔いというか何というか。

Jeremy Pelt は自分のリーダー作品以外にも、サイドマンとして多くの演奏家のセッションに参加しています。
逆に自身のカルテットも錚々たるメンバーで構成されています。
NYで活躍する多くの演奏家と親交があるのでしょう、このアルバムで見事なピアノを披露しているのは前にご紹介したことのあるDanny Grissett です。
今のアメリカジャズ界を代表するトランペッターと言えましょう。
大柄な体格もあり、何となく親しみの持てる人です。私にとっては、生で演奏を聴きたい人の一人でもあります。

トランペットというとマイルス・デイビスが多くの人の頭に浮かぶと思います。
マイルスの氷のような冷たい響きとは一線を画す明るさをもちながら、実は非常にマイルス的なクールな面があるんのがこの人の特徴だと私は思っています。
1曲目のPandra's Boxは自身と共演者の技の競い合いのような中で、非常に明るく即興的な音楽が展開されますが、やはりPelt の部分は極めてクール。情熱を感じさせながら音はクール。
2曲目はワルツ調で、ここでも落ち着いているだけではなくクール。Grissettのピアノも冴える。
5曲目のPulseは9分を超える長尺で、やや難解。でもここでも私的キーワードはクール。Peltのトランペットは熱く心にうったえるのにのに音はクール。緊張感では他にもいいバンドがあるでしょうが、こうした曲でも単純に楽しめるこの人の演奏はある意味白眉です。

出来のよいホーンに出会うと、やっぱりホーンのほうがピアノより楽しいかなと思います。
ピアノは操ることの出来る音階も多いし、何をとっても幅が広い楽器ですが、ホーンはそうではない。
しかし、ホーンでの即興、グルーヴなどは、特にアメリカのジャズでは大切にされていると思います。
ある意味直球勝負でありながら、高邁な感じがしない。地に足の着いた楽しみが期待できる。

現代アメリカジャズのホーンにおける最先端に1つが間違いなくここにあります。
ご興味あれば是非。

↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村 経済ブログ 日本経済へにほんブログ村人気ブログランキングへ

↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち