冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

厳冬期の青空の下に白き谷川岳東面を求めて

2017-03-06 00:02:01 | 旅行
谷川岳は大好きな山で、4年連続で冬に登っています。とは言っても、岩登りの技術がある訳ではないので安全な天神尾根ルートばかりですが。しかし、谷川岳の本当の厳しい姿はその東面、遭難者数世界一の原因となる一の倉沢の岩場であり、それを湯桧曽川を挟んで対岸の山から眺めるのは正に絶景。しかも、雪の多い今年に青空の下のその景色を見ることができれば、これまでの自分の山歩き史上でも屈指の絶景なのは間違いなし。

そのシーンを見るには、白毛門という山に登る必要があります。しかし、ここは谷川岳本体ほどはメジャーでないので入山者も比較的少なく、何かあったら遭難しやすいです。入山者が少ないということは、厳冬期では新雪ラッセルを強いられる可能性も高く、登山口から山頂までの単純標高差も1,000メートルほどなので谷川岳や日光白根山、あるいはベースキャンプから見た八ヶ岳の赤岳などより厳しい。そして、ルートはかなりの急登で体力も要求されるうえ、ヤマレコレポートなどを見ると結構クレバスができている頻度が高く、上手く回避してルート工作できないとクレバスに転落することもある模様。さらに、樹林帯の尾根を行くから基本的には大丈夫だとは言っても、山頂直下などでは雪崩も気になるところ。ということで、これまでは敢えて挑戦を避けてきました。しかし、今年は雪が多くて谷川岳東面の絶景度も高いでしょうし、自分の体力もかなり充実。雪山にもかなり慣れてきて雪質を感じながら歩き方を工夫したり、クレバスやクラックに注意する技術もついてきている。そこで、予想天気図的に晴れが期待できそうな2月25日の土曜日に挑戦することにしました。

天気予報・天気図的には一日中晴れのはずですが、油断でいないのが谷川山系。とにかく晴れる日が少ないし、天気の変化も激しいので。この日も上越線の水上駅に9時半過ぎに着いた時にはこのように晴れていましたが、


谷川岳ロープウェイ行きのバスに乗って土合橋の登山口のところで降りたところ、このように曇り。さらに、小雪も混じるという状況。またしても天気に泣かされるパターンか。


それでも気を取り直し、登っているうちに晴れてくることを期待して行動開始。公共交通機関利用のため、この時点で10時半。白毛門山頂との往復は6時間から6時間半だとすると、もたもたしてはいられません。一方、遅くスタートすると先行者がトレースを作ってくれているのが雪山のメリット。この日は天気予報が晴れだったので、既に10名程度が入山していたようです。写真は下山後のものですが、このロッジの向かって右側の脇に登山道への入口があります。


少し進むと動物の足跡と何やら埋まったものがあります。ヤマレコなどでおなじみの、馬蹄形縦走コースの表示図でしょうか。完全に雪に埋まっています。今年の雪の量を物語る。


川の感じはなかなか風情があります。


雪で埋まった橋を渡り、いよいよ白毛門へ。ここからは一本道の急登。他のブログで「もう笑うしかない」と形容されていた、とにかく急坂が延々と続く道です。




谷底方面。結構な傾斜だ。


この日は体調がよく、夏道で3時間半くらいのルートを2時間半ほどで駆け上がることができたのですが、それでも急登には息が切れます。そして、事前リサーチ通り雪庇が凄い。トレースをたどるのを基本としつつ、雪庇や雪の状況などを勘案して安全と思われるところを歩くように心がけます。落ちたらシャレではすみません。


上を見ても急登が途切れることなく、雲も晴れない。


下を見てもこの通り。今日はお天気に負ける日なのか。


途中、10名弱の方々とすれ違いました。早朝から入山されていた方々と思われます。情報が欲しかったのでできるだけ話しかけたのですが、どうやら山頂に立ったのはそのうち半分にも満たない模様。クラックが多くて山頂直下のものは大きく、トラバースは可能なもののやはり危険も伴うということで、多くの方が途中で撤退されていました。白毛門、やはり初心者では厳しい相手なのか。

急登続きですがしばらく進んで、樹林帯を抜けて視界の開けたところから谷川岳東面を見ることができました。が、やはり山頂稜線には雲がかかっているし、全体的に小雪のちらつく状態で絵的には今一つ。大迫力の岩壁なんですけどね。


そして、登山開始から2時間ほどで松ノ木沢ノ頭という谷川岳東面のビューポイントに到着。ここから白毛門の山頂まではクラックが多く、それをトラバースしても最後に凍結した急斜面が待っている難コースです。取りあえず山頂方面を眺める。


白毛門の名前の言われになっている、ジジ岩とババ岩。これに雪の積もったシーンが白髪で、2つの岩が門だということらしい。


谷川岳方面はいまだにスッキリしないですが、それなりに青空も見えています。この日は気温が高めで風も穏やかだったので、雲が取れるのを祈ってしばらく待ってもいいかもしれない。


谷川岳から続く蓬峠方面も稜線が雲に覆われている。


まずは山頂を目指すことにして、急な道を一歩一歩進みます。クラックが多くて怖い。


ジジ岩・ババ岩の真横まで上がってきた。


この辺りでルート上に比較的大きなクラック。トラバースした跡がありますが、それもクラックの直ぐそばを通っていて、気温の低かった早朝ならともかく12時を回っているこのタイミングではちょっと怖い。足早に通り過ぎようと思いつつも、魔がさして写真を撮る。


と、足元が崩れてズボッっと雪にはまり、両足が宙に浮いた状態に。幸い両脇が雪の上に出ていたので、必死に這い上がる。体重のかけ方によってはさらにクラックが広がって完全に落下する恐れもあるので、できるだけ体重を分散させるように気をつけつつ必死に脱出。他の登山者が少ないので落ちたら発見されない恐れもあり、かなり焦りましたが、何とか事なきを得て雪の上に出ました。
これに懲りて、クラックを大きくトラバース。新雪ラッセルしつつ、さらに今歩いている所が崩れたら終わりかもしれないと思っていました。それにしても、自分の今回の行動は不用意だったとはいえ、雪をかぶって状況の分からないクラックは恐ろしい。これを見極めて歩行する技術はどうすれば身に着くのか。

そして、さらに上方まで来ると、これまた大きなクラックというかクレバスが。


途中ですれ違った他の登山者の方々が言っていたクレバスだと思いますが、確かに左側からトラバースした跡があります。しかし、気温が上がっていることと先ほどクラックにはまった事実、トラバースのトレースもかなりの急斜面についていて足を踏み外したら滑落の恐れが高いことなどから、今回はここで引き返すことにしました。おそらく標高的には山頂まであと100メートルもなかったでしょう。この時点では白毛門山頂方面は雲が取れ始めていたので残念な気もしますが、仕方ない。登山開始から2時間半くらいでちょうど1時頃の決断。体調的には好調で、相当速いペースで登っていたので残念ですが。

まあ、そうと決まれば安全な松ノ木沢ノ頭まで戻り、そこでおにぎりやパンで栄養補給するのが理にかなっています。クラックが怖いので写真をあまり撮らずに下山開始。
ちょっと安定したところから振り返った白毛門山頂方面。晴れ始めています。


雪庇の凄い下山ルート。


谷川岳方面は稜線の雲が取れない。


そして、松ノ木沢ノ頭に下りてきて休憩です。他の登山者の方もやって来て、少しにぎやかな感じでした。白毛門山頂方面は晴れて格好いいので自撮り。




谷川岳方面ははれない。白毛門に登頂できなくても、谷川岳東面の絶景が見られれば今回は勝利なのですが、どうもスッキリいかない。稜線だけ雲が取れない。


蓬峠方面も同様。


この後、2時過ぎまでしぶとく待ちましたが、稜線にはずっと雲が居座っていてどうしようもありませんでした。何枚も写真を取ったものの、青空は出てきてくれても雲は取れず。




仕方ないので諦めて下山です。


下山中の動物の足跡。下山時に気が付いたことですが、ちょっとした斜面では小さい雪崩の跡もありました。怖いものだ。


途中で眺めても、やはり雲が稜線に残っていた谷川岳。この日はこのままだった模様です。


気温上昇で雪が腐ると言われる現象でしょうか、標高が下がってくると雪が柔らかくグズグズの状態に半分溶けてきて、一歩一歩が踏み抜きの状況に。これは体力を消耗します。パウダースノーの下山はモフモフで膝への負担もなくて快適ですが、この日の下山はかなり厳しかった。やっとの思いでロッジ脇の入山口まで戻ってきました。


電車に乗ろうと思い土合駅まで歩きましたが、3時台の列車は10分程度の差で逃していました。仕方ないので4時過ぎに来るバスに乗って水上に出ます。バスを待つ途中、夕日に照らされた白毛門。今回は山頂も踏んでいないし、何より谷川岳東面の絵を撮り切っていないので、来年にでももう一度挑戦ですな。


最後に、Google Plusのサービスでパノラマ化したもの。雲がかかっていても、大絶景ポイントであることに変わりはないですな。谷川岳、贔屓の山です。