冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

Jazz現代の名盤 その47

2011-11-26 19:06:34 | 息抜き
週末息抜きシリーズ。今週は、今年私が購入したJazz Albumでは恐らく最高と思われる、Ambrose Akinmusireの"When the Heart Emerges Glistening"に参加してピアノを弾いていた、Gerald Claytonの作品です。

Bond: Paris Sessions。購入前の期待が高かったのですが、それに見合う内容だと思います。

リーダーのClaytonをはじめ、BaseのJoe Sanders、ドラムズのJustin Brownの3人とも、若手の黒人プレイヤーです。
3人で相当に緻密にテーマを練り上げているのだと感じましたが、演奏そのものはジャズ的な即興性に満ちているので、押し付けがましい感じはしません。
むしろ爽快。
静かにピアノが語り始める曲が多いですが、リズム陣が意外と強力かつ主張が強く、中盤から終盤にかけて大きな盛り上がりを見せます。
そのリズムに応えるClaytonのピアノも若々しく、同時に知的な冷たさを湛えており、よく言われる表現を使うと"都会的な"空気が感じられます。
まあ、現代的で格好いいと言ってしまうとチープに聞こえますが、そういうアルバムです。ただし、内容はよろしい。楽曲、演奏、構成すべてレベル高い。

4分前後の比較的短めの曲が多いですが、それもある意味都会的なイメージにつながっていると思います。
10分近くの大きな曲だと力が入ってくるところも、短い曲だとある程度まとまりがよくなるのでしょう。
ある意味で抑制が効いたというか、エレガンスとかバランスとかいう表現で評価される部分につかがるのだと思います。
これはこれで無難なのですが、あえて欲を言うと、私としてはまだ20代のアメリカの(元々はオランダ出身らしいが)ピアニストにはもっとリスクをとってもらいたいと感じました。
才能は豊かな感じなので、どうせなら思い切り爆発させると楽しそうなのに。自分のリーダー作だと守りに入るんですかね。

ライブで聴いてみたいものです。おそらく、このアルバムの評価もそれなりに高いと思いますが、ライブで弾けた方がおもしろいプレイヤーだと思います。
相当に緊張感のある"When the Heart Emerges Glistening"で堂々たる演奏ができているのですから、もっと高みを目指してもいいと思いますね。
それにしても、やはりアメリカのジャズはよろしい。なぜかヨーロッパのジャズよりも自然に聴くことができるような気がしますね。
自由なんですかね。

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山種美術館は結構好き

2011-11-24 23:13:03 | 息抜き
1年数ヶ月ぶり(だと思う)に山種美術館に行ってきた。昨日の話ですが。
恵比寿の駅から結構歩く今の場所に移ってから、ある意味で商業的に上手な美術館になったと思う。
展覧会の内容が結構いい。
今回は「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」という展覧会で、二期に分かれた展覧会のうち前期の展示。
既に他の展覧会のときに鑑賞したことのある作品もかなり出ているのだが、実はそれらの作品こそ私のお目当て。
大好きなものが幾つかあるのだ。

例えば、浮世絵では、
鳥居清長の「社頭の見合」
歌麿の「青楼七小町 鶴屋内 篠原」
写楽の「三代目坂田半五郎の藤川右衛門」
北斎の「凱風快晴」
広重の「庄野 白雨」

琳派からは
酒井抱一の「飛雪白鷺図」(重要文化財の「秋草鶉図」も出展されているけど、こっちの方が好き)
宗達の「槙楓図」

近代日本画では、
なんと言っても大好きな、竹内栖鳳の「班描」。まさに匂い立つ。猫、すばらしい。
川合玉堂の「鵜飼」
菱田春草の「月四題」のうち、秋の図の葡萄のやつ
上村松園の「牡丹雪」
小林古径の「清姫」

などなど、既に何度か鑑賞していて、絶対に飽きないものが多い。

そして、今回の発見の中から幾つかメモしておくと、
宗達と光悦の「四季草花下絵和歌短冊帖」はとても面白い。変色していて宗達の絵の楽しみは薄れるけれど、光悦の字と装飾、選ばれている歌の面白みが「あはれ」の世界。秋の夕暮れシリーズは、定家も西行もある。万葉の歌も、その素朴さだけでなく色彩感がよい。
西郷孤月の「台湾風景」は繊細かつ主題の大胆さ、緑を基調にしたある種の透明感のある画風などが印象的。私的には大観よりも孤月の方が好き。
速水御舟の「名樹散椿」。これは実は、御舟ほどの有名人の絵なのに、私の知らない絵だった。でも、展示室で異様な迫力を感じたので解説版を読んでみたら御舟。やはり天才は香ってくる。宗達の「槙楓図」と比べると面白いと思う。

日本画はよいと思います。
純粋に綺麗です。

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Jazz現代の名盤 その46

2011-11-19 21:43:19 | 息抜き
フランスの名手をもう一人。

Right Time。Franck Avitabileの2001年の作品です。
先週書いたTrotignonのような毒ではなく、美しいパリのイメージが沸いてくる感じのピアノを弾きますね。この人。

自作のMiss Laurence という曲で幕を開けます。美しいタッチと旋律。具体的な女性をイメージして作曲しているのかどうか分かりませんが、一緒にいると会話の弾みそうな、なかなか楽しい感じの人をイメージさせます。
美しいタッチ、特に右手のバカテクと、それが生きるメロディ。これがこのアルバムの全編に共通していますね。それがまずこの1曲目ですぐに体験されます。
その後も特に自作曲での即興性とセンスを感じさせる演奏がすばらしい。5曲目のバラードも然り。静かなだけでなく、美しく、どこかに明るさを感じさせる。
そのセンスは、スタンダードナンバーを演奏するときにも生かされます。ただし、それはスタンダードを彼なりに解釈して消化し、自分ならではの新しいものとして表現するという形ですが。6曲目、7曲目のCon Alma, Cherokeeなどがこれにあたります。

今日は東京は雨ですが、明るく晴れた冬の日中に合うイメージのアルバムではないでしょうか。
夜聞いてもいいけど、Avitabileの演奏が紡ぎ出すメロディは、かなり豊かな色彩をイメージさせると思います。
原色系のキツい色ではなく、もっと優しい感じの色使いですが。北欧のピアノから感じる色が北欧の家具のような大胆な色使いに似ているのとは、好対照ですな。

そう言えば3月にはこの人の最近のアルバムについてもメモしていました。
新しいアルバムのほうが絵画的で叙情性が上がっていますが、今日メモしたほうが楽しいメロディですね。
どちらもバカテクに支えられた名盤と思います。

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「族長の秋」読んだ

2011-11-17 21:17:08 | 息抜き
ガルシア=マルケスは3冊目かな。これまで比較的多くの小説を読んできたと思いますが、ラテンアメリカのものは20世紀後半に非常に評価が高まったのに反比例するように、私としては避けてきた領域でした。ボルヘスの何かを大学生の時に読んで、あまり感動しなかったせいですが。

この「族長の秋」、実は読むのに時間かかりました。
毎日読んだわけでもなく、1日数ページしか読まなかった日も多く、1ヶ月以上かかってます。
比較的速読みの私としては異常なペースですが、それは極めて読みにくい表現をあえて使っているからです。
しかも、ガルシア=マルケス的なギラギラするようなイメージが描き出されるので、頭の横のあたりが痛くなるような感じがしてきます。
文庫とはいえ350ページ以上の長編だし、この小説の世界に入り込んで集中しながら、ダレないようにして読んでいくのは結構たいへんでした。
しかし、最後の30ページくらいでしょうか。恐ろしい迫力を持ってこの長編がまとめられていきました。

権力者の孤独が描かれている、というようなことが本のカバーなどには書いてありますが、私の読みはちょっと違いますね。
真実とか愛とかいうものは、実は虚偽よりも不快だし無用のものなんだということ。でも、虚偽ってのは結局のところ、虚偽でしかないということ。
これを延々とギラギラした描写で分からせていくんですわ。この小説。
禅の枯淡、幽玄、白黒のイメージに対し、「族長の秋」は極彩色の油絵ですが、言わんとしているところは似ているようです。

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Jazz現代の名盤 その45

2011-11-13 19:19:10 | 息抜き
秋の夜長シリーズは終了。普通にいきます。

Suite。同世代ピアニストとしては、ブラッド・メルドーが人気、評価とも世界一かもしれませんが、私はこのバプティステ・トリティニョンを推したい。フランスのピアノの伝統である(?)、「毒」を持った花のような存在ですな。
棘ではなく、毒を持っている。異常にスリリングで美しく、惹きこまれる。
既に1月7月に1枚ずつメモしているので、この人のリーダー作はこれで3枚目。まあ、贔屓にしております。

2009年にロンドンで行ったライブが中心です(最後の1曲だけ同年のパリでのライブから)。
基本的に、"Suite"という組曲の演奏です。
バンドの顔ぶれがウルトラ豪華です。
ドラムにEric Harland。ベースはトロティニョンと組むことの多いMatt Penman。いずれも素晴らしく力のあるリズム陣。
そしてサックスがMark Turner。トランペットはJeremy Pelt
このホーンの2枚看板を引っさげて、トロティニョンのピアノが炸裂します。
でも、"Fluide"のころと比べると明らかに垢抜けてきており、パワーだけではなくてある種の凛々しさというか美しさを持ったメロディであり、演奏です。

ホーンの二人は、元々好対照な演奏をすると思います。
Turner のサックスは内省的で、Pelt のトランペットは外向的。
さすがにトロティニョン作曲の組曲なので、相当にパワー炸裂な部分がありますが、それでもこの二人の個性はやはり生きています。
前半から中盤にはPelt のリードするメロディが基調を作って楽しいですが、最終盤ではTurnerのサックスが厳かかつ重厚に締めていきます。
いずれも自身がリーダーを張っておかしくない力量の持ち主なだけに、相当な迫力です。
これだけの面子がバンドとして機能するのが素晴らしいとも言えます。

もちろん、リーダーのトロティニョンのピアノはテクニック万全。音が洪水のようにやってきますが、美しい旋律なので気持ちよい。
そして、ふてぶてしいまでの自信が毒づいていて、この人特有の雰囲気を醸し出します。

秋の夜長シリーズにライブ盤を一枚入れたかったのですが、どうもしっとりしたライブ盤を私は持っていないようです。
このアルバムは秋っぽさよりは夏のパワーってイメージですかね。もっと早くメモしておけばよかった。

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Jazz現代の名盤 その44

2011-11-06 21:08:25 | 息抜き
週末息抜きシリーズです。そして秋の夜長シリーズ第3弾。

Whirl。Fred Hersch trip。とても叙情的な作品です。
徹底的に夜向け。太陽の下では聞きたくないアルバムでしょう。

Fred Herschというピアニストは結構有名な人で、このアルバムも広くよい評判を聞きます。Amazonのレビューなども好意的。
何でも病で2ヶ月も昏睡状態を経験しながらも生還し、リハビリ後に録音したものらしいです。そういう裏話はなしにしても、極めて抑制の効いた演奏は上品で奥深く、日本人の美意識にもマッチするものだと思います。
全曲完成度が高い演奏。パワーより美的な要素、穏やかなメロディ、優雅さなどを求める人向け。曲と曲の間のバランスもよい。
このアルバムについてのの海外の評価を見ても、エレガントとかリリカルとかいう表現が目立ちます。

秋の夜長や冬の寒い夜には、こういうアルバムが醸し出すしっとりとした雰囲気ととても調和するものです。
1曲目の"You're my Everything"を聞けば、安心してこのピアニストの美意識に任せることができると思うでしょう。典型的な叙情派ピアノトリオの演奏で、大人な音楽への期待を裏切りません。
Hersch自身の作曲である2曲目の"Snow is Falling..."や5曲目の"Mandevilla"、7曲目の"Whirl"などは、アメリカの白人ピアニストの知的なメロディと演奏が、これまた典型的で期待を裏切らずに展開されます。
要するにこのアルバムは叙情派ピアノトリオの予定調和型アルバムで、静かな夜に美しい音楽を合わせたい時にピックアップすれば間違いは起こりません。

Bill Evans信奉者は今でも多いと思います。Evans派とかいう言葉もあるくらい。
その方向のアルバムとしては、近年の白眉と思います。

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