浮寝鳥(うきねどり)
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金色の夕陽が落ちる湖で
まどろみかけた水鳥が
ふと首を上げて
一声鳴いた
しんと静まる湖面の水は
何も答えてくれないけれど
大丈夫
世界はまだそこにある
薄墨に広がる夜が
何もかも隠してくれる
きみを包んで
そこにあるから
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あてどなくさまよう想い
冬の湖などで
雁や鴨が水面に浮かんだまま
眠っている姿をご覧になってことあると思います
水上で長い首を翼の間に入れて
丸くなる水鳥たち
ずいぶん器用な格好でねむるものです
水鳥のこうした習性を
「浮寝鳥(うきねどり)」と呼ぶのですが
彼らは水上で「浮き寝」をする様子は
のんびりしているようでいて
不安定なものにも見えてしまいます
昔の人々は
心配事を抱えて
安らかに眠れない夜の自分自身を
しばし「浮寝鳥」にたとえたものでした
和泉式部が
「水のうへにうきねをしてぞ思ひやる」
と歌ったのも
恋ゆえの心配から
まんじりとも出来ずにいた夜のことです
また 光源氏と
一夜限りの関係を持ってしまった
人妻の空蝉は
その逢瀬を「浮き寝」にたとえています
平安時代の人々にとっても
不倫の恋は
不安定なものであったのでしょう