三流読書人

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ドングリ小屋住人 

さくらんぼ

2008年06月26日 19時10分19秒 | Photo



【 さくらんぼを一個、真っ白なテーブルクロスの上に置いてみてください。
  そしてそれをじっと見つめて下さい。
  あなたは少しずつ、自分の心が洗われていくのを感じるはずだ。
  そして、自分の心が、いかに汚れてしまったかに思いを致し、うつむいて頬を染めるはずだ。
  赤く、丸く、愛くるしく、清楚、そして可憐。
  この世のけがれを知らぬげな、鮮紅色の無垢の魂。
  〝初夏のルビー〟と言われる、その張りつめた皮肌は輝きに満ちて、あたりの風景を映さんばかりだ。
  丸くて可憐で赤い果実に、突きささるような薄緑色の細くて長い柄。
  完結したデザイン。実在するメルヘン。エンゼルの玩具。
  気品にあふれ、優しさに満ち、そのたたずまいは宗教的ですらある。
  さくらんぼの皮は意外に強靱で、
  「輸送に強い」と言われているくらいだ。
  皮を破って果肉を噛んで、歯がタネに当たるまでのちょっとした不安感。
  歯がタネにあたってからの、口中の急な忙しさ。
  その忙しさの中で味わう、ほのかな甘みと、ほのかな酸味。  
  さくらんぼの味は、はかない
  何も主張しないし何も訴えない。
  ほんのちょっとさくらんぼです、と小さくささやくだけだ。 】(「東海林さだおの味わい方」筑摩書房)

  と、凄いことになっていますが、これは東海林さだお氏の文? 詩? です。
  今夜は、わが家でもぜいたくなデザートとなりました。