1969/04/09に生まれて

1969年4月9日に生まれた人間の記録簿。例えば・・・・

『三玉山霊仙寺を巡る冒険』13.謎の突起物

2022-10-16 21:17:00 | 三玉山霊仙寺の記録

【謎の微細突起物】
「へげ岩」の下に回り、休憩用のベンチを見つけると、ここまで全く水分を補給していなかったことに気がついてザックを下ろした。水分を喉に流し込むついでに岩盤に目を向けると、そこにも割れ目があった。そして、割れ目に沿って、幅数十cmの岩盤が剥がれ落ちてそこはオーバーハングになっていた。下の地面には小礫が散乱していて、岩盤にも緩みがあるように見えた。落石の恐れを感じ近づくべきではないと思ったのだが、割れ目の表面の色が今まで見てきたものと雰囲気が違って見えたので近寄ることにした。

白色〜灰色の表面には僅かだが微小な凹凸があり、それらがまるで岩盤表面を薄く覆っているように見える。
工事現場で土や岩盤を一時的に掘削したときなど、表面が崩れやすい場合には、セメントと水、砂を練り混ぜたモルタルを表面に仮吹きして、その表面を抑えたりする仮設工法がある。
オーバーハングした岩盤に近づきながら、その白っぽく見えるザラついた表面は、危険防除のためのモルタルの仮吹き跡ではないかと一瞬思った。しかし、名勝と呼ばれる奇岩にそんな無粋なことはしないだろうと思いなおして、メガネを外して岩盤の表面をまじまじと観察してみた。
目を近づけると、ザラついた部分は礫と礫との間にあって、そのザラついた部分には数ミリの突起物が、まるで雨後の筍のように次々に芽を出して生えてきたもののように見えた。

記憶を必死にたぐり寄せた。この微細な構造には見覚えがあったが、その生成については突き詰めて考えたことはなかった。しかし、岩峰の成因の一つとして「温泉」を考えていた私は、この微細な突起物が温泉からの沈殿物であることが証明できれば、これはこれで面白いと思った。そのザラツキの具合が、古い温泉宿の湯舟の縁などにときどき見られる「温泉華」に似てなくもない。

私は、岩盤の表面から直接サンプルを採取したいという強い衝動に駆られた。しかし、不動岩は山鹿市の指定名勝であるので、そこはグッと我慢。かわりに、目を皿のようにして地面に落ちていた突起物を探しだし、小指の爪先程の量を拾い集めると、持参していたトレイルランニングのレース中に使っている補給タブレット入れのチャック袋(サンプル袋)に入れたのだった。また、偶然にもその突起物がついた小礫も見つけることができた。

この登山から一ヵ月後の4月末。私は新入社員のK君と九州大学博物館に勤務しているN准教授と3人でこの岩盤の前に再び立った。
N先生は、親交が比較的に深かった大学時代の同じ研究室の1学年下の後輩で、今年の3月末にあった恩師の最終講義をwebで聴講した際には、彼の元気そうな姿をモニター越で見ていた。なので、そのサンプルを必死で拾い集めたのは、N先生にダメもとで分析をお願いするためだった。そして、N先生はその分析を快諾してくれて、実体顕微鏡での観察のほか、X線回折と蛍光X線分析装置を使って、その突起物の構成鉱物や化学組成を調べてくれたのだった。
結論から言うとそれは温泉からの沈殿物ではなかった。構成鉱物の組み合わせや化学組成から判断すると、その微細な突起物は「礫岩」の主な元となっている「変はんれい岩」に近いということだった。また、実態顕微鏡の観察では、突起物の先端には小さい粒子が付着しているようだと説明してくれた。ただ、N先生は、分析結果はあくまで結果であって、この突起物がどのようにしてできたかについては、実際の状態を確認して総合的に考えないと確かなことは言えないと、慎重な姿勢を崩さなかった。そしてゴールデンウィークの最中、ご本人も興味が沸きコロナ禍で時間が取れるということで、現地まで足を伸ばしてくれたのだった。

N先生は岩盤に取りつくと、手持ちのLEDライトで表面を照らしながら、舐め回すように観察を続けた。そして、観察の合間に様々な意見を出しあって我々が導いた結論は、「浸食」だった。
割れ目に沿った一部の表面には湿り気があり、その水分は岩盤の内部から滲み出してきていた。降雨時などはその湧き出す水分量が増えるだろうし、雨水が表面を直接つたって流れ落ちることも考えられる。そのごく僅かな流水が長い年月をかけて極めて小さいマイクロサイズの粒子を削り、ある程度の大きさのミリサイズの粒子は取り残されて、結果として微細な突起物が形成されたと考えたのだった。
「ということは、これは、一種の超ミニミニ不動岩ってことか?」
「そういうことかもしれませんね。」
どこまでもクールなN先生だった。


謎の突起物 接写


九大のN先生と新人のK君



《参考文献》
九州大学総合研究博物館webサイト『http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/』

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