1969/04/09に生まれて

1969年4月9日に生まれた人間の記録簿。例えば・・・・

『三玉山霊仙寺を巡る冒険』《番外編「阿蘇火砕流」と「溶結凝灰岩」》

2021-12-15 20:58:18 | 三玉山霊仙寺の記録
『三玉山霊仙寺を巡る冒険』

《番外編「阿蘇火砕流」と「溶結凝灰岩」》

「きつねの道送り」で竹七爺さんが観音様を彫り込んだといわれる「阿蘇火砕流」の「溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)」って一体なんなんでしょうか。ひょっとすると、読者皆さんのこれからの人生に深く関わることになるかもしれません。

「阿蘇火砕流」
阿蘇火砕流の噴火は約27万年前に始り、約9万年前の間に4回の大規模な活動ありました。これらの大噴火と噴出物は古い方からAso-1、Aso-2、Aso-3、Aso-4と呼ばれていますが、このうち最後に起こった約9万年前のAso-4が最も規模が大きく、このときの火砕流は、阿蘇火山の周囲に広い台地を作り、さらに谷沿いを下り九州の東・北・西の海岸に到達すると、一部は海を流走して天草下島や山口県の秋吉台にまで達しました。噴出したマグマの総量は瀬戸内海を完全に埋め尽くすのに十分な量であったとされます。想像を絶する超巨大噴火です。
 
熊本県内では、これらの火砕流堆積物は「溶結凝灰岩」としていたるところで観察され、高千穂峡では100m近く堆積しています。

さて、日本では、九州のほぼ全域を壊滅させてしまうような、噴出量が100km3に近いかそれ以上の超巨大噴火は、過去12万年の間に9回起こったとされています。噴出量が30km3以上の「破局噴火」を加えると17回となり、7000年に1回の割合となります。日本列島最後の巨大噴火は7300年前の鬼界カルデラの噴火ですので、日本列島では破局噴火が、いつ起こってもおかしくない状況にあると言えます。また、Aso-4クラスの超巨大噴火が現在の九州で起きた場合、直接の犠牲者は一千万人を超えるとされ、国民のほとんどを占める1億人は困窮状態に陥ると想定されています。破局噴火クラスでさえ直接の犠牲者は数十万~数百万人に達すると考えられています。

なお、7300年前の鬼界カルデラの噴火は、鹿児島県の薩摩半島の南75kmの洋上で起こったものですが、この噴火による火砕流や津波で、当時、南九州で成熟していた縄文文化は完全に途絶えてしまいました。

私たち日本人がその後巨大噴火に遭遇していないのは単なる幸運に過ぎないのです。


「溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)」
阿蘇火砕流のような噴火は、文明を簡単に消し去るすることのできるエネルギーを持っています。一般に、火砕流は、軽石や火山灰などの高温のガラス質の破片の粉体流を指すのですが、堆積したときの内部の温度が十分に高い(700°以上)とガラス質は互いに融合して自重によって圧密され、冷却すると緻密な岩石になります。こうした現象を「溶結(ようけつ)」とよび、できた岩石を溶結凝灰岩と言います。ただし、堆積した時の温度の違いによって溶結の程度には幅があり、ハンマーの強い打撃でも割れない高溶結のものから、スコップで簡単に掘れるようなものまで様々です。また、比較的に硬い溶結凝灰岩は、冷却時にできた縦亀裂(柱状節理)が発達する特徴があります。

阿蘇の巨大噴火でできた溶結凝灰岩は、石材の俗称として「灰石」と呼ばれます。特に中程度に溶結したものが、その細工のしやすさから古代から広く利用されています。県内各地には、古くから灰石を活用した例が数多くあり、古墳時代には石棺として、その後も石垣・石堀・石段・土台石・石橋・鳥居・石塔・石灯籠・石風呂など様々です。
ことに5世紀の古墳時代には阿蘇の灰石製石棺は、地元はもとより、遠く大阪府藤井寺市の唐櫃山古墳や長持山古墳でも見つかっており、推古天皇陵と考えられる古墳からも発見されています。

このように、阿蘇の「溶結凝灰岩」は文明を破壊するほどのエネルギーを持って生成された後は、文明を創造するための重要なマテリアルとなったのです。阿蘇火山は古代から篤い信仰の対象となっていました。ひょっとすると、古代人は「灰石」のできかたに想いを馳せながら、その巨大なエネルギーの神秘性に惹かれて石棺を作ったのではないでしょうか。
当時の大王やヤマト政権の中枢にあった高官にとって、その死後に彼らの始祖である神武天皇の故地にちなんだ阿蘇の石棺に入ることは一種のステータスで、先祖の元へ帰るといった懐郷の意味もあったのかもしれません。
ひるがえって現代においては、この「灰石」で作った骨壺を販売したら古代マニアにウケるかもしれませんね(笑)。

参考文献
渡辺一徳 『阿蘇火山の生い立ち』一の宮町史 自然と文化 阿蘇選書⑦ 一の宮町史編纂委員会 一の宮町 平成13年(2001年)
阿蘇ぺディアhttp://www.aso-dm.net/?%E7%81%B0%E7%9F%B3
巽好幸 『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』幻冬社新書 2016年
高橋正樹 『破局噴火ー秒読みに入った人類壊滅の日ー』祥伝社新書 2008年
鎌田浩毅 『マグマの地球科学』中公新書 2008年
『阿蘇の灰石展』熊本県立装飾古墳館 平成18年

現在も残るAso-4火砕流の分布範囲を示しています。

巨大噴火が起こった場所と時期、規模を示しています。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『三玉山霊仙寺を巡る冒険』... | トップ | 『三玉山霊仙寺を巡る冒険』... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

三玉山霊仙寺の記録」カテゴリの最新記事