鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

背景化と主題化のダイナミズム(WONDERLAND1‐7)

2013-07-07 22:58:18 | Weblog
 その瓶は オレンジ・ママレードとラベルが貼ってあったのに、空だった。

 ◎コメント:なぜビンは空だったのか?「不思議の国」では、ラベルが貼ってあっても、すべてのビンが空だったら、それは、確かに不思議だが、ここでは、そうだと言っていない。つまり、オレンジ・ママレードのビンが、たまたま空だっただけである。

 兎の穴を、ゆっくり落ちながら、アリスは心配する。「空のビンを捨てたら、下にいる誰かを殺してしまうかもしれない」と。そこで彼女は、落ちながらも、なんとかビンを戸棚の一つに戻した。

 ◎アリスの考え方・感じ方(1):兎の穴の底に人がいると、なぜアリスは考えたのか?そもそも兎の穴をこんなにゆっくり落ちることが不思議である。しかし彼女はその不思議さに慣れた。慣れれば、不思議でなくなる。「兎の穴をゆっくり落ちる」は自明となり、主題でなくなる。かくて「ビンを下に落とす」がアリスの主題となる。すると下に誰かいるかもしれないことが推論される。とすればビンは下に落としてはならない。ビンを戸棚の一つに戻すのが、最善の行為である。
 ある主題に慣れればそれは自明となり、主題として注意が向けられなくなり、背景となる。かくて新たな主題に注意が向けられる。アリスの考え方・感じ方は、一般的な意識のあり方に従う。つまり、一方で、自明性に基づく非主題化=背景化、他方で、出来事に注意が向けられることによる主題化、これら両者が、いわば図と地として変遷し続けるダイナミズム(力学)に、アリスの考え方・感じ方は、従う。