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おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

殻付きアーモンドを食べながら

2013-06-15 | Weblog
年に1度ぐらい健康のことを考えない、栄養のバランスを見越さず、思うまま、手の伸びるままに食事をすると、どういう品々になるのか。思慮とは最もかけ離れた境地になってみた。

食欲導入剤は錠剤ではなく液体である。ダークチェリーなどの果実の香り、オレンジの皮、シナモンなどの甘苦いスパイス……。時間が経つにつれてドラマチックな香りが次々と展開する飲み物をごくりと飲み乾すことから始まった。

まずは殻付きアーモンドに手が伸びる。小皿の中に30粒ほどが寄せ合うようにして収まっている。カリフォルニア産アーモンドを国内自社工場で焙煎した、うす塩味。袋に注意書きがある。「丁寧に選別しておりますが、まれに殻の中に虫等が入っていたり、虫食いの実が混入していることがあります」。こんな警告もまた、殻付きならではの醍醐味じゃないか。注意書きはまだある。「必ず殻を取ってお召し上がりください」。勢いあまって殻ごと食べる人もいるんだろうか。小さな蟹の天婦羅を食べるみたいな感覚で口の中に殻ごと放り込むとは、なんと豪胆。

この殻付きアーモンドは見た目がなかなか妙味がある。焙煎してあるため殻の表面は薄茶の砂岩色であちこちが剥がれ、小さな裂け目からは中にある実の一部分が見えている。古代遺跡から発掘された木の実みたいだ。土器みたいな色合いにも見えるし、孵化しなかった虫の卵の化石のようでもある。両手の指先の爪を使って殻の裂け目から割っていく。あの見慣れたアーモンドの実が姿を現す。口の中でカリリと音を立てて砕け、ペースト状になって胃袋に落ちていく。殻を割って実を摘まみ出す小さな快感を味わうと、もう止まらない。両手の指先が獰猛な食欲の使いとなって殻を摘まみ上げては割っていく。実ひとつというか、あるいは身ひとつとなったアーモンドは、なにがしかの躊躇もなく口中に吸いこまれていく。殻の残骸が累々と皿の中に広がっていく。虎は死して毛皮を残し、アーモンドは殻を残して香ばしさを漂わす。


殻付きアーモンドが薄い塩味と言っても量が増えれば立派な塩味となる。喉が少しばかり乾いてきた。赤い果実のビタミンCこと、アセロラソーダを手に取る。果実百g中に含まれるビタミンCでは檸檬の約34倍なのがアセロラである。これに炭酸が入っているか、いないかは、天国と地獄ほどの違いがある。もちろん炭酸入りが天国である。炭酸なしを地獄と言うのはあまりなので、ここは地獄ではなく地上と言い換えておこう。天国と地上ほどの違い、それは何か。喉の中を炭酸のジュワジャワした刺激の群れが流れ行く、えも言われぬ世界をきみ知るや。この感覚を知らない人にあえて教えてあげよう。コーラなら1度くらい呑んだことがあるだろう。あの炭酸の喉越しだよ。病みつきになる喉越しなんだな、炭酸は。病みつきになるほどだから、呑むのがとまらない。500mlなんか、軽~く呑み乾してしまう。


ここらあたりになると、健康、健全を旨とした食生活に慣れている胃袋が異変を感じるようになる。なんだ、この序列、組み合わせは? 堕落した食欲の暴走列車が胃袋目掛けて向かってくる。


福岡県産の種なしデラウェア。これ百両列車だな。種なしだからスピード感のある食べ方となる。わんこ蕎麦みたいに頬張っては皮を出し、皮を出しては頬張るを何回も、何十回も繰り返す。ぶどう糖の甘さと皮の裏側の酸っぱさが混じり合う。この甘酸っぱさに耐えられる、耐えられない、耐えられる、耐えられないといっためくるめく感覚が脳内に満ち溢れてくる。脳が卒中しそうな味わいだ。1房、2房と食べ続ける。九州の生産農家さんは本当に旨い果物を作る。そんなグルメな地産にはグルマンな地消で応えよう。


ペースト状になったアーモンドが胃の中で膨張しているようだ。アセロラソーダも輪を掛けて胃袋を拡張させている。品数は多くはないが、量は相当なようだ。食欲を満たした猫のように、なんだか眠くなってきた。グッナ~イにはちと早すぎるようだが、ここは素直に睡魔に付いていこう。
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