おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

彼岸の中日にて昼下がりの情事

2014-09-23 | Weblog
世界の出来事と経済を熱くならずに、手堅く、品格を持って読み解くウォール・ストリート・ジャーナル電子版と日本経済新聞の紙面を朝からゆっくりと通読し終えると、真昼に近い時間になっていた。2紙によって世界はパソコンのモニターと新聞紙の上できちんと整理整頓され、読み手に現在進行形の社会、経済、流行の動きを整然と理解させてくれる。その手際の様は上手で形が整っており、プロフェッショナルと呼ぶべき編集者たちの文筆の冴えが伝わってくる。平日だったら2紙の読後感を余韻にして仕事モードのスイッチを入れるところだが、きょうは秋分の日にして祝日、仕事がない日である。出向く用事もない。誰かに電話を入れることも、入れられる約束もない。家人も不在である。端正な2紙とは違ったひと時モードのスイッチを入れてみたくなった。筆遣いがうまい写実的な絵画群を鑑賞した後に、急にピカソばりの、童心いっぱいの絵を描きたくなったようなものだ。

お彼岸の昼、ほろ酔いしてみよう。赤ワインをグラスに注ぎ、肴を探しに冷蔵庫を開ける。ど、れ、に、し、よ、う、か、な。オードリー・ヘプバーンの映画に昼下がりの情事という映画があったことを瞬時に想いだす。ちょい悪のお彼岸タイム。肴候補がたくさん居並ぶ中で、なんともしっとりとした目線を感じさせるのがあった。マダム・カマンベール。マリー・アントワネット張りのすました顔をしてるが、その瞳は誘惑の想いを募らせている。男と女は目で会話をする。大和男と仏蘭西女。「どげんね?」。九州弁丸出しで声を掛ける。接吻前の唇の形をして返答があった。「ウイ!」


赤ワインを口に含む。渋みを上下の歯列に絡ませながら味わう。傍らのマダム・カマンベールもグラスに口を付けて飲み、頬の内側をワインで染め上げる。マダムは日本のことはからっきし知らなかった。アジアの東端、中国の向こう側にある国ぐらいの認識だった。G7の一員であることも、世界第3位の経済大国であることも、宇宙ロケットを打ち上げる技術があることも、iPS細胞研究で再生医療分野で貢献していることも、天皇がいることも、日本への知識はなーんにもなかった。マダムの関心は、シャンゼリゼ通りのクリスマスイルミネーション点灯が今年はいつからなのかをはじめ、ボルドーワインの出来、カルティエで新しい財布を買うこと、南仏への来夏のバカンス日程など、自分だけに関わるものばかりだった。


「プルーストの失われし時を求めてを3カ月かけて読破しましたよ」。世界の長編文学の傑作とされる作品を上げて虚栄を張ってみた。マダムを少しばかり感心させようとの魂胆だった。マダムは動じることなく、大和男の文学的虚栄を雲散させる。「3カ月かけて本なんか読まないで、おいしい物を食べなさいよ。今度、ルーブル美術館の中のレストランに連れてってあげるから」。モーパッサンやジイド、カミュの話をしようと思っていたが、萎えた。マダムはチーズを口にしながら、ワインを飲み干し、新たにグラスに注いでいる。


文学に関心がないなら、映画ではどうか。フランス映画は名作が多いが、切り出しは禁じられた遊びを持ってこよう。「禁じられた遊びは日本での題名もフランス語を直訳したものですよ」。マダムの瞳が関心を示した。「あれは、いい映画よ。題名を変えないのは当たり前。変えると別の作品になるわ」。フランス映画で好きな女優をアニー・ジラルドだと名前を挙げると、マダムの瞳が関心の度を増した。「若いとき、女ざかりのとき、老いたとき、すべての年代で女の魅力を見せた女優よね。アルツハイマーになった姿も見せたけど、そんな姿でさえ愛おしかった」


マダムには日本のことなんかどうでもよかった。今、目の前でフランスのことを題材に語る大和男に対し、関心から踏み込んで好意を感じ始めていた。パリの街角、オルセー美術館で1日過ごしたこと、セーヌ川岸での昼寝、ブローニュの森の中にある池のそばで詩作をしたこと、ノートルダム寺院前で3分間倒立の小道芸をしたこと、などなど。そのうちフランス話の種が尽きた。日本で過ごした自身の物語をするしかなかった。ジャン・クロード・ヴァン・ダムの話から拳法の話題へとつないだ。


意外にもマダムは関心を示した。ボクシングと拳法との違い、こぶしの作り方を教える。「小指から薬指、中指、人差指と順々に折りたたんでいって、最後に親指を人差指と中指に乗せるようにして折りたたむ。構えのときは力を入れず、打つ瞬間に親指と小指に力を入れて、硬いこぶしをつくるんだよ」。マダムの指を取りながら懇切丁寧に教示してみせる。白く、柔らかい肉付きをした、きれいな手をしていた。拳法のこぶしの形にはなったが、マダムのは人を打つようなこぶしではない。画学生が素描するためのこぶしだ。


ワインとチーズを堪能したマダムと大和男はお腹を満たすことにし、蕎麦をつくることにした。「カマンベール、どんぶりを用意して」。マダムはかいがいしく食卓の上に箸をそろえ、七味を置いた。茹で上げた蕎麦をどんぶりに分け、日本式にとろろ昆布と生卵を落とす。「いただきます」。マダムも大和男をまねて声を上げ、頭を少しばかり下げて箸をつけた。マダムが蕎麦や生卵を食べるのが初めてだったかどうかは知らない。大和男と同様に、マダムはどんぶりの中の蕎麦をすっかり平らげた。ワイン、チーズ、蕎麦で2人は満たされ、眠気に誘われ横になることにした。おっと、書き忘れた。2人を満たしたものがもう1つあった。フレンチキッス。どんな料理も食材も、これにはかなわない。それじゃ、ごきげんよう。
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こどもの国

2014-09-16 | Weblog
こどもは聴いていないようにして 聴いている


こどもは見ていないにして 見ている


こどもは語らないようにして 語っている


こどもは知らないようにして 知っている


こどもは感じていないようにして 感じている



こどもに隠していた真実を いつの日かこどもは見つけ出す


こどもに強いた未来を いつの日かこどもは裏切る


こどもから奪った笑顔を いつの日かこどもは取り返す


こどもから遠ざけた悲しみに いつの日かこどもはたどり着く



大人は聴いているようにして 聴いていない


大人は見ているようにして 見ていない


大人は語っているようにして 語っていない


大人は知っているようにして 知っていない


大人は感じているようにして 感じていない



大人が隠していた真実は いつの日か暴かれる


大人が強いた未来は いつの日か壊される


大人が奪った笑顔は いつの日か取り返される


大人が遠ざけた悲しみは いつの日か側にある



こどもは真実を見上げ 大人は真実を見下ろす


こどもの真実が笑顔のとき 大人の真実は泣き顔である


こどもの真実が泣き顔のとき 大人の真実は笑顔である


こどもの真実が幸福のとき 大人の真実は不幸である


こどもの真実が不幸のとき 大人の真実は幸福である



こどもは目を閉じているようにして 閉じていない


こどもは眠っているようにして 眠っていない




















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マインドセットの向こう側

2014-09-04 | Weblog
米国の大統領、中国の国家主席、日本の首相がいずれも女性となり、世界経済をリードする3役が揃い踏みするとき、アジア太平洋地域の政治情勢はどうなるだろうか。日本と中国がかつて一時期盛り上がった熱烈歓迎関係となり、安全保障条約を締結する事態になれば、米国はどうするだろうか。日中が協力して経済圏をつくりあげ新たな共通通貨体制が出来上がれば、米国やEUに匹敵か凌駕するものになる可能性がある。米軍基地が日本から撤退する日まで、あと何日だろうか。


マイクロソフトのOSが用無しになり、追い立てられる日は来るだろうか。かつて日本語入力ソフト一太郎が全盛だったころ、マイクロソフトが日本語入力ソフトをつくって販売するという話があった。そんな時、わたしや友人らの日本人たちはマイクロソフトの野望を笑い飛ばしたものだ。アメリカ人が日本語入力ソフトをつくるの? 漢字読めるの? ひらがなやカタカナだってあるのにねえ? それが、あれよあれよという間に一太郎は追い立てられ、WORDが席巻してしまった。OSとの抱き合わせ販売というマイクロソフトの知略が奏功した事例である。ライバルを吸収するか潰していく、あるいはOSのバージョンアップやサポート終了で買い替えを促すゲーツ商法はいつまで通じるんだろうか。ゲーツ帝国を崩壊させ、追い立てるのは誰か。今のところグーグルがその1番手みたいだが、さて伏兵はどこからやって来る。中国? はたまたインドか?


ロボットによる、ロボットのための、ロボットの国家というものは誕生するだろうか。いや、人間は誕生させるだろうか。家畜を飼うように、どこかの区域に囲うだろうか。鎖国時代、外国との貿易が制限されていたとき、長崎の出島にオランダ人が居住させられたように、知性を持ったロボットはビル内の一角か、離れ小島か、宇宙空間の衛星の中で人間によって管理監督されるのか。犬や猫のように人間の生活の中に入り込み、どんどん知性を高めていくロボットたち。ヒューマノイドロボットと結婚する人間が出てくる時代に、ロボットは愛と殺意を知ることになる。


電気は大丈夫でしょうね?

多分ね。

水道は大丈夫でしょうね?

多分ね。

ガスは大丈夫でしょうね?

多分ね。

コンビ二への物の供給も大丈夫でしょうね?

多分ね。

銀行も大丈夫でしょうね?

多分ね。


じゃあ、生活安泰でしょうね?

それは分からん。まったく分からん。絶対に分からん。









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