インスタグラムに投稿している美魔女とスターバックスで珈琲を呑みながら「来年はなにをする?」と尋ねる。
そうねえ、ドローンの操作を学ぼうと思っているのよ。
ドローン?
そうよ。
空撮でもやるの?
地上での撮影だけでなく、俯瞰した作品を創ってみたいのよ。
美魔女はアクリル画を描いて個展を開いて作品が売れたり、一眼レフからスマホまでをこなして風景や風物、花などの写真を撮って日々是感性の暮らしをしている。ドローン操作を習得することで、虫の眼の視点に鳥の眼の視点を加えようとの想いのようだ。写真や絵の作品世界を広げようと意欲満々で、常に現在進行形の主でもある。
ドローンが登場する前は、空撮と言えばヘリコプターが主役だった。ヘリ撮影は経費が半端でないほど高額なので、マスコミや官公庁など特定の機関・団体や製作費に糸目をつけない映画会社などが活用し、個人で利用するには難があった。ドローンの登場によって空撮の手法がアマチュアからもろもろのプロに至るまで瞬く間に広がった。撮影のための新たな機材と手法のお目見えによって、インターネットでの写真や動画の投稿を加熱させることにつながっている。ドライブレコーダーが登場した時も新しいもの好きのドライバーらが走行状況や事故の様子を投稿したり、果てはあおり運転の動かぬ証拠としてネットやテレビニュースに画像が流れるようになった。
美魔女は話を続ける。
お友達のプロ写真家の男性にもドローン習得を勧めているのよ。空撮も含めて新しい映像世界を創りださなくてはね。
わたしは想う。空撮をする愉しいドローンもあれば、空爆をしかねない怖いドローンもありそうだ。今の時代を象徴する新しい技術は天使と悪魔の顔を併せ持っている。
忘年会をしよう! 知人に誘われて1次会は寿司屋で歓談、2次会は知人お気に入りのママがいるスナックへ。チーママを娘がやっていて浅田真央にちょっと似ていることもあり、彼女とお話しがしたいがために通う常連もいるほどだ。医者や経営者、行政幹部など客筋は良く、スナック業という栄枯盛衰が激しい業界で長年にわたり生き残っているのは、ママの客あしらいの良さゆえだろう。美人ママとはちょっと違うし、話題豊富なママとも違う。それでも客が集まってくる。黒を基調とした内装の静かな店内で、客たちが寛げるような雰囲気をママがもたらしているのかもしれない。それはどんな雰囲気なのかと突っ込みが入りそうだが、雰囲気を言葉で説明するのは案外難しい。スナックの雰囲気―それはママの魅力と同じ―を花に例えるならば、ヒナギクやパンジー、ヒマワリ、桜、梅、牡丹、菖蒲などいろいろあるが、この店の場合は真紅の薔薇だろうか。
知人は映画通であり、わたしは映画好きである。ここに来れば、なぜか映画の話になって、わたしたちの会話を目の前でママは聞く羽目になる。知人が役所広司と知り合いということで、俳優としての彼の話になった。
知人が言う。
仲代達也の無名塾で学んだ後、NHKの時代劇・宮本武蔵に出てから、俳優としてどんどん成長していったよね。今じゃ、日本を代表する俳優だよ。
ママがこの話に加わる。
お店に来てくれたことがあったけど、とっても素敵だったわ。高級そうなブレスレットをさりげなくしていたけれども、それが様になっていて洒落ているのよ。
知人が反応する。
まあ、俳優だからな。
ちょっと妬き気味である。話は続いていき、日本映画を代表する男優は誰なのかとなった。
知人が先発する。
役所広司か、高倉健か。
わたしがボールを受けて投げ返す。
ちょっと違いますねえ。役所広司はどんな役をやっても役所広司でしょう。高倉健も同じで、高倉健は高倉健を演じてますよ。アメリカの俳優でロバート・デ・ニーロなんか、まさに役になりきってて、デ・ニーロだとは感じさせませんね。
知人がわたしに尋ねる。
じゃ、日本には誰がいるのかな。
わたしが反応する。
三船敏郎なんか最高でしょう。戦後の経済復興期、社会の混乱期に登場した三船の魅力は荒々しさと精力的、精悍なところ。敗戦国日本で生きる逞しさを感じさせる俳優ですね。羅生門なんか最高でしょう。
知人が応じる。
そうだな。あれは監督は黒澤明だった。確か、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を取ったんだったよね。
わたしがうなずく。
そうです。
映画通と映画好きの会話はアルコールの酔いにまかせて、いつまでも続く。
話がひと段落した。毎日赤ワインのフルボトル1本を開けるという酒豪のママに尋ねる。来年はなにをする?
そうねえ、やっぱり健康づくりかしら。カーブスにでも通うかなと思っているのよ。男も捨てられる前に、こちらから捨ててやったしね。この業界、健康じゃないと務まらないから。
ワインの量を少し減らした方がいいのでは。口に出そうになったが、ぐいっと呑み込んだ。ワインも男も客あしらいも百戦錬磨のママに野暮な助言は無用だ。知人もわたしもすっかり呑まれたようだ。それもひと呑みで。