買う。ではない。飼う。である。飼育する。である。実家の台所で高麗人参秘酒を見つけた。流し台下の収納部分を整理していて、奥の方に押し込められた酒瓶を手にしたのが端緒となった。容量750ml。アルコール分25度、エキス分4%未満。原産国大韓民国。ラベルに飲酒は20歳を過ぎてからと印刷してある。とっくの大昔に過ぎているから呑む権利はある。しかしながら、肝心の中身がすっからかん、呑み干してある。よく見ると、瓶の底部分に何やら横たわっている。浸けてあった高麗人参のようだ。生死不明だが、瓶から救い出すことにする。
スクリューキャップを回して開ける。瓶口からは香りらしきものはしない。瓶を逆さまにしてみる。底の部分から瓶口の方へ移動したが、隘路となっている部分に引っ掛かっている。箸を使って引き出し、まな板の上に載せる。それは広い意味で生き物であり、細かい意味では植物の根の一部である。アルコールに骨の髄までではなく、根っこの髄まで浸かっていた上、キャップで栓がしてあって密閉されていたことや、流し台の収納部分の薄暗いところにあったことなどから、劣化が進まない状態となっていた。触ってみても生きているような弾力や手応えがある。瓶に張ってある紙製ラベルの劣化具合から結構な歳月が経過しているみたいだ。
まな板の上の高麗人参を生物学的に観察する。体長およそ15cm。イカのようにも見える。色合いは黄色をかなり淡くした感じだ。全体の半分が根っこの本体となり、残りが本体から4本ほど枝分かれした根とそれらから伸びた髭根となる。髭根は神経か毛細血管みたいに絡み合っている。このままでは空気に触れて乾燥して縮み、即身仏ならぬミイラ化した高麗人参となってしまう。歳を重ねるにつれて心の中に博愛精神や慈悲の気持ちが増してきた。なんとか助けなくては!
まずは小皿に移してラップで覆った。陸に揚げられた魚を活かすのに水槽が必要なように、アルコールの水槽に浸してあげなくては。酒屋に走る。大韓民国産だから当地の酒をまず探す。JINROしか置いていない。色付き瓶であるため、高麗人参を入れ込むと姿がよく見えなくなる。マムシ酒やハブ酒のように本尊がはっきり見えないと、効き目が期待できない。気持ちが昂ぶらない。瓶が透明な国産焼酎を見ていく。高麗人参を納めるのに相応しい焼酎にして、瓶の形も高麗人参の姿が生き生きと見えるものでないといけない。よし、これだ! 焼酎の名前と色合い、瓶の形のいずれを取っても、高麗人参を同居させるのに相応しい銘柄を見つけた。
神の河(かんのこ)。3年貯蔵ものである。鹿児島県枕崎市立神本町26、薩摩酒造株式会社製造。容量720ml。アルコール分25度。原材料は麦と麦こうじ。百%単式蒸留。色は琥珀色。2014年12月17日瓶詰め。封を切ってコルク栓をゆっくりと抜き上げていく。お猪口に少量を注いで味見。オンザロックで2、3杯呑みたい気分だが、ここはじっとこらえて高麗人参の水槽専用にする。頭から入れ込んで、箸でゆっくりと押し込む。根っこの本体部分を下にしてじわっーと底の方へ沈んでいく。琥珀色の世界に潜む生命体のようだ。
神の河の中で飼い始めて数日が過ぎた。毎日見るのが愉しみとなってきた。心肺停止状態から奇跡の復活を果たしたみたいだ。麦焼酎への拒否反応もなし。髭根も心なしか伸びたみたいな気がする。食卓の上に置いて毎日眺めている。以心伝心。高麗人参の運気を酒瓶越しにもらっている。回りの反応は必ずしも芳しいものではないようだ。「ホルマリン漬けの標本みたい」「オットセイのあれみたい」「そのうち泳ぎ出しそうで気味が悪い」。悪評にもめげず、瓶の中の高麗人参は日に日に生き生きとしてきている。オットセイのあれか……。見たことはないが、いいぞ、その調子だ。頑張れ、高麗人参!
スクリューキャップを回して開ける。瓶口からは香りらしきものはしない。瓶を逆さまにしてみる。底の部分から瓶口の方へ移動したが、隘路となっている部分に引っ掛かっている。箸を使って引き出し、まな板の上に載せる。それは広い意味で生き物であり、細かい意味では植物の根の一部である。アルコールに骨の髄までではなく、根っこの髄まで浸かっていた上、キャップで栓がしてあって密閉されていたことや、流し台の収納部分の薄暗いところにあったことなどから、劣化が進まない状態となっていた。触ってみても生きているような弾力や手応えがある。瓶に張ってある紙製ラベルの劣化具合から結構な歳月が経過しているみたいだ。
まな板の上の高麗人参を生物学的に観察する。体長およそ15cm。イカのようにも見える。色合いは黄色をかなり淡くした感じだ。全体の半分が根っこの本体となり、残りが本体から4本ほど枝分かれした根とそれらから伸びた髭根となる。髭根は神経か毛細血管みたいに絡み合っている。このままでは空気に触れて乾燥して縮み、即身仏ならぬミイラ化した高麗人参となってしまう。歳を重ねるにつれて心の中に博愛精神や慈悲の気持ちが増してきた。なんとか助けなくては!
まずは小皿に移してラップで覆った。陸に揚げられた魚を活かすのに水槽が必要なように、アルコールの水槽に浸してあげなくては。酒屋に走る。大韓民国産だから当地の酒をまず探す。JINROしか置いていない。色付き瓶であるため、高麗人参を入れ込むと姿がよく見えなくなる。マムシ酒やハブ酒のように本尊がはっきり見えないと、効き目が期待できない。気持ちが昂ぶらない。瓶が透明な国産焼酎を見ていく。高麗人参を納めるのに相応しい焼酎にして、瓶の形も高麗人参の姿が生き生きと見えるものでないといけない。よし、これだ! 焼酎の名前と色合い、瓶の形のいずれを取っても、高麗人参を同居させるのに相応しい銘柄を見つけた。
神の河(かんのこ)。3年貯蔵ものである。鹿児島県枕崎市立神本町26、薩摩酒造株式会社製造。容量720ml。アルコール分25度。原材料は麦と麦こうじ。百%単式蒸留。色は琥珀色。2014年12月17日瓶詰め。封を切ってコルク栓をゆっくりと抜き上げていく。お猪口に少量を注いで味見。オンザロックで2、3杯呑みたい気分だが、ここはじっとこらえて高麗人参の水槽専用にする。頭から入れ込んで、箸でゆっくりと押し込む。根っこの本体部分を下にしてじわっーと底の方へ沈んでいく。琥珀色の世界に潜む生命体のようだ。
神の河の中で飼い始めて数日が過ぎた。毎日見るのが愉しみとなってきた。心肺停止状態から奇跡の復活を果たしたみたいだ。麦焼酎への拒否反応もなし。髭根も心なしか伸びたみたいな気がする。食卓の上に置いて毎日眺めている。以心伝心。高麗人参の運気を酒瓶越しにもらっている。回りの反応は必ずしも芳しいものではないようだ。「ホルマリン漬けの標本みたい」「オットセイのあれみたい」「そのうち泳ぎ出しそうで気味が悪い」。悪評にもめげず、瓶の中の高麗人参は日に日に生き生きとしてきている。オットセイのあれか……。見たことはないが、いいぞ、その調子だ。頑張れ、高麗人参!