【 PUBLICITY 】 1430 :渋谷才星(その4):静かな変化(前編)

2006-07-18 23:09:19 | ジャーナリズム
仮に「海老沢体制」と呼ばれるものがあったとしたら、それはトップダウンを重視しすぎた故の現場軽視の風潮だろう。その代表的な事例が、繰り返し書いてきた経営の現場への過度な介入だった。本当に「海老沢体制」と決別するのであれば、
このシステムを変えなければ意味がない。

第1レポートp220
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メールマガジン「PUBLICITY」

■□□□□□□□□□□□□□□□■No.1430 2006/07/18火■



           ◇◆◇目次◇◆◇


【本誌発刊5周年記念フリースピーチ】
渋谷才星(NHKの放送現場で働く職員/その4)
静かな変化(前編)


           ◇◆◇  ◇◆◇



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【えとせとら】

▼前回(第3回)までの渋谷才星さんのフリースピーチは、海
老沢会長退陣前の、NHK職員の知られざる奮闘の様子をたど
ってきた。まさか辞表まで出して戦ったNHK職員がいたとは。

第4回の今回からは、これまでも触れてきた毎日新聞、朝日新
聞の報道に加え、週刊誌、TBSニュース23、ワイドショー
などNHK問題に関わった他メディアの動向にも触れながら、
「NHK論議」で「本当に問われているもの」へ迫りたい。

その意義はたぶん、NHKという一組織に留まるものではない。


【本誌発刊5周年記念フリースピーチ】

▼渋谷才星(その4)
(NHKの放送現場で働く職員)


【4:静かな変化(前編)】

■毎日新聞。週刊誌報道

──日放労による会長辞任要求も不発、シンポジウムも不発。
メディアも取り上げず。手が尽きたと。それが2004年11
月初旬ですね。

渋谷:ええ、さっきも言いましたけど、当時は、海老沢会長が
やめるなんて、考えられない状態でした。動きが止まった感じ
がした。このままの体制が続くのか、と。

──そこで、他のテレビや新聞が取り上げるわけですか。

渋谷:まず言えるのは、NHK問題の報道は、「いっとき冷え
込んだんだけど、冷え切ったわけではなかった」ということで
す。完全に無視されたわけではなかった。これは大きいです。

そして、NHK職員が感謝すべきは毎日新聞です。いわゆるマ
スメディアの中では、毎日のNHK問題取材班が最も丁寧に取
り上げ続けてくれた。正確な動きを記録に残してくれました。

──週刊誌はどうなんですか。実質的な第一報は週刊誌じゃな
いですか。

渋谷:確かに時系列でいえば、週刊文春のスクープが今回の問
題の火付け役になったし、あと、週刊新潮が抜いたソウル支局
長の水増しのスクープも大きかったですよね。

──「夜の帝王」ですね(「週刊新潮」2004年9月9日号
/汚れたNHK「海老沢王国」の落日/巨額裏金豪遊でもクビ
にできない夜の帝王ソウル支局長)。

渋谷:あのときは、週刊新潮と週刊文春の争いのなかで、「夜
の帝王」の話が出るわけですが、ソウル支局長が、関連会社を
使って裏金をつくって、把握しただけでも3000万飲み食い
で使いましたと。このソウル支局長が政治部出身だったので、
問題がさらに大きくなりました。

「NHKの報道局では政治部が強大な力を持っている」と、み
んな言いますが、そうなんだけど、それはNHKだけじゃなく
て、たとえば讀賣新聞だってそうですね。歴代の編集局長は政
治部がやっている。NHKの報道局長も多くは政治部出身者で
す。

だから、上層部は“なあなあ”ですませようとした。しかし、
そういう時代は終わった、という証左のように、みんな受け止
めましたね。あれ以降、経理のチェックはものすごく厳しくな
りました。

それから、問題として明確に意識されたのは、ルールは一応あ
るけれども、「属人性」がすごく強い、という、“あの人だっ
たら、破っていい”みたいな空気ですね。

──あー、あるでしょうねえ。

渋谷:「他の人はだめだけど、おれだったらいいんだよ」とい
う振る舞いが、かなり罷り通っていた。海老沢会長時代の、大
きな特徴と言えるかも知れない。

海老沢さん自身も能力があったんだろうし、そういうことで昇
っていったんだけど、その下にいる人たちもみんな、「おれは
違うんだぞ」みたいな世界をつくっちゃったわけです。

でも、あの人がやっていいから、おれもやっていいか、といっ
たら、お前はダメだよ、っていう。

往々にしてどこにでもあるのかも知れないけれども、度が過ぎ
たと思うんですよ。やっぱり、下が、いちいち上を見るように
なるから。

それはね、実力があって、発言力があって、しかも悪いことを
しても大丈夫な人に、みんなついていくわけです。そういう悪
い傾向に、特に、海老沢さんがやめるまでの4、5年ってのは
、拍車がかかった。派閥です。何々派、何々派とかいって、何
々派の中に分派があって、というような。

──ははー。

渋谷:あの人は海老沢会長に会える、とか、海老沢会長と話せ
る、とか。その話の信憑性を、下が判断して、くっついていく
わけです。

どこにでもあると思うんだけど。度を過ぎちゃうと、ほんとう
に仕事にならない。

ある人が「“海老ちゃん”がこう言ってたんだよ」と言う。そ
の人が実際に何をやってるか知らないんだけど、「海老沢さん
のことを海老ちゃんって言ってるこの人は、すごいんじゃない
か」みたいな。

──……。


■編集権の内実/属人性の弊害/「事実」は「真実」か

渋谷:だから、「世界」で書きたかった大きなポイントの一つ
は、「会長ってなんだ」「指導者ってなんだ」という問いかけ
です。


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▼現在、NHKの「編集権」は会長が持つとされている。19
70年にNHKの法規室が作成した解説書には「編集権」につ
いて、こう記されている。

「この権限は、会長の業務執行権限の中枢をなし、さらに協会
内の業務執行権限体系により、指揮監督の編み目により放送番
組管理業務の末端までおよんでいる。

したがって、単位番組の企画から個別番組の制作・送出にいた
る編集・放送のすべての段階において、一般職員の業務は、す
べて就業規則による業務遂行上の義務であって、編集に参画す
る権利が一般職員に与えられているものではない」。

▼現状では、経営権を有する会長が独占的に編集権を有してい
る事になる。しかし、現実には全ての番組について会長が編集
権を行使する事はあり得ない。

つまり、現状でも、会長の有する編集権は、通常には行使され
ない権限として置かれているものと見られる。

▼経営権から編集権を分離させて現場のトップに付与する事で
、編集権は常に行使される権限となる。報道番組の編集権は報
道局長が持つのだ。会長に経営権、報道現場のトップに編集権
が置かれる。経営権を有する会長と経営陣は経営に専念し、編
集権を得た放送現場は番組の制作に専念する。

当然、権利は義務を伴う。編集権を行使する報道局長の責任は
従来より格段に重くなる。視聴者への説明責任も生じてくるだ
ろう。報道局長は定期的にテレビに出て、視聴者に対してNH
Kの立場を説明する事も必要になるだろう。

▼一方で、経営権を持っている会長は、当然、現場を指揮する
権限を持っている。しかし、それは経営権を行使する中で編集
権に影響を及ぼす形にとどめる。

そうすれば、今のような直接的な経営の現場への介入は避けら
れる。

経営陣に「編集権」がなければ、経営陣が国会への予算・事業
計画の説明などに回る事は問題にならないだろう。経営にとっ
て必要と思われる事を、堂々とやってもらいたい。

(中略)

▼議論を急進的に進める必要はない。経営の現場への介入に歯
止めがかけられればよいのである。それがBBCや(編集権は
経営に属するものの現場の行使する権限を最大限に担保してい
る)西部ドイツ放送協会のような形でも構わない。

第1レポートp217-9
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渋谷:経営者が編集権も持っていて、行使する。いいんですよ
、真っ当に行使してくれれば。

海老沢さんは、私はテレビが好きでNHKをしょっちゅう見て
る、と言ってたけども、一つ一つ、ほんとに深く番組の本質か
ら知って理解して言っているわけではなくて、感性で言ってい
た。

パッと見て、なんだこれは、と思うと、それを言う。それで、
結果的に現場は混乱していくわけですよ。

たとえば、朝の連ドラで、若い主人公がキスをするシーンがあ
った。それを見て、「朝からキスをするとは何事だ!」と怒っ
た。それで、若者が愛し合っていることを、キス以外でどう表
現すればいいのか。そういうことで現場は困っていたわけです。

いまやってる「純情きらり」では、キスシーンもあったから、
風通しがよくなったのかなと思いますが。

──はー、そんなこともあったんだ。

渋谷:編集権を行使するなら、会長がずーっと現場の作業をみ
ていて言うんだったら言行一致だけど、そうじゃなかった。

──うんうん。

渋谷:これも情けない例で、編集権云々以前の話だけど、たと
えば、記者が中継しています。中継中に、メモを読みました。

そうしたら会長が、おれが若い頃は、メモなんか見なかった、
と言う。すると現場に、「メモを一切読むな」という指示が来
るわけです。

──え~。

渋谷:でも、それはどう考えても不自然なわけですよ。

メモを読まないってことは、カメラの下にカンペ出してね、そ
の字をずーっと追っていくわけだから、だんだんレポーターの
「目線」が下がってくる。そんなレポートってないでしょう。

だから、わかんないところはメモみながらやればいいわけで。
ひどいときには、メモを見てなくても、レポーターがなにか紙
を持ってるのが画面に映っただけで、「なんでそんなものを持
ってるんだ」という話になったり。

──それ、海老ちゃんが言うわけですか。

渋谷:海老ちゃんが言っているのか、四人組なのか十六人組な
のかわかんないけど、誰も検証できないですよ。現場の人は、
誰一人として海老沢さんに会えるわけではないから。

「彼の発言」がそうやって「斟酌(しんしゃく)」されて、下
に下りてくる。「属人性」の弊害です。

だから、会長が、会長として本当にNHKの行く末を考えてい
るのであれば、経営責任者として、経営の最前線に立って獅子
奮迅の活躍すれば、誰も文句は言わなかった。あれだけの能力
を持っている人ですから。

それを、中途半端に現場に介入してきて、週刊誌が書いてるも
のが全部ほんとかどうかわからないけれども、人事権を使って
、報道の現場で自分の好みの人間を重用するという話になって
くると、狂ってしまう。経営陣として重用するならいくらでも
結構だけど。この会社を、何処にもっていこうとしているのか
、迷走していたと言わざるを得ない。

──その極端な「属人性」の膿は、出たんですかねえ。

渋谷:海老沢さん本人が不祥事を起こしたわけじゃないんだけ
ど、組織の構造を、腐敗が起こりやすいように歪めたと言わざ
るを得ない。しかし、海老沢さん個人のミスではない。マスメ
ディアの大きな流れをつくるエスタブリッシュメントの人々は
、海老沢さんに起きていることを、わが身に置き換えて考えた
だろうから、動きが鈍かったんでしょう。

逆にいえば、不祥事は、組織の内部で、その不祥事を隠そうと
する勢力が強かったか、弱かったか、という問題でもあって、
根元から斬るくらいの力が、海老沢さんにはあったと思います。

水戸黄門みたいに、助さん角さんを使えればよかったんだけど
、火だるまになってしまった。そして、橋本会長には、残念な
がら根っこから切る力そのものがない。今はほんとうにサンド
バックになっている。

週刊誌の報道は、腐敗の構造をパッと照らしたんだけど、構造
そのものを問うところまでは行かない。醜聞の暴露だけでは、
腐敗の構造は変わらない。

ましてや、スキャンダリズム一色になってしまえば、真実が見
えなくなる。だから、ぼくは敢えて「事実は真実ではない」と
言いたいです。「それは役割が違うよ」と言われちゃうんだろ
うけど。

(つづく)


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メールマガジン「PUBLICITY」
竹山 徹朗
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